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💜「連続婦女暴行事件……って、ことですか?」
特務調査局に依頼で来たのは、24歳の会社員の女性・美上。
「そうです。それがここ最近で20件近くあるみたいで」
🩷「20!? 多すぎない?!」
深澤の後ろに控えているのは、今日は佐久間と渡辺だ。
💙「それって警察からの依頼は? きてねーの?」
💜「ないね。これだけ多かったら依頼きててもいい筈なのに」
それだけ解決できない場合、異能者の事件かもしれないということで、特務調査局に依頼がきてもおかしくはない。けれど、今回はそんな話は警察からこれっぽっちも出ていない。
💜「それで? 俺たちにどんな依頼を?」
「もちろん、犯人を見つけてほしいです。うちの会社の周辺で起こってて、どの道を通っても被害が出た周辺になってしまって……怖くて通りたくないけど、会社は休ませてもらえないし……」
💙「襲われる可能性があるから休ませて、とは言えないし、許可が下りる筈もない、か」
💜「でもどうして急に依頼をしようと?」
「二日前、私と同期の子が被害に遭って、足を折られてしまって……怖くなったんです」
💜「なるほど。ただ、どうしてうちに? うちは特務調査局です。その犯人が異能者だという話でも?」
「昨日、同期の子と会ったんです。襲われた時、目が合ったら体から力が抜けたみたいだったって言ってて……距離があったから、異能じゃないかなって」
💜「なるほど、可能性は高いですね。分かりました、その依頼、お受けします」
そうして依頼を受けることになり、美上が帰ると佐久間が阿部を呼びに行った。普段から、依頼者と顔を合わせる事のない阿部。大体は奥のコントロールルームに籠っているから、直接会う事は珍しいのだ。
💚「連続婦女暴行事件か……俺も知らなかったよ」
🩷「あれ、噂とかも回ってない感じ?」
💚「そうだね。引っかかるものはなかったかな……でも、それがかえっておかしい」
💜「だね。20人近くの被害者が出てて、誰も投稿しないわけない。特に、一定の地域でしか出てないのに……」
💚「ちょっと、情報を絞って探してみるね。コントロールルームにいるから」
そう言うと再びコントロールルームに入っていってしまった阿部を見送り、渡辺が伸ばしかけた手を彷徨わせている。
💙「あ……もう行っちゃったか」
🩷「ん? 翔太、なんか阿部ちゃんに用事でもあった?」
💙「いや、さっきまで籠ってたから休憩、挟ませれば良かったかと思って」
💜「舘さんが作ってくれたお菓子、置いといてあげたら?」
💙「そうする」
🩷「俺も紅茶、淹れといてあげよーっと」
それぞれが動き出してしまった為、一人になった深澤はとりあえず、メンバー全員に今の内容を伝えるのに文章を打ち始めた。
今日は依頼などがなくてオフだったみんなが戻って来たのは、お昼を過ぎた頃。遅めのお昼ご飯を食べ終え、先ほどの依頼の件を詳しく話していると、コントロールルームから阿部が出てきた。
💚「みんな揃ってるね」
🩷「おー、阿部ちゃんお疲れー」
❤️「お昼、オムライスだよ。阿部も食べるよね」
💚「ありがとー! お腹ぺこぺこだよー。あ、でも舘様のお菓子も食べたよ。血糖値が急に上がらないようにナッツとか入れてくれてたから嬉しかった」
❤️「それは良かった」
💚「持ってきてくれたのは翔太でしょ? ありがと」
💙「お、おう……」
🖤「しょっぴー、照れ隠し下手すぎない?」
💙「うっせ」
💚「佐久間の紅茶も飲んだー!」
🩷「俺が淹れたってよくわかったね」
💚「いつも飲んでるからね」
💜「それで。阿部ちゃん、何かわかった?」
💚「うん。被害場所の特定はできたよ。えっとね……」
❤️「気持ちはわかるけど、話は阿部が食べ終わってから。阿部、ゆっくり食べな」
💚「あ、そうだね。じゃあ、いただきます」
