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NAGI
地下室の澱んだ空気とは対照的に、江戸の町にはいつもと変わらない、けれどどこか空々しい喧騒が流れていました。
屯所の一角、一番隊隊士たちは所在なげに木刀を振るい、時折、主のいない隊長室を不安げに振り返ります。
「……ったく、あのクソガキ、どこで油を売ってやがる」
土方十四郎は、執務室の机に山積みになった報告書を前に、苛立ちを隠そうともせず煙草をふかしていました。
目の前にあるのは、数日前に総悟の机に残されていた、殴り書きの置手紙。
『探さないでください。死にます。 総悟』
「いつものタチの悪い悪ふざけだ。……どうせ今頃は、どっかの店で酒でも喰らって、俺が慌てる様を想像して笑ってやがるに決まってる」
自分に言い聞かせるように吐き出した言葉は、紫煙と共に虚空に消えます。
だが、その指先は、いつもよりわずかに震えていました。
いつもなら、このタイミングで背後からバズーカが飛んでくるはずだ、
その「殺意」すら聞こえない静寂が、土方の心臓をじわじわと締め付けていました。
「トシ、山崎を回らせてるが、目撃情報はゼロだ、……総悟のやつ、本当にどこへ行っちゃったのかな、」
近藤勲が、
珍しく険しい表情で部屋に入ってきた。
いつもの
「トシ、総悟を甘やかすなよ」
という能天気な言葉はありません。
「近藤さん、あいつは……あいつはしぶといガキです。そう簡単にくたばるようなタマじゃねェ。……ただ、少し、胸騒ぎがするだけでさァ」
「……万事屋の旦那にも聞いてみたんだがね、あそこは旦那が『急な仕事が入った』って、昨日から不在だそうだ」
近藤のその何気ない一言に、土方の背筋を冷たいものが走り抜けました。
その頃、真選組の誰もが
「少し長めの家出」
だと信じようとしているその裏で、彼らが守るべき一番隊隊長は、自分たちが信頼していたはずの男の手によって、精神も肉体も粉々に解体されていました。
「……なぁ、総悟。お前の大好きな土方さんが、お前を『悪ふざけ』だと思って笑ってるぜ?」
地下室で、銀時が総悟の耳元で囁く。
土方たちの「信じたい」という希望が、銀時の嘘によって、総悟を追い詰める最後の凶器へと変えられていく。
「……あ、……ぁ……」
総悟の喉から漏れたのは、もう言葉にもならない、ただの絶望の残響でした。
コメント
1件
読了しました……ああ、もう、胸がぎゅっとなりました。大好きな土方さんの「悪ふざけだ」という言葉が、銀時の手を借りて総悟くんを追い詰める凶器に変わるなんて。普段の殺伐としたやり取りが、今はただの悲しい誤解にしか思えなくて。屯所の静けさと地下室の絶望、対比が本当に切なかったです。続きがすごく気になります……!