「――ッや……、」
一体、何が起こっているのか、あまりに突然過ぎる事態に頭が追い付かないのと、自分の事なのにそうじゃないみたいに身体が動かず、拒まなければいけない、今すぐ離れなくてはいけない、そう思うのに身体は全く動かなくて……抵抗する間も無く、私は田所さんの唇に自身の唇を塞がれてしまう。
「――ッんんっ……、」
そして左手は後頭部に添えられ、逃げたくても逃げる事が出来ず、
「……っや、……ん、……はぁ……っ」
何度も角度を変えながら唇を奪われ、息をするのがやっとなくらい強引な口付けをされる。
竜之介くん以外とのキスなんてしたくないのに、逃れる事の出来ない自分が情けなくて、自然と涙が溢れ、頬を伝って零れ落ちていく。
そんな私に気付いた田所さんは、一旦唇を話すと零れ落ちる涙を掬いつつ耳に顔を近づけて来て、
「――キスくらいで罪悪感を感じる必要は無い。貴方に一つ、教えてあげましょうか。竜之介様が今、何処に居るかを」
意味あり気な言葉を囁くように口にする。
「……い、わ……ないで……」
だけど、それは聞かない方がいい気がしてならない。
知らない方がいい気がして耳を塞ぎたくなるけど、それを制するように田所さんは私の両手首を掴んできて、
「――あの方は今、都内のとあるホテルの一室に居るのですよ? 見合い相手である西ノ宮財閥のご令嬢――西ノ宮 花梨様と二人きりで」
彼が今居る場所を告げたのだ。
二人きりでホテルの部屋に居る――ただ、それだけかもしれない。
話をしているだけかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。
でも、こうして他人に唇を奪われてしまった私は、例え竜之介くんとお見合い相手の間に何かあったとしても、何も言えないのだ。
「相手はかなり竜之介様を気に入っている。その上、西ノ宮家は名雪家との交流も深く、簡単に縁談を断る事など出来ない間柄なのです。貴方が良い家柄のご令嬢ならば兎も角、一般家庭の生まれで、婚姻歴もあり、他の男の血を継いだ子供までいるとなると、残念ながら、貴方に勝ち目は無いのです。これ以上傷付く前に、離れた方がいい。貴方の事は、凜様も含め、私が守ります。ですから、私に全てを委ねてください――亜子様」
真っ直ぐ私を見据えながら、田所さんは私が聞きたくない言葉ばかりを並べて口にしていく。
そして、竜之介くんの事は諦め、自分にしろと言うのだ。
再び彼の顔が近付いて来た、その瞬間、
「もう止めてください!!」
一瞬だけ、私の手首を掴んでいた彼の手の力が緩んだその隙を見逃さず彼の手から逃れた私はそう叫ぶように言いながら、力の限り彼の身体を押し退けた。
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チュー💋する必要ある?