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#ワンナイトラブ
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「待っていたよ、一緒に帰ろう」
カバンを持とうか? と尋ねてくる元カレの大輝を沙紀は無視してスタスタと歩いた。
三ヶ月前に私を捨てたくせに、今更どういうつもりなのだろうか?
「待ってよ。たまにはご飯くらい一緒に行ったっていいじゃん」
「……経理部の可愛い彼女は?」
「うーん、沙紀の方がいいって思っちゃったんだよね」
「……は?」
意味がわからない。
沙紀は眉間にシワを寄せた。
ある日突然、経理部の新入社員とイチャイチャしながらやってきて「こっちと付き合うことにしたから」と私をフッたくせに?
理由もわからなくてつらかったのに?
そんな軽い感じで別れたの?
止まらずに歩き続ける沙紀の腕を「ヨリを戻そうよ」と大輝が掴んだ。
「離して!」
振りほどきたいのにガッチリ掴まれた腕が振りほどけない。
そういえば、大輝は学生時代にハンドボールをやっていたことを今更思い出した。
「いいじゃん、付き合えよ。CEOの話を聞かせろよ」
大輝の言葉に、沙紀は一気に気分が冷めた。
CEO直轄の部署に異動したからヨリを戻そうって?
自分を高く評価するように頼んでほしいとかそういうこと?
ヨリを戻すつもりはないけれど、一瞬でも本当に私の方が経理の若い子よりもよかったんじゃないかと期待した自分が馬鹿みたいだ。
「……本当に、最低な男……」
沙紀は唇をグッと嚙みしめた。
「……おい、近藤沙紀。誰が帰っていいと言った?」
エントランスに響くバリトンの声に驚いた沙紀は、ゆっくりとゲートの方を振り返った。
「西園寺CEO! おつかれさまです! 俺、営業部の加賀大輝です」
沙紀の手をパッと離し、西園寺に駆け寄りお辞儀をする大輝を横目に、西園寺はツカツカと沙紀に向かって歩く。
「今日中の仕事がある」
「は、はい。すみません、戻ります」
西園寺は溜息をつきながらゲートを再びくぐり社内へ。
秘書の冬木に続いて沙紀も再びゲートをくぐった。
エレベーターに乗るとなぜか地下へ。
冬木が車の後ろの席のドアを開けると、西園寺は「早く乗れ」と沙紀に指示を出した。
「……え? 今から接待……ですか?」
「いいから乗れ」
わけが分からないまま車に乗ると隣に西園寺が乗り、冬木が運転席に。
「沙紀さん、マンションまで送りますね」
「あの、今日中の仕事は?」
沙紀の質問に答えることなく車は走り出し、地下駐車場から地上へ。
帰宅中の社員たちからはきっとこのスモークのせいで私が車の中に乗っているとはわからない。
駅方面に歩いている大輝にも。
……もしかして大輝から助けてくれたの……?
どうして?
隣で書類に目を通している西園寺から仕事の指示はない。
マンションの場所も最寄り駅も伝えていないのに、冬木が運転する車は沙紀のマンションの正面で止まった。
「明日の朝8時半に迎えに来ます」
「え? 迎え?」
車のドアを開けながら微笑む冬木と、書類を見続けている西園寺を交互に見た沙紀は戸惑いながら車を降りた。
「西園寺CEO、助けてくださってありがとうございます」
違うかもしれないけれど、と思いながら沙紀が挨拶をすると、ぶっきらぼうに「あぁ」と返事が返ってきた。
「冬木さん、送ってくださってありがとうございます」
「念のためカーテンを閉め、電気が漏れないようにした方がよろしいかと」
「まさか、さすがに……」
大輝がマンションまで押し掛けてくるということ……だよね?
さすがにそれはないでしょう。
どうせ彼女に今日は用事があると断られて、夕食を一緒に食べる相手がいなかった程度だろうと軽く考えながら沙紀は部屋に入ったが、一応言われた通りカーテンは開けずリビングも電気は付けずに、手元のライトとキッチンの電気、あとはテレビの明かりだけにした。
正直に言えば、冬木さんは過保護だなと思っていた。
明日の朝まで迎えに来てくれるなんて、西園寺CEOも心配症だな、と。
こんな恐ろしいメッセージが届くまでは――。
『まだ仕事?』
『何時に終わる?』
『マンションの入口にいるよ』
急に怖くなった沙紀はキッチンの電気もテレビも切った。
『もしかして、もう部屋にいる?』
『ねぇ、泊めてよ』
頻繁に届くメッセージがイヤで、スマホの電源もOFFに。
沙紀は手元の明かりも消し、布団に包まりながら眠れぬ夜を過ごした。