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ラズールの手から、僕の手が滑り落ちる。

ラズールが僕の背中に両手を回し、強く抱きしめた。

骨がミシミシと鳴ってるんじゃないかと思うほどに、抱きしめられた上半身が痛い。そして苦しい。

「命令…ちゃんと聞いてね」

「…背くかもしれません」

「ラズールは僕の…唯一の部下だろ?信頼してるんだから」

「あなたはひどいです」

「ふふっ、そうかな?いい主だと思うけど」

「ひどいです…」

ラズールの気が済むまで、そのままでいた。

永遠に放してくれないのではと思い始めた頃に、ようやく腕の力が緩んで、ラズールが僕の身体を放した。

呼吸がしやすくなった僕は、小さく息を吐き出す。

「フィル様の…」

「うん?」

低い声がかすれてよく聞き取れない。

僕は小さく首を傾けて、ラズールの目を見る。

ラズールが、苦しそうに言葉を続けた。

「フィル様の望みが叶うよう、俺は手伝います」

「ありがとう。でもバイロン国には、僕ひとりで行くよ」

「お願いします…手伝わせてください。俺も一緒に行かせてください」

幼い頃、僕が辛い目に合うと、ラズールが自分のことのように悲しそうな顔をした。今はそれらとは比べ物にならないくらい、悲しくて辛い顔をしている。

僕はもう「ダメだ」とは言えなくて、ラズールの名を呼んで微笑んだ。

「ラズール」

「はい」

「わかった。僕について来てくれる?リアムに会えるよう、手伝ってくれる?」

「はい。どこまでも、ついて行きます」

「おまえは優秀なのにバカだな…」

「あなたの前でだけ、バカになってしまうのですよ」

ようやくラズールが笑った。でも、とても寂しそうな笑顔だった。


ラズールが夕餉を取りに行くと出て行った後、僕は落ち着きなく天幕の中をウロウロと歩いていた。最低限の物しか置いていないので、中はかなり広く感じる。

退屈だなと欠伸あくびをして、簡易的なベッドに座った時に、目の前の小さな机の上に、紙とペンが置いてあるのを見つけた。

「あっ、ネロに手紙を書いておこう。僕がネロに王位を譲ると決めた証拠を残した方がいい。でないと後々、ネロが困ってしまうかも」

僕は机の前の小さな椅子に座り、まずは大宰相宛の手紙を書き始めた。書き終わると次は大臣達宛の手紙を、それが終わるとネロ宛の手紙を書いた。書き終えて折りたたんでいる時に、ラズールが戻ってきた。

僕とラズールは、イヴァル帝国での最後の夕餉を食べた。とても静かで穏やかな時間だった。


ラズールが水を持って戻ってきた。

桶に入った水で顔を荒い、布を濡らして簡単に身体を拭く。背中はラズールに拭いてもらおうと布を渡す。

僕の背中に布を当てたラズールが、小さく「あ」と声を漏らした。

「なに?」

「いえ」

「もしかして、背中まで赤い痣が出てきた?」

「はい…」

「じゃあ急がないとだね。早くクルト王子の所へ行こう」

「はい…」

いつもキビキビとしているラズールが頼りない返事をする。僕のせいなんだろうけど、いつも通りのラズールでいてほしい。

背中を拭いてもらってシャツと上着を着る。そして振り向くと、僕はラズールの胸を軽く殴った。

「フィル様?」

ラズールが胸を押さえて驚いた顔をする。

僕は両手でラズールの上着の衿を掴んで引き寄せた。

「しっかりして。クルト王子の前で情けない姿をさらしたら許さないよ。これからおまえは大切な役目があるんだから」

「…かしこまりました」

「ん、わかったならいい。行こうか」

「はい」

深く頷いたラズールから手を離すと、僕は机の上の、三通の手紙を上着のポケットに入れた。

僕の後から天幕を出ながら「それは何ですか?」とラズールが聞いてくる。

隣に来たラズールを見上げて、僕は「手紙だよ」と答えた。

「第二王子への…ですか」

「違う。大宰相や大臣、それとネロにだよ。トラビスに預かってもらうの」

「そうですか」

そう呟いてラズールは黙った。

僕は挨拶をしてくる騎士達に挨拶を返しながら進み、トラビスの天幕に着いた。

「トラビス、僕だ」

声をかけると、すぐにトラビスが出てくる。

「おはようございます」

「おはよう。クルト王子の様子は?」

「とても大人しかったですよ。あまり眠れてはなかったようですが」

「そう。入っても?」

「どうぞ」

トラビスが持ち上げてくれた布をくぐって中に入る。

僕とラズールの後にトラビスが入り、入口に結界を張った。

クルト王子は、両手と両足は拘束されたままだったが、柱にくくり付けられてはいなかった。

「おはようございます、クルト王子。不便な格好にさせたままで申しわけありません」

「別に不便でもない。横にはなれたからな」

「お話があると聞きました」

「ああ、答えが出た」

「そうですか。あなたの返答次第で拘束を解きます。軍を引いてくれますか?」

「ああ。軍を連れて王都に戻る」

クルト王子が、僕の目を見て言う。嘘を言ってるようには感じない。

「約束してくださいますか」

「約束する。俺のことは信用できないだろうが…」

「今は信用します。でも、もし僕をだましたのなら、刺し違えてでも殺しますよ」

「ははっ、リアムの想い人は怖いな」

「国のためなら、僕は命を差し出せます」

「…そうか」

クルト王子が目を見開き、そして伏せる。何かを考え込んでいるようだ。昨日から、よくそんな表情をする。

僕は渋るトラビスに命じて、クルト王子の拘束を解いてもらった。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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