文化祭当日。校舎中がざわざわと賑やかに沸き立ち、生徒も来校者も笑顔で溢れていた。
「いらっしゃいませ〜♡ ご主人さま〜♡」
その中でも、ナマエのクラスのメイドカフェはかなりの人気を誇っていた。
『紅茶のおかわりですか? ふふ、甘めが好きなんですね〜』
高めの声に満面の笑顔、普段のナマエとはまるで別人のよう。
…そんな姿を、店の隅の席からじっと見つめる男子生徒が一人──出水だった。
(なんだよ、あの声……誰にでもあんな顔すんのか?)
軽く肘をついて笑っているけれど、どこか不機嫌そうなその目。
やがてメイドカフェの時間が終わり、ナマエは給仕エプロンを外して教室を出ていく。
──その後。
『うわ、いるじゃん。先輩』
ひよりは校舎の別の教室で売り子をしている出水を見つけて、腕を組んでにやりと笑った。
『仕方ないので行って“あげます”よ〜? 人気なさそうだし!』
「は? どの口が言ってんの、さっきまで『おかえりなさいませ♡』とかやってたくせに」
『えー? それとこれとは別ですー』
「ちっ……ほら、あんパンとジュースセットで250円」
『ありがとー♡ じゃ、これで先輩の売上にちょびっと貢献〜♪』
「……うるせーよ。てか、メイド姿……似合ってた」
『えっ、なに今の』
「言ってねーし」
『うわ、今言った! 赤くなってるー!!』
「黙れ」