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四月の午後、窓から差し込む春の陽ざしはやけにまぶしいのに、教室の空気はぴんと張りつめていた。
「そこ、私語やめろ」
低く響く声に、私は眉をひそめる。振り返れば、黒板の前に立つのは――吉沢先生。
整った顔立ちに、長いまつ毛。女子たちの間では「イケメン新任教師」として瞬く間に噂になっている。
……だけど、私にとってはそんなの関係ない。むしろ苦手なタイプだ。
冷たい目。妙にきっちりした口調。授業中に少しでも視線が合えば、注意の矢が飛んでくる。
「……はい、〇〇。黒板に解き方書け」
いきなり名前を呼ばれ、私は唇をかむ。準備も心の覚悟もないまま、前に出されるこの感じが本当に嫌いだ。
黒板にチョークを走らせながら、背後から感じる視線に心臓がざわつく。
きっと「また適当だな」とか思ってるんだろう。
席に戻ると、隣の友達がこっそり笑いをこらえている。
「先生、〇〇のこと気にしすぎじゃない?」 「そうだよね、なんか目の敵にされてる気がする」
小声で愚痴をこぼしながら、私は窓の外を見た。
あんな人、何がいいのか全然わからない――そう、今のところは。
放課後。
廊下を歩いていると、後ろから足音が近づいてきた。
「〇〇、廊下は走らない」
振り返ると、案の定、吉沢先生。
別に走ってなんかない。早歩きしただけだ。
「走ってません」
そっけなく返すと、先生は眉をわずかにひそめた。
「言い方の問題じゃない。周りに迷惑かけないようにってこと」
……その、正論を突きつけてくる感じが嫌だ。私の気持ちを全然考えてくれない。
しかも、帰ろうとしたら「ちょっと職員室まで来い」と呼び止められた。
提出期限が昨日のプリントを出していない、とか。
「忘れてただけです」
「それが一番よくない」
淡々とした声。ああもう、この人と話してると息苦しい。
別にサボってるわけじゃないし、私だって忙しいし、言い訳ぐらい聞いてくれたっていいのに。
職員室を出るとき、背後で他の先生たちが笑っている声がした。
「亮先生、また〇〇さんに厳しいな」
「……そういう子なんです」
聞こえたその言葉に、胸がチクリと痛んだ。
“そういう子”って何よ。私の何を知ってるっていうの。
ますます、この人が嫌いになりそうだ――。
第1話
ー完ー