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手渡された事例に書かれた部署は「統括室」。
統括室は社内で唯一、CEO(最高経営責任者)の直下にある特別な部署だ。
営業部や企画部、もちろん開発部はCOO(最高執行責任者)の管理下なのに、この統括室だけ違うのだ。
正直なところ、統括室が何をしている部署なのかさえ知らない。
そんなところにどうして……?
「気に入られたんじゃないのか?」
「左遷じゃなくて、そういうパターンもアリなの?」
がんばってと応援してくれる先輩たちに挨拶をした沙紀は、少ない荷物を持ってフロアを移動した。
「絨毯も違う」
エレベーターで15階までやってきた沙紀は一歩目から衝撃を受けた。
絵画のことも、置物のこともさっぱりわからないけれど、きっと高いだろうから近づかないでおこう。
廊下を進み、「統括室」と書かれた扉の前で沙紀は深呼吸をした。
軽くノックをすると、中から男性が扉を開けてくれる。
「……秘書さん?」
「はい。秘書の冬木です。近藤さん、荷物はそれだけですか?」
「はい、これだけです」
どうぞと部屋に招き入れてもらった沙紀はさらに衝撃を受けた。
「……西園寺CEO?」
どうして同じ部屋に?
いや、それよりもどうしてソファーで寝ているの?
「23時からパリの取引先と、0時からロンドン、今朝3時からニューヨーク、5時からシカゴと会議がありまして」
やっと先ほど眠ったところだと冬木は理由を教えてくれた。
時差があるから夜中に会議ってこと?
CEOってそんなに大変なの?
デスクは冬木さんの隣。
ロッカーは女性用がなく簡易スペースですみませんと謝罪された。
ウォークインクローゼットには西園寺CEOのスーツだけでなくタキシードや小物まで。
簡易キッチンにはコーヒーミルやドリップの道具もあり、今までいたフロアと全然違った。
「仕事は主に私の補佐です」
「あの、どうしてですか? 私は秘書の経験もないですし、今までの業務も全然違うのに」
「理由は西園寺CEOにお尋ねください」
あー、そうだよね。
冬木さんだって急にこんなド素人に異動して来られて困ってるよね。
「荷物が落ち着いたら業務の説明をしますので、声をかけてください」
「今からでも大丈夫です。荷物は少ないので」
と言ってしまった自分を殴ってやりたい。
驚くほどの激務に、沙紀は僅か1時間で心が折れそうだった。
「……冬木、何時だ?」
「10時12分です」
そのまま再び眠ってしまった西園寺CEOを沙紀は失礼だと思いながらも思わず見てしまった。
背が高いせいかソファーが小さく見える。
黒髪は少し長めだが、整った男らしい顔立ちには悔しいほどよく似合っていて、体格も良く足も長くてモデルのようなスタイル。
正直に言ってズルい。
この見た目で御曹司だなんて、世の男性が怒るのではないだろうか?
「30分から会議なので、10時20分に目を覚まします」
ジャケットを準備しましょうと言われた沙紀はクローゼットに取りに行った。
「ネクタイはなしで。靴はこちらを」
冬木の指示に従い、準備していく。
西園寺CEOは驚くほど正確に、本当に10時20分に起きた。
寝起きとは思えないほどテキパキと身支度を整えていく。
その隣で午前の予定を告げながら、靴べらを渡したり、時計を手渡したり、甲斐甲斐しく世話をする秘書の冬木の姿に沙紀は釘付けになった。
手で髪を掻き上げた姿はまるで猛獣。
みんなが恐れるCEOだ。
「……あぁ、今日からだったな」
ようやく空気のような存在感の沙紀に気づいた西園寺が不敵に笑う。
「本日からお世話になります」
沙紀が深々とお辞儀をすると、西園寺は背が小さい沙紀の頭に優しくポンッと触れた。
わからないことばかりだけれど、やるしかない!
……と決意したけれど、ハードすぎない?
CEOってこんなに忙しいの?
椅子にドーンと座っているだけなのかと思っていたのに、ほとんど休む暇もない。
お昼ご飯も沙紀は1時間ちゃんと昼休憩をもらったが、きっと二人は取っていない。
「初日で疲れたでしょう? ゆっくり休んでくださいね」
冬木さんの優しさが心に沁みます!
「お先に失礼します」
「あぁ」
定時に一人だけ帰らせてもらうのはなんだか心苦しかったが、沙紀はペコリとお辞儀をし退室した。
西園寺CEOはぶっきらぼうだけれど、ちゃんと返事はしてくれるんだよね。
御曹司オーラというか、猛獣みたいな顔つきの時は少し怖いけれど。
でも、総括室にいるときはあまり怖くなかった。
明日もがんばろう。
エレベータで15階から1階へ。
従業員証を翳すと開くゲートをいつものように進んだ沙紀の足はピタリと止まった。
「やぁ、沙紀」
待っていたよと微笑む男に沙紀は苦笑した。