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おまる
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昨夜の熱情が嘘のように、 寝室は静謐な光に包まれていた。
カーテンの隙間からこぼれる朝陽が、もつれ合ったままの二人の体を柔らかく照らしている。
「……ん…っ」
重い瞼を開けると、すぐ目の前に瞬くんの寝顔があった。
普段の鋭さは影を潜め、どこか幼さの残る安らかな顔。
でも、私の腰を抱く腕は、眠っていてもなお離さないと言わんばかりに力強い。
私はそっと、彼の頬に指を滑らせた。
すると、彼は薄く目を開け、私の指先を捕まえて唇を寄せた。
「……おはようございます、凛さん。…よく眠れました?」
「おはよう。……ええ、あなたのせいで、かなり深い眠りだったわ」
冗談めかして言うと、彼は「それは光栄です」と低く笑い、私をさらに強く胸の中へ引き戻した。
肌と肌が触れ合う距離で、彼は私の左手を取り、薬指の付け根を愛おしそうに何度も撫でる。
「……凛さん。俺…昨日、ねえちゃんたちに言われて、改めて思ったんです」
彼の声から甘さが消え、真剣な響きが混じり始める。
「俺は、凛さんを一生甘やかす『権利』が欲しい。…ただの同居人や恋人じゃなくて、法的に、誰からも文句を言われない形で、凛さんの隣を独占したいんです」
「瞬、くん……」
「……正式に、俺の籍に入ってくれませんか? 凛さんの過去も、傷も、これから訪れる老いも、全部俺が引き受けたい」
それは、指輪さえ用意されていない、ベッドの中での唐突なプロポーズだった。
けれど、飾らないその言葉こそが、何よりも真っ直ぐに私の心に突き刺さった。
「…唐突すぎない?……でも、嬉しいわ」
私は彼の首筋に顔を埋め、溢れそうになる涙を堪えた。
「鉄の女」と揶揄され、誰にも頼れず、一人で戦ってきた日々。
そのすべての終わりが、この温かい腕の中にある。
「……私も、結婚するなら瞬くんがいい」
「……っ、……今の、録音しておけば良かった」
瞬くんは感極まったように私を抱きしめ、何度も誓いを立てるように深いキスを繰り返した。
朝日が昇り、新しい一日が始まる。
それは、私たちが「夫婦」になるための、最初の朝だった。