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71
活動を再開してから。
少しずつ。
毎日が戻ってきた。
仕事。
レッスン。
撮影。
移動。
九人で集まる時間。
忙しい日は忙しい。
疲れる日もある。
それでも。
以前とは少し違っていた。
誰かが疲れていれば。
ちゃんと休む。
無理な時は。
無理と言う。
大丈夫じゃない時は。
大丈夫じゃないと言う。
完璧にはできない。
今でも。
つい我慢することはある。
でも。
そのたびに。
誰かが気づく。
そして。
阿部自身も。
少しずつ気づけるようになっていた。
その日。
阿部と目黒の家には。
朝から九人全員がいた。
理由は。
特にない。
珍しく全員の仕事が午後からで。
佐久間が、
『朝ご飯一緒に食べよ!』
とグループチャットへ送った。
それだけ。
気づけば。
全員集まっていた。
「いや」
阿部はリビングを見回す。
「なんで朝ご飯で全員来るの?」
佐久間がソファに座りながら答える。
「いいじゃん!」
「いいけど」
「このマンションの意味なくない?」
「何が?」
「みんな自分の家あるじゃん」
康二が笑う。
「近いんやもん」
ラウールも頷く。
「エレベーター乗るだけだし」
深澤は。
すでにソファで岩本にもたれていた。
「俺もうここ第二の家だと思ってる」
目黒がキッチンから顔を出す。
「第二なんだ」
「第一は照と俺の部屋」
「そこはちゃんとしてるんだ」
岩本が笑う。
渡辺は。
宮舘の隣で。
眠そうにコーヒーを飲んでいた。
「朝からうるさい」
「翔太も来てるじゃん」
阿部が言う。
「涼太が行くって言うから」
「そうなんだ」
宮舘が。
「でも翔太の方が先に靴履いてたよ」
と静かに言う。
渡辺が振り返る。
「それ言わなくていい」
部屋に笑い声が広がった。
阿部も笑う。
九人入れるように作った。
広いリビング。
実際に九人いても。
十分余裕がある。
それなのに。
みんな好き勝手に座るから。
なぜか少しだけ狭く感じる。
佐久間が大きなソファを見る。
「やっぱさ」
「何?」
「魔王ソファあったら、もっと全員座れるんじゃない?」
阿部は即答した。
「いらない」
「早っ!」
「絶対いらない」
康二が笑う。
「でも座り心地よかったやん」
「見た目が嫌」
深澤も。
「黒と金だったもんね」
渡辺が。
「部屋の雰囲気全部壊れる」
と真顔で言う。
佐久間だけが。
「俺好きだったのに」
と残念そうだった。
朝食は。
宮舘と目黒が中心になって用意した。
パン。
卵。
スープ。
サラダ。
果物。
阿部も。
キッチンに立とうとしたけれど。
宮舘から、
「今日は座ってて」
と言われた。
「なんで?」
「昨日遅かったでしょ」
阿部は一瞬。
言い返そうとして。
やめた。
「……じゃあお願いする」
宮舘が笑う。
「うん」
それだけ。
以前なら。
「大丈夫だから」
と無理にでも動いていたかもしれない。
今は。
頼ることも。
少しずつ普通になった。
席につくと。
渡辺が阿部の皿を見る。
阿部も渡辺を見る。
数秒。
「何?」
渡辺が聞く。
「今日聞かないの?」
「何を」
「食べた?って」
渡辺は。
阿部の皿を見る。
「自分で言うでしょ」
「うん」
「じゃあ聞かない」
阿部は少し笑った。
「今日ちゃんと食べるよ」
「ならいい」
佐久間が。
「翔太ルールなくなった?」
と聞く。
「別にルールじゃない」
「一回までって言ってたじゃん」
「あべちゃんが勝手に作ったんだよ」
「でも今聞いてないね」
ラウールが言う。
渡辺は。
少しだけ阿部を見る。
「言うって信じてるから」
阿部の手が。
一瞬止まる。
それから。
小さく笑う。
「言うよ」
「うん」
簡単な会話。
でも。
夢の中で交わした約束が。
ちゃんと現実でも続いていた。
食事が終わる。
誰も。
すぐには帰らない。
佐久間はテレビを見始める。
康二はスマートフォンの写真を整理している。
ラウールは床へ座って。
何かの資料を読んでいる。
深澤は。
とうとう岩本の肩に頭を預けて眠り始めた。
渡辺も。
宮舘の隣で目を閉じている。
目黒は。
キッチンで食器を片付けている。
阿部は。
ソファに座りながら。
その光景を見る。
何もしない。
ただ。
同じ部屋にいる。
夢の中で。
一番欲しかったもの。
それが。
今では。
こんなにも普通になっている。
康二が。
