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引っ張られた感覚で大和先輩が立ち止まり、こっちを見る。
「何?」
「えっと…」
俺はそこで口を噤み、俯く。そんな俺を見て、大和先輩は再び歩き出そうとする。
俺は掴んでいた冬馬さんの腕をぐいっと引っ張る。
「何だよ」
大和先輩は少し苛ついた様子でそう言う。
「…この後佐野さんと予定があるんです。だから、勝手に佐野さんの事連れて行かれたら困ります」
「あー…そう。それは悪かったな。また出直してくるわ」
大和先輩はそう言って冬馬さんの腕を掴んでいた手を離す。
「じゃあね。冬馬。と…」
大和先輩はそこで言葉を止め、俺に近寄る。
「後輩くん」
大和先輩はそう言って俺の肩をポンッと叩く。
「…はい」
大和先輩は俺の返事を聞いてニコっと笑った後、その場を去っていった。
大和先輩が去ったのを確認し、俺は冬馬さんの方を見る。
「大丈夫ですか?」
「うん。平気。ごめんね。春人の事巻き込んじゃって」
「俺は全然。俺こそすみません。俺が冬馬さんの恋人だって言えば済んだ話なのに、俺のせいで回りくどいこと…」
「春人は悪くないよ。俺の前で素直になってくれるだけで充分だから」
冬馬さんはそう言ってニコっと笑う。でも、少しぎこちない笑顔だ。本当は充分だなんて思ってないのだろう。
(俺のために強がって…)
俺はそう思いながら俯く。そんな俺を見て冬馬さんは言う。
「…行こう」
そのまま歩き出す冬馬さんに俺は黙ってついていくことしか出来なかった。
窓の外の空がゆっくりと黒く染まる中、ベットの上で押し倒した冬馬さんにキスをする。
「んっ…」
唇を重ねるたび、胸の奥の黒いものが溶けていく。
首筋や鎖骨にキスをする。
「好きです」
時々そう言いながら、冬馬さんの体中に何度もキスをする。言葉にしなきゃ伝わらない気がするから。触れていなきゃどこかに行ってしまいそうだから。
「冬馬さん。大好きですよ」
そう言いながら何度も何度もキスをする。
「俺も大好きだよ。春人」
そう言って冬馬さんは俺に笑いかける。その笑顔を見ていると、なんだか少しだけ胸が苦しい。
俺はその苦しさに気付かないふりをして再び言う。
「大好きです」
窓の外は完全な黒に染まっていた。
それから数日が経った頃。今日は俺の誕生日だ。仕事終わり、冬馬さんの家に行く。冬馬さんは俺のために少し豪華な夜ご飯を作ってくれている。
そして主役の俺は、ただ食卓に着き、冬馬さんを眺めていた。冬馬さんは「座ってて」って言ってくれたけど、ただ待っているだけなのも申し訳ないと思い、俺は立ち上がり、冬馬さんに近づく。
「冬馬さん。なんか手伝うことないですか?」
「こらっ。春人。座っててって言ったでしょ?主役は何もしなくていいの」
冬馬さんはそう言いながら俺を無理やり椅子に座らせる。
「ちょっと冬馬さん。俺にも手伝わせてくださいよ〜」
「ダメだってば」
「嫌です。何でもいいからやらせてください」
「え〜。う〜ん…」
冬馬さんはそこで口を噤み、考える素振りを見せる。
「あっ」
冬馬さんはそう言って何かを思いついたような顔をする。
「春人くんに手伝って欲しい事あった」
「なんですか?」
「俺の事見守る仕事を与えます」
冬馬さんはドヤ顔でそう言う。
「ちょっと冬馬さん。それじゃあ今やってた事と変わらないじゃないですか」
「あと…」
冬馬さんはそう言って俺の顔を覗き込む。そしてそのまま、俺の口にキスをした。
「なんですか。急に」
「春人でエネルギー補給。これも立派なお手伝いだからね」
冬馬さんはそう言って俺の頭を撫でる。
「もう。分かりましたよ。俺は冬馬さんを見守る仕事をちゃんとします」
そう言って俺が冬馬さんをじっと見ると、冬馬さんは再び俺の頭を撫でる。
「いい子だね」
冬馬さんはそう言って満足そうにキッチンに戻っていった。
それからしばらくして料理が出来上がり、冬馬さんが食卓に並べる。
(これって…!)
「ラザニアですか?」
俺が笑顔でそう言うと、冬馬さんは嬉しそうな顔をする。少し前に食べたい料理聞かれたけど、このためだったのだろう。
「春人に喜んで欲しくて。初めて作ったから美味しくできたか分かんないけど、愛情はたっぷりだよ」
冬馬さんはそう言ってニコっと笑う。
「ありがとうございます。いただきます」
俺はそう言ってラザニアを一口食べる。
(美味っ!)
美味しさのあまり無言でもぐもぐしてしまう。
そんな俺を見て、冬馬さんが言う。
「美味しい?」
「めっちゃ美味いです」
俺が笑顔でそう言うと、冬馬さんはホッとしたような顔をする。
「よかった」
「ほら、冬馬さんも早く食べてくださいよ。めっちゃ美味いですから」
「うん」
冬馬さんはそう言った後、ラザニアを一口食べる。
「ほんとだ。美味しい」
冬馬さんはそう言って嬉しそうに笑った。
ラザニアを食べ終わると、冬馬さんはロウソクに火の付いたケーキを持ってくる。
冬馬さんが誕生日の歌を歌った後、俺はロウソクの火を消した。
「おめでとう。春人」
そう言って冬馬さんはニコッと笑う。
「ありがとうございます」
俺がそう言うと、冬馬さんは立ち上がって言う。
「ちょっと待ってて」
そう言って冬馬さんは棚の引き出しから白い封筒を持ってくる。
「なんですか?それ」
「これ、誕生日プレゼント」
そう言って冬馬さんは白い封筒から2つに折られた紙を取り出す。
「手紙ですか?」
「うん。今から読むから、ちゃんと聞いててね」
冬馬さんはそう言った後二つに折られた紙を開き、静かに息を吸った。
世界で一番大好きな春人へ
誕生日おめでとう。
それから、生まれてきてくれてありがとう。
春人と初めて会ったあの日から俺はずっと春人のことが大好きです。
傷ついた事もあったし、少し強引なこともしちゃったりしたけど、今思えばそれも悪くなかったかもって思ってる。
春人は俺たちが周りにどう思われるか気にしてるよね。
でも、春人は俺の事ちゃんと愛してくれる。
怖くても俺の事助けてくれた。
そんな春人は俺の自慢の彼氏だよ。
だからこれからも春人の隣にいさせてください。
冬馬より
冬馬さんが手紙を閉じた瞬間、俺の目から一粒の涙が零れ落ちた。俺は慌てて涙を拭う。
「…すみません。なんか嬉しくて」
俺はそう言って涙を拭ったが、涙はどんどん溢れてくる。
そんな俺を見て、冬馬さんは立ち上がり、俺のそばに寄る。
「そんなに喜んでくれたの?」
冬馬さんはそう言って俺の涙を拭ってくれる。
「すみません。涙全然止まらなくて」
「も〜。しょうがないな〜」
冬馬さんはそう言ったあと、両腕で俺を包む。
俺の視界は、すぐに冬馬さんの胸元でいっぱいになった。
「好きなだけ泣きな?」
冬馬さんはそう言って俺の背中を摩る。俺はそんな冬馬さんの背中に手を回し、服をぎゅっと掴んだ。