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柊遊馬
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#創作
ゆずき
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最初から魔王が本気を出せばクルスの結界は簡単に破れた。それをしないのは、やはりこの一連が魔王にとっては遊びなのだ。
何よりも予想外なのが、魔王が人質のアディの存在を無視している事である。
「くっ……!」
クルスは魔獣の姿に変身すると、魔王たちとは逆方向へと飛び去る。城に戻って戦力を揃える気だ。
エメラはクルスを追わずに、上空のディアと魔王を見上げ続けている。
やがてディアが地面に降り立って、その背から魔王が飛び降りる。するとディアの体が発光し収縮すると人の姿に変身した。
「なぁんだ、あのガキ逃げたのか。つまらねぇな」
「なんだじゃありませんわ! なんて無茶を!」
魔王の危機感のなさに呆れを通り越して怒りがこみ上げてくる。泣いたり驚いたり怒ったりとエメラも忙しい。
全く悪気のない魔王に代わって、側近であるディアがエメラに頭を下げる。
「エメラさん、申し訳ありません。魔王サマが突撃命令を出すものですから」
ちゃっかり魔王のせいにしている。さすがの魔獣王も、主である魔王の命令は拒めない。
「ディア様……。ですが、お二人だけで突撃なんて無謀ですわ」
討ち入りとは言っても、魔王とディアの二人きりなのだ。兵も連れずに武器も持たない。魔王はやはり、遊びのケンカのノリなのだ。
だが実は、魔王はそこを考えている。
兵を連れて突撃すれば、それは戦争。魔王があくまで個人的なケンカのノリを貫いている理由は、国家どうしの争いにさせないためだ。
そんな魔王の心に気付かないエメラは、相変わらず困り顔で文句を言い続けている。
「それに、アディ様が人質なのです。もう少し考えて頂かないと……」
次々と畳み掛けてくるエメラに対して、魔王は腕を組んで真顔で答える。
「魔獣女。テメエは婚約者も信用できねぇのかよ」
「え……」
「あと、あのクルスってガキ。どこかで見た事がある顔だと思ったが、昔の犯罪者だ」
「犯罪者?」
魔王が昔と言うからには、エメラがまだ魔獣界を治める前の頃の話だと思われる。そうであればディアも知らない事だ。
「アイツは魔界に侵入し禁書を盗み出した。追放の刑にしたが、すっかり忘れてたぜ」
禁書を盗む事は犯罪な上に、禁断の魔法の乱用の恐れがある。しかしクルスは愛のためなら罪を犯す事など躊躇わなかったのだろう。
魔王は黒のマントを大げさに翻すと、エメラとディアに背中を向けた。
「だが、ケンカの相手が逃げたんじゃあ、つまらねえ。オレ様は帰るぜ」
魔王は背中に黒いコウモリの羽根を出現させた。普段は魔法で隠しているが、悪魔は背中にコウモリのような黒い羽根を持っている。
飛び立とうとする魔王の背中に向かってエメラは片手を伸ばし引き止めようとする。
「お待ち下さいませ! 魔獣界を、アディ様を放置なさるおつもりですか?」
魔獣界の結界を破壊しただけで帰るとは、どういう考えなのか理解できない。
魔王は振り向きもせずに背中で答える。
「知らねえよ、テメエらの世界だろ、自分で何とかしろ。ディア、あとは任せる」
ディアには魔王の思惑が分かるようで、何も言い返さずに静かに頷く。
「はい、魔王サマ。お任せ下さい」
ディアを魔獣界に残し、一人で魔界へと飛び去っていく魔王の姿を眺めながらエメラは気付いた。
魔王は最初から、ディアを魔獣界に送り届ける事が目的だったのだと。
「ディア様……」
「エメラさん、行きましょう」
「ですが、アディ様が……」
心配そうにディアを見つめるエメラだが、ディアは優しく微笑んだ。
アディのような爽やかな笑顔が、重い空気と感情すらも全て吹き飛ばしてくれる。
「大丈夫ですよ。私は魔獣王です。そしてアディは私の息子です」
かつて愛したディアの強さと優しさが、今もエメラの胸を熱くさせる。あの頃の恋心とは違うが、ディアは今も勇気を与えてくれる存在に変わりはない。
自分は一人ではない。アディも……今、こうしてディアもいる。
ディアは遠くに霞む魔獣界の城を真っ直ぐな瞳で見つめて意志を示す。
「私たちで魔獣界を取り戻しましょう」
ディアの言葉を受けたエメラも魔獣界の城の方を向き、進むべき道を真っ直ぐに見据える。その凛と輝く金の瞳には迷いも恐怖もない。
「はい。魔獣王ディア様」
コメント
1件
魔王の「本気出せば余裕なのに遊び感覚」ってスタイル、めっちゃ好きなんだけど!笑 でも実はディアを魔獣界に送り届けるのが目的だったってオチにグッときた…エメラが気付くシーン、じーんと来たよ😭💕 クルスが禁書盗んだ犯罪者だったって伏線も気になるし、ディアの「私たちで魔獣界を取り戻しましょう」のセリフ、かっこよすぎて鳥肌立ったわ…!次話が待ち遠しい〜🔥