「は?最初までノリ気だったじゃねぇか。どうしたんだよお岩。お前まさか何かあの男にされたのか!?誰かに言わされてんのか?」
そう言って恐神先輩は彼女の弱々しく儚い肩を自分の気持ちと比例する力で掴む。
「…私、きっと今愛に酔ってるんです。否、酔わされているんです。何故か分からないけど、一度私を裏切った憎悪の塊である男にほんの一瞬だけ何故か芽生えた恋心に酔わされているんです。何だか皮肉というか滑稽な発言ですよね。反省はしています。すみません。…けどもう、大人しくあの因縁の二人が体の関係を持ち私は棄てられ、そのまま餓死して成仏するので…」
対するお岩さんは、恐神先輩の気持ちの逆を向いているのか意思が固く最初会ったときのお岩さんのようにまるで息をしていないマネキンのようだ。
「なぁ、本当にそれで良いのか?何も愛なんて知らないままで、歪んだ愛だけを愛してのらりくらりと生きるようなくだらない無味な人生で良いのか?」
「良いって言ってるじゃないですか。いい加減にして下さい。頼まれた依頼を拒否する権利は、依頼者側に存在しないのですか?もう何も考えたくないんです。今は放っておいて下さい!!」
恐神先輩の気持ちが更にお岩の機嫌を悪くさせたのか、恐神先輩が力強く掴んだ腕を振り払い焼酎だけを置いて彼女はそのまま走って行ってしまった。
*
「…行っちまったな。お岩のやつ。」
「…でもまぁ、恐神先輩は悪くないと思いますよ。力強く女性の方を掴んだのはあまり紳士的行動には見えなかったので少し引きましたが。」
焼酎を両手に持ちながら、マイズミは俺の傷を縫うように話しかけた。
「…もしかして女子日なのか?彼奴」
「恐神先輩、そういうところです。」