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戴冠式の鐘は、偽りの葬送ではなく真実の産声として鳴り響いた。
記憶を取り戻し、ジェルの歪な献身のすべてを受け入れた私は
もはや彼に守られるだけの「箱入り娘」ではなかった。
私たちは、互いの罪と孤独を分かち合う
世界で唯一の共犯者となったのだ。
王位継承の儀式の当日。
私の正体を暴き、影武者を排除して
実権を握ろうと画策していた悪徳貴族たちは、広間に集結していた。
彼らは冷笑を浮かべ、私の失脚を確信していたに違いない。
だが、彼らの前に立ったのは怯える人形ではなく
すべてを悟った「女王」の瞳を持つ私だった。
「この国に、血の通わない王座は必要ありません」
私が凛とした声で宣言すると同時に、影に潜んでいたジェルが音もなく動き出した。
彼は私を貶めようとした貴族たちの汚職、そして三年前の襲撃に関与した証拠を次々と突きつける。
ジェルの圧倒的な武力と、私が民衆に示してきた慈愛。
その二つが重なったとき
不穏な野心に燃えていた者たちは、一言の反論も許されず、次々と沈黙していった。
混乱が収まり、静寂が訪れた大聖堂で、私は自らの手で重い王冠を戴いた。
それは「影武者」として与えられた重荷ではなく
私自身の意思で、この国と、そして隣に立つ男を守り抜くという決意の象徴だった。
それから、数年の月日が流れた。
かつて死に体だった王宮は、今や陽光と花々の香りに満ち
新しい生命の息吹を感じさせる場所へと生まれ変わっていた。
「シェリー。あまり根を詰めないで。君の体は、君だけのものではないんだから」
執務机でペンを走らせる私の背後から、低く甘い声が降ってくる。
振り返るよりも早く、逞しい腕が私の腰を抱き寄せた。
かつての氷のような冷たさは消え
今のジェルの掌からは、私を愛おしむ熱い体温が絶え間なく伝わってくる。
「……ジェル。少しくらい休憩させて。これじゃ、昔の『監禁』とあまり変わらないわよ?」
冗談めかして笑うと、ジェルは困ったように眉を下げ、私の白銀の髪に深く顔を埋めた。
今の彼は、王宮を守る無敵の騎士であり
私の最愛の夫だ。二人の間に秘密は何もない。
私の出生も、彼の過去も
あの日交わした禁忌の契約さえも、すべてを飲み込んだ上での「今」がある。
「監禁なんて、人聞きの悪い。僕はただ、君という光を、世界の誰にも一瞬たりとも渡したくないだけだよ。……愛しているよ、シェリー」
ジェルの溺愛は、真実を知る前よりもずっと、苛烈で独占的になっていた。
それでも、その狂気さえも今の私には愛おしい。
私たちが歩んできた血塗られた道のりは
この穏やかな午後を分かち合うための必要な通過点だったのだと、確信できるから。
彼は私の首筋に、消えない誓いのように深い口づけを落とす。
かつての私は、彼が作った「美しい嘘」の中に生きていた。
けれど今は、彼と共に作る「泥臭くて、けれど何よりも眩しい真実」の中にいる。
「私も愛しているわ、ジェル。……死が二人を分かつまで、いえ、その後も、ずっと」
窓の外には、新しい王国の平和な景色が広がっている。
かつて絶望の淵で出会った、青い瞳の少年と白髪の少女。
私たち二人の物語は、長い冬を越え、永遠に続く幸福な春へと、その第一歩を踏み出したのだった。