ふとスマートフォンを阿部へ向けた。
「これ見て」
「何?」
昨日撮った。
九人の写真。
仕事終わり。
全員疲れていて。
誰もちゃんとカメラを見ていない。
阿部も。
笑っていない。
「いい写真でしょ?」
康二が言う。
阿部は少し笑った。
「うん」
「昔やったら消してたかもしれん」
「なんで?」
「みんなちゃんと笑ってへんから」
康二は画面を見る。
「でも今は残しときたい」
阿部も。
もう一度写真を見る。
「俺も好き」
「やろ?」
「疲れてるけど」
「それもその日の九人や」
夢の中。
康二が言ったこと。
笑っているところだけじゃなく。
その時の阿部を撮る。
今も。
続いている。
「送って」
「もちろん」
康二がすぐに送る。
阿部のスマートフォンが震えた。
新しい写真。
現実で。
また一枚増えた。
昼前。
一人。
また一人と。
仕事へ向かう準備を始める。
「じゃあ行ってくる!」
佐久間が玄関で大きな声を出す。
「ここ佐久間の家じゃないよ」
阿部が言う。
「でも帰ってくるかも!」
「自分の部屋帰って」
康二も笑いながら靴を履く。
「また夜な!」
「夜も来るの?」
「予定合ったら」
ラウールも。
「俺も早く終わったら来る」
阿部は。
呆れながら笑う。
「もう好きにして」
岩本と深澤。
宮舘と渡辺も。
それぞれ出ていく。
同じマンションだから。
別れの言葉も軽い。
「じゃあ下で」
「またね」
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
それだけ。
扉が閉まる。
静かになる。
目黒が。
リビングへ戻ってくる。
「急に静かだね」
「ね」
阿部はソファへ深く座る。
「でも」
「何?」
「すぐ近くにいるんだよね」
「うん」
「変な感じ」
「安心する?」
阿部は。
少し考えた。
「する」
目黒が笑う。
「俺も」
その夜。
仕事から戻った阿部は。
一人でリビングに座っていた。
目黒は。
まだ帰ってきていない。
昔なら。
一人の時間が。
怖くなる日もあった。
今も。
たまにある。
でも今日は。
静かなだけ。
阿部は。
棚から一冊のノートを取り出す。
夢から。
現実へ持って帰ってきたノート。
ページをめくる。
『九人で温泉に行った。』
『九人で歌った。』
『身体はちゃんと覚えていた。』
『佐久間とまた友達になった。』
『昔の俺も、今の俺も、全部連れて帰る。』
『九人で生きる。』
そして。
現実へ戻ってから。
『帰ってきた。』
『刺されなかった。』
『九人いる。』
『九人で本当の温泉に来た。』
『めめと二人で、次の家を探す。』
『九人で仕事に戻った。』
『怖かった。』
『でも、楽しかった。』
『また歌いたい。』
たくさん。
増えた。
阿部は。
最後のページを開く。
昔の日記は。
結局。
見つからなかった。
あの日。
自分が書いたもの。
『全部忘れたい。』
『しばらく一人で生きたい。』
もうアイドルなんてやりたくない。
誰にも会いたくない。
全部。
覚えている。
ノートそのものがなくても。
あの時の自分が。
いなくなるわけではない。
阿部は。
ペンを持った。
ゆっくり。
書く。
『今日は九人で朝ご飯を食べた。』
少し考える。
『佐久間が朝からうるさかった。』
思わず笑う。
『翔太に食べたか聞かれなかった。』
『康二に写真をもらった。』
そこで。
一度ペンを止める。
特別なことは。
何もない。
でも。
こういう日を書いておきたいと思った。
そして。
その下に。
続ける。
『怖いことは、まだある。』
『忘れたいと思ったことも、なくならない。』
『でも、忘れなくていい。』
ゆっくり。
一文字ずつ。
『全部覚えたまま、生きていく。』
最後。
少しだけ迷って。
でも。
やっぱり。
この言葉を書く。
『九人で生きる。』
ペンを置く。
阿部は。
しばらくそのページを眺めた。
夢の中で書いた時とは。
少しだけ意味が違う。
あの時は。
願いだった。
今は。
もう。
始まっている。
ガチャ。
玄関の扉が開く音。
「ただいま」
目黒の声。
阿部は。
ノートを閉じる。
「おかえり」
少しして。
目黒がリビングへ入ってくる。
「何してたの?」
「ノート書いてた」
目黒の目が。
すぐにノートへ向く。
「何書いたの?」
阿部は。
胸の前に抱える。
「内緒」
「また?」
「うん」
「ちょっとだけ」
「だめ」
目黒が隣へ座る。
