『9話 覚悟』
【20時 七星の部屋】
もうすっかり暗くなり、寝る時間だ。
仕事は明日の18時からのようで、少しドキドキしている
七「…」
塔「…七星、ちょっといいか?」
七「…うん」
維月パイセンが部屋に入ってくる
まだ制服を着ていて、血が服に飛び散っていて、仕事終わりだとわかる
塔「どうだ?ここでの生活は慣れたか?」
七「まだ一日目だからなんとも…」
塔「…そうか、色々あったから疲れただろ」
七「まぁ…」
昨日からの二日間、俺は人生で初めての体験ばかりしていた
初めての先輩、仕事、集会、仲間、黒毛和牛…
きっとあのままゴミ捨て場にいたら体験できなかっただろう
塔「…少し、ついて来て欲しい」
七「…どこに?」
塔「それはついてからのお楽しみだ」
七「…わかった」
俺は維月パイセンについて行くことにした
【地下一階 武器倉庫】
エレベーターを使い、ついた先は武器がたくさんある、薄暗い部屋だった
塔「…明日から仕事だからさ、武器を選んでもらう」
七「…なんでも好きなのでいいんすか?」
塔「もちろん、自分に合う武器を選べよ」
七「…」
銃、剣、弓、ハンマー…ハリセンボン
なんでも揃っている
七「…これ」
塔「ん?…それはスプーンだな」
七「これも武器?」
塔「あぁ、目を穿れるしな。たまに泉田が使ってるのを見たことあるぞ」
そんなことするのか…
俺は1時間ほど悩んだ
七「…これにするか」
塔「…ナイフ?」
俺はナイフにすることにした
よく見る出刃包丁で、握りやすい
塔「いいじゃないか、初心者向けだ」
七「ちなみにパイセンは何使ってるんすか?」
塔「俺もナイフだな、少し形は違うが」
七「ふーん…」
まぁ、パイセンと一緒ならなんとなく上手く使えそうな気がする
塔「…なぁ、七星。それで俺を刺せるか?」
七「…は?なんで?」
塔「お試しだよ。」
七「………」
七「無理。」
塔「…」
お試しで人にナイフなんて刺すことはできない
塔「…もし、仲間内に裏切り者が出たら、俺たちがそいつを殺さなきゃいけない」
七「…」
塔「過去に3人ほど裏切り者が出たけど…」
塔「一人目は火に投げ込まれて、二人目は銃で殺されて、…3人目は崖から突き落とされて」
塔「全員そうやって仲間に殺されて来た。」
七「……」
塔「…もし俺が裏切り者だったら、もし殺すのが七星に決まったら」
塔「…殺せるのか?」
七「…」
無理だ。
出会って二日とはいえ、仲間を殺すなんて
塔「…覚悟が足りないな。」
そう言うと、維月パイセンは振り返らずに帰って行った
……【地上】
塔「…」
電「あーあ、刺せんかったか」
塔「…そうだな」
電「でも落ち込まないでよ、刺せた人の方が稀だって」
塔「だけどな…」
塔「…もし、またあんなことが起きたら…」
電「…大丈夫だしん、アタシがなんとかする」
塔「…悪い」
【地下】
七「…」
覚悟…
そんなものない。勝手に連れてこられて勝手に仕事をやらされるだけなのだから
俺に出来るのは精一杯やるってことだけで
責任感だの、覚悟だの
これっぽっちも感じなかった
ただ、去って行くパイセンの姿はどこか寂しくて
少し、嫌だった
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