コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最終章
クルト王子の見張りにラズールを置いて、僕はトラビスと共にレナードとゼノの所へ向かった。
二人は、さほど離れていない場所の天幕にいた。
トラビスが声をかけて中に入ると、食事中だった手を止めて、レナードとゼノが椅子から立ち上がり片膝をつく。
「おはよう。早くからごめんね。そのまま食べてて」
「おはようございます。いえ、そういうわけには。フィル様はもうお済みですか?」
レナードに聞かれて、僕の腹がグウと鳴る。
僕は慌てて腹を押さえて、はにかんだ。
「あ…まだなんだ」
「ではご一緒にどうぞ。たくさんありますので」
「いいの?ありがとう。トラビスは?」
「俺は済んでます」
「そう?」
僕は、対面に座るレナードとゼノの間に座る。
トラビスも僕の向かいに座ると、ゼノに声をかけた。
「ゼノ殿、よく眠れたか?」
「いや、それがレナード殿と話が弾んで、少し寝不足だ」
「ほう?俺も仲間に入れてもらいたかったな。バイロンの第一王子と過ごすのは、息が詰まって…あ、いや、申しわけない」
トラビスが慌てて頭を下げる。さすがにゼノに対して自国の王子の悪口を言うのはマズいと思ったのだろう。
僕はパンを口に入れながら、会話の続きを耳にする。
「大丈夫だ。俺もあの方が苦手だ。トラビス殿、なにか嫌なことをされなかっただろうか?」
「それが…驚くほど大人しかった。ずっと何かを考え込んでいる様子だったが」
「そうか。それで王子はなんと言われた?」
「王都まで軍を撤退するって」
「え?」
僕はパンを飲み込んで二人の会話に割り込んだ。
ゼノが目を丸くして僕を見る。黙って食事をしながら話を聞いていたレナードも、顔を上げて僕を見る。
僕はニコリと笑うと、三人の顔を見回した。
「先ほどクルト王子と会ってきた。軍を引いてくれるそうだよ。それで、三人にお願いがあるんだ。他言無用の。ラズールにはもう話してあるけど」
「それは…ラズールも納得した話なのでしょうね?」
トラビスがゴクリと唾を飲む。何の話かを察したようだ。
僕は頷いて話し続ける。
「うん、納得してくれた。今から話すことは、決定事項だ。皆がどんな意見を言ってもいいけど、もう変わらない。特にトラビスとレナードには、よく聞いていてもらいたい」
「はい…」
レナードが深刻な顔で返事をして、トラビスが険しい顔をする。
トラビスは昨日、僕の話を聞いて納得してたんじゃないの?と、少し可笑しくなった。
僕は話した。
身体に巻きつく蔦の呪いが進んで、僕はもうすぐ死ぬだろうこと。だから、元をたどれば同じ血族のネロに、王の座を譲るつもりだということ。そしてこれからバイロン国に行き、牢に入れられているリアムを助けたいこと。死ぬ前にリアムに会いたいということを。
途中、レナードが声を出そうとしたけど、トラビスが止めた。
ゼノは静かに聞いていた。
全て話し終わって、僕は小さく息を吐き出す。
しばらくの沈黙の後に、ゼノが口を開いた。
「…フィル様は、クルト王子が撤退する時に、バイロン軍に紛れ込むおつもりですか?」
「そうだよ。だから、ゼノにはまた、協力をお願いしたいんだ」
「かしこまりました。今回はフィル様おひとりですね?」
「あ…いや、それが」
言い淀んだ僕の言葉を拾って、トラビスが立ち上がる。
「まさかっ、ラズールがついて行くのですか!アイツ…納得したと聞いておかしいと思ってたんだ。 そうか、意地でも傍を離れない気だなっ。ならば俺も…」
「トラビス、座って。おまえは大切な役目があるだろう?それとこれも頼みたい」
「なんですか?」
再び腰を下ろしながら首を傾げるトラビスに、僕は上着のポケットから手紙を出した。
「これを…大宰相と大臣達、そしてネロに渡してほしい」
そう言いながら、手紙をトラビスの前へ押しやる。
トラビスはじっと机の上の手紙を見つめて「これは…」と呟いた。
「今後のことを書いてある。僕がいなくなった後、トラビスはネロの側近として支えるように。レナードは将軍となり、王と国を守ってほしい」
「フィル様…」
トラビスが手紙を手に取り頭を垂れる。
「あ…」と声がして、そちらに目を向けると、レナードが机の上で固く手を握りしめていた。
僕は、その手に手を乗せて、レナードの顔を覗き込む。
「レナード、言いたいことがあったら遠慮なく言ってよ」
レナードは少しの間ためらって、意を決したように僕と目を合わせた。
「今の話を聞いていると、フィル様とはもう、会えないということですか…」
「そうだよ」
「呪いを解く方法はないのですか?そもそも呪いなどあるのですか?死ななければ王を続けてくださいますか?」
「呪いはあるよ。でも解く方法はないから王は続けられない」
「やってみなければわかりません」
「わかる。実際に呪いで死んだ例があるんだ」
「なぜそのようなことを知ってるのですか」
「…母上の部屋で、代々の王族のことが書かれた本を見つけた。その中に女王でなければならない理由とか呪いのことが書いてあったんだ。王城に戻ったら、皆で読んでみてよ。僕の部屋の机の引き出しに入ってるから」