「魔王は全部読んだのに?」
阿部の眉間に皺が寄る。
「だから余計見せない」
「俺の方が近いのに」
「そういう問題じゃない」
「婚約者なのに」
「関係ない」
目黒が笑う。
阿部も。
つられて笑う。
それから。
目黒が腕を広げた。
「充電する?」
阿部が見る。
「今日めめがするの?」
「疲れたから」
阿部は少し考えて。
ノートをテーブルへ置いた。
そして。
目黒の腕の中へ入る。
「じゃあ俺も」
「いいよ」
ぎゅっと。
抱きしめる。
いつもの。
何でもない時間。
阿部は。
目黒の肩へ頬を寄せる。
「めめ」
「ん?」
「次の休み何する?」
「何したい?」
阿部は。
少し考えた。
「何もしなくていいかも」
目黒が笑う。
「じゃあ何もしない?」
「うん」
「家で?」
「家で」
少し間。
「みんな来そうだけど」
「来るね」
「絶対来る」
二人で笑った。
その時。
リビングに。
聞き慣れた音が響いた。
テレレレレッテッテー。
阿部と目黒が。
同時に顔を上げる。
「誰?」
モニターを見る。
管理人。
阿部が通話ボタンを押す。
「はい」
『夜分に失礼いたします』
相変わらず。
ものすごく真面目な声。
『オーナー様より、お届け物がございます』
阿部は目を閉じた。
「……魔王」
目黒が笑う。
「何だろ」
「嫌な予感する」
少しして。
小さな箱が届いた。
開ける。
中には。
海外のお菓子。
よく分からない置物。
そして。
一枚のメモ。
阿部が読む。
『旅行楽しいよ!』
その下。
『次はどんな世界行きたい? 魔王より』
さらに。
小さな字。
『いつでも遊びにおいで。天使より』
阿部は。
しばらくメモを見る。
目黒が聞く。
「どうする?」
「何が?」
「次の世界」
阿部は。
部屋を見る。
自分で選んだ家具。
夢から持ち帰ったノート。
康二の写真。
昔の家から持ってきた食器。
目黒。
そして。
このマンションのどこかに。
七人。
明日になれば。
また仕事。
疲れる日もある。
嫌なことが起きることも。
きっとある。
それでも。
阿部は笑った。
「……しばらくいい」
「行かない?」
「うん」
少し考えて。
続ける。
「今の世界が忙しいから」
目黒が笑う。
「そっか」
「でも」
「うん?」
「遊びに来るくらいなら」
言ってから。
阿部はすぐに首を振った。
「いや」
「やっぱり来なくていい」
目黒が吹き出した。
「魔王聞いたら傷つくよ」
「知らない」
「マンション作ってくれたのに」
「それは感謝してる」
「じゃあ今度お礼言おう」
「旅行から帰ってきたらね」
阿部は。
魔王のメモを。
ノートの間へ挟んだ。
目黒が立ち上がる。
「寝よっか」
そして。
手を差し出す。
阿部は。
その手を見る。
夢の中でも。
何度も握った手。
現実へ帰る時も。
女優と向き合った時も。
新しい家へ来た時も。
活動を再開した日も。
ずっと。
隣にあった。
でも。
今は。
目黒に連れていってもらうためだけの手ではない。
阿部は。
自分からその手を取った。
「うん」
二人で。
寝室へ向かう。
全部忘れたいと思った。
一人で生きたいと思った。
あの気持ちも。
確かに。
俺だった。
なくさなくていい。
忘れなくていい。
怖いものは。
今でもある。
これからも。
きっとある。
それでも。
もう。
全部忘れたいとは思わない。
夢の中で出会った自分も。
昔から知っている自分も。
泣いた自分も。
笑った自分も。
全部。
連れていく。
大切な人たちと。
これからも。
続きを生きていく。
夢の続きじゃない。
これはもう。
俺たちの現実の続き。
#BL
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今晩は☔️ 一気に読みました。 お疲れ様でした。 凄いな〜 感心の一言です。 少しゆっくり休んで下さいね♪ 番外編お待ちしております。 毎回が癒しです♪ 🖤💚の話がこんなに読めるのですから🥰
このストーリーは途中でコメントを残したくない出来ればラストで書きたいと思ってました、読むのが辛かった時もあったけどメンバーの絆の強さ🖤💚の愛情の深さ、愛情の向け方を間違えてストーカーになった女優、それぞれの歪みと悲しみと不変の愛、ちゃんと生きた人間の物語だった。 作者さん長編お疲れ様でした🙇
完結おめでとうございます㊗️ 文庫本3冊分の文字数、楽しませていただきました😊 続きは無理せずに😭