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「あれ、麗ちゃん髪切ったんだね」
麗が仕事をしていると、実はロックンローラーだった営業部長が社長室に入ってきた。
「おはようございます。実はそうなんです」
社長になったものの、彼らとの関係は変わらなかった。
代表取締役社長という地位ではあるが、実際の社長は明彦だというのは社内の共通認識で、麗は社長の豪華な椅子に座って判子を押しているだけだからである。
つまり麗は、代表取締役判子押す係というやつである。
「いいねー、似合ってるよ」
営業部長は麗を褒めているのに、瞳を輝かせていた。
(あれだ、女の子が髪を切った事に気付いた自分を偉いと考えてるパターンだ)
「部長が気づいてくださって嬉しいです」
「女の子の変化に気付くのは男として当然だよ」
その割には随分得意気である。へへん、と子供のように鼻を掻いている。
「そんな事ないですよ、なかなか難しいことだと思います。流石、部長です」
取り敢えず麗が褒めると、満更でもなさそうな顔をしている。
「そうかな?」
「はい、ありがとうございま」
「お化粧も変えたよね」
「はい、須藤百貨店でつい衝動買いしてしまいまして」
「ああ、須藤百貨店と言えば今、北海道物産展やってるよね。あれボク大好き。わくわくしちゃうよね。イクラ丼もソフトクリームも好きだけど、生チョコレートが売ってるとついつい買っちゃうんだよね」
ダンディーキャラは諦めたのだろうか、北海道物産展という言葉に部長がキラキラと目を輝かせている。
「私はバターサンドが好きです」
何年か前に明彦が麗にお土産にくれたバターサンドは特に美味しかった。
麗音の分は別にあるからお前が一人で食べる分と言って五個入りのバターサンドをくれたので、麗は一日一個ずつ味わうつもりが、つい止まらずに全部ペロリと食べ切ってしまい、自分で自分に驚いた覚えがある。
勿論、カロリー表示の書かれた表紙は見ずに捨てた。
「バターサンドも美味しいよね! 今度ボクも家族で行こう。娘もきっと喜ぶ」
娘の笑顔を想像しているのだろう。部長はとても幸せそうな顔をしている。
「娘さんがいらっしゃるんですね。お幾つですか?」
「15歳なんだけど反抗期でね。困ってるんだ」
一転、部長がショボくれたので、麗はちょっと可哀想になった。
「パパの洗濯物と一緒に洗わないでって言い出したり、パパ臭いから臭い対策の石鹸を買ってきてあげたからしっかり洗ってねって言い出したり、パパ弱いからゲーム一緒にしてもつまんないし勉強するって言い出したり、最後にはパパ太ってきたから晩酌禁止って言い出すんだ!」
「とてもいい子に育ってらっしゃいますね」
自虐風自慢をされて、麗は心配して損したなと思いなが思いつつ、相づちを打ったのだった。