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その日――教会内部は、騒然としていた。
(そりゃ、無かったことには出来ないわよね)
教皇や枢機卿がこれまでにしてきたこと全てを、クリストフとジェラールは、国王へ報告したのだ。
それにより、クリストフと母親である王妃も罪に問われる事態になってしまったが――クリストフは覚悟の上だった。
当然ながら、ルイスも国王からの直々の呼び出しを受け、宮廷裁判へと向かう。
一番の被害は辺境伯領であったのだから、罪状の確認と処罰についても意見が欲しいとのことだった。
裁くのは国王だが……クリストフに関しては国王自身が闇属性について把握していなかったことも要因である為、ルイスに委ねられた。
――結果。
実行犯である枢機卿は、今回の件以外も様々な罪を犯しているため死罪。教皇については、クリストフと王妃の証言のみで証拠は無かったのだが、本人の罪を償いたいという希望により流罪となった。あれが相当効いたらしい。
そして、王妃は王族専用の塔への幽閉。
クリストフは廃嫡になり、ジェラールが王太子になった。
これからは、王子ではなく宮廷魔術師として、ジェラールの補佐をすることになる。甘いかもしれないが、魔石の回収にはクリストフの能力が必要であり、国を裏切らないとの誓約を課しての判断だ。
教会の方は、急遽数人いる大司教が集められ教皇選挙が行われることになった。枢機卿については、司教以上ならなれるそうで、そちらも改めて決めるらしい。
地盤の弱体化を防ぐ為、離宮にいる聖女を教会へ戻した方が良いと言う者も多く出てきた。
ジェラールが考えていた方法とは違うだろうが、それはそれで良いかもしれない。
教会で聖女をしていたリーゼロッテの方は、実は枢機卿等が後々利用しようと考えていた為、公にされていなかった。
アニエスがやってくれば、領地へ戻るつもりだ。
◇◇◇◇◇
それから月日は流れて――。
巷ではジェラール王太子の婚約の話で持ちきりだった。
何せ相手は、あの帝国の皇女なのだから。
ジェラールが、ループしてから初めて辺境伯領へやって来た日。本当の目的はリーゼロッテではなく、辺境伯領の状況の確認と、敵対国でもある隣国へ行くことだった。
リーゼロッテに会った後――自分の美貌を知っている、優秀なループ経験者ジェラールは、交渉に長けたアントワーヌ侯爵を供につけ帝国へ向かった。
そう、隣国の第一皇女を落としに。
何をどう立ち回ったのかは秘密らしいが、皇女はジェラールに惹かれ、見事に婚約が決まったらしい。
「私には、ジェラール様との未来しか見えません。反対されても、私は殿下の元へ参ります。それが、この国の利益にもなるのです」
と美しく賢いと噂の皇女は、父親である皇帝に言い切ったそうだ。
そして、裏で画策していた枢機卿の悪巧みを暴き、王国との結婚が決まったら帝国にどれ程の利益がもたらされるのか。いかに自分がジェラールに惚れているかを証明して見せて、皇帝の首を縦に振らせた。
(カッコいい……! ジェラール殿下には、お似合いの方ね)
そんなことを考えつつ、久しぶりにリーゼロッテはジェラールの部屋へやって来た。あの、タブレットみたいな魔道具を返す為に。
転移すると、直ぐに聞き慣れた足音が聞こえてきた。
(もう、ここに来ることも無くなるわね)
婚約者のいる人にこっそり会いに来るなんて、そんな誤解を招くようなことは絶対にしたくない。
――バタンッ!
と勢いよく扉が開いた。
「リーゼロッテ! 何かあったのか!?」
「ジェラール殿下、ご婚約おめでとうございます」
「ああ……その事か」
ニッコリと微笑むリーゼロッテに、ジェラールは何とも言えない表情をする。
「素晴らしい皇女様だとお聞きしました。……流石、ジェラール殿下ですね! それで、これをお返しに上がったのです」
「そうだな。もう、必要なくなったな」
ジェラールは、心なしか寂しそうに言って受け取る。
そして、ループ仲間としてお互いの近況や、くだらない話、いつもの冗談めかした話で盛り上がった。
ジェラールが、ちゃんと皇女に惹かれていることも伝わってきて、リーゼロッテも嬉しくなる。
「ところで、リーゼロッテとルイスはどうなっているんだ?」
「はい? どうにもなっていませんが? 義理とはいえ親子ですし。親子でなくても、叔父と姪ですから」
近親婚はこの世界でも駄目なはず。
リリーとして出逢った時から――ルイスの気持ちをわかっていて、気づかない振りをしてきた。
誘惑のお芝居の時から、自分でもおかしいくらいルイスを意識してしまっている。リーゼロッテの中身は転生者であり、子供ではなく大人の女なのだから仕方ない。
ループ前のリーゼロッテは、ルイスと親子になることが希望だった。ルイスと仲の良い女性に嫉妬することはあったが、それは大切な父を取られる不安からのことであり、恋人を望んでいた訳ではない。
今の自分の気持ちがハッキリし、それが1周目のリーゼロッテとは別の感情だと気づいた。
だから、このままずっと――娘としてルイスのそばに居るだけでいい。
(それ以上、望んではいけない)
足を組み、頬杖をついたジェラールは呆れるように言う。
「……まさか、其方は知らないのか?」
「何をでしょう?」
「この国では、絶やしてはいけない血筋は叔姪婚も認められているぞ。あくまでも、お互い魔力が多い場合に限りだが。どちらかの魔力が少ないと、短命になってしまうから駄目だが。王族は当然だが、エアハルトの血筋も当てはまる」
「……え?」
「だから、リーゼロッテとルイスは結婚できるぞ。辺境伯なら当然知っている筈だ。それにルイスは――」
と言いかけ、ジェラールは言葉を濁す。
リーゼロッテの顔はどんどん熱くなり、反対に頭の中は真っ白になる。ジェラールの様子が変だったのにも気づかない。
「てっきり、ルイスと進展があったから魔道具を返しに来たと思ったのだが。よし、わかった! この魔道具は、まだリーゼロッテが持っていろ!」
「は? 意味が分かりません」
ふふん、と意味深に笑ったジェラールは魔道具を受け取ってくれず、結局また持ち帰る羽目になった。
◇◇◇◇◇
リーゼロッテが帰り、急に静かになった部屋でジェラールはひとり呟く。
「ルイスが叔父ですらないことは……私が言うことではないからな」
2周目の人生で、ジェラールが兄について調べていく過程で見つけてしまった、先先代の辺境伯についての記実。ルイス自身も、どこまで知っているか定かではない事柄だ。
ジェラールも王位を継げば知ることになるだろうが、それまでは知らない振りをしなければならない。
「まあ、知らなくとも問題ないのだからな。リーゼロッテを譲るのだ、この程度の意地悪もいいだろう」
ジェラールは、天を仰いで小さく笑った。