手を合わせてから、スプーンを使って食べ始めた阿部に、他の者達は食べ終わるまで各々のやる事をし始めたのだが。
その場に目黒とラウールだけは残っていて、キッチン側に立って、カウンターで食べている阿部の姿をじっと見つめている。
💚「はに?(なに?)」
🖤「何でもないよ」
🤍「そうそう。僕ら見てるだけだから」
ニコニコとしているラウールに、口の中に入れたものを飲み込むと。
💚「別に見てなくていいのに……二人ともやることあるでしょ?」
🤍「んーん。大丈夫ー」
🖤「俺もラウールも休憩中だから。阿部ちゃんが気にすることはないよ」
💚「そう? なら、いい、のか……?」
話がすり替えられている事に気付いていないのは、天然ゆえか、頭を使いすぎて少し疲れているからだろうか。
結局、それから30分、目黒とラウールはずっと阿部が食べる姿を見続けていて、そんなめめラウの姿を他のメンバーは、またやってる、飽きないねぇと若干呆れ気味に見ていた。
阿部が食べ終わった頃にはみんながまた集まっていて、阿部は電脳空間で分かった事を、タブレットを使いながら説明する。
💚「この事件、確かに記事とかにはなってなくて、噂も投稿も出回ってなかったから、美上さんの会社周辺の防犯カメラ映像を確認したんだ」
🧡「えっ、どこで犯行があったかわからんのに?」
💚「まあでも、会社と駅を往復するのに、どの道を通っても犯行現場って言ってたでしょ? だから、美上さんの会社と駅を結ぶ道、遠回りする事を考慮して駅とは反対の道まで計算して見てみたんだよ」
タブレットに地図を表示する。
赤い丸が美上の会社。ピンクの丸が駅。そこに行くまでの通常ルートが黄色。少し遠回りする緑のルート。駅の向こう側まで行く青のルート。そして、事件があった場所を紫の丸で付けてある。
複雑に絡み合う地形をした地図で、左右が小さな川と線路に挟まれている。
🩷「うわっ、なんか迷路みたいだな」
💜「ってかさ、事件現場多くない? 20どころじゃないでしょ」
💚「それは俺も思った。想像以上に多くて。ただ、全部に防犯カメラがあるわけじゃないから、追いきれてないのもあると思う」
💛「何で、これだけあるって分かったんだ?」
💚「同じ人が映ってたんだよ。上下黒の服で、黒いキャップ被って、黒いマスクをした男の人。明らかに怪しいから、その人に絞っていろいろ見てたってわけ」
詳しく聞くと、身長は標識から割り出して170~175くらい。普通の体型でこれといった特徴はなし。数メートル離れたところにいる女性がその場に倒れる姿が何度も見受けられており、そのどれにも同じ男の姿がある。
💚「被害になってないのは多分、男が接触してないことと、ケガがどれも倒れた時にできたものばかりだったから。一昨日の美上さんの同期って人のケガも、五段くらいの階段の上にいる時に倒れたから折れたみたいだった」
💜「じゃあ、暴行されたわけじゃないのか」
💚「直接ではなさそうだったよ。ほとんどは」
💜「ん? ほとんど?」
💚「そう。四件だけ、その男が接触した人がいたんだ。その四人、行方不明になってる」
🧡「えっ? 行方不明なのに事件になってへんの?」
💚「うん……変だよね。最初に行方不明になった人が六日前、最近だと昨日。でも、誰も通報はされてない。あ、これが行方不明になってる人たちの写真で、こっちが犯人ね」
タブレット上に四人の女性と、黒い服と黒いキャップに黒いマスクをした男らしき人物の写真が映し出される。
💙「うおっ! すっげー美人」
🩷「ヤバッ。モデルじゃん」
💚「襲われた女性はみんな、170~180くらいの高身長だったよ」
🩷「そういや、美上さんも美人で背高かったよな」
💙「確かに」
💜「狙われるかもって怖くなってもおかしくない、か……」
💚「この事件、10日以内に起こってるから、早めに対処した方が良さそう」
💛「だな。どこで出現するかもわかんねえし、囮捜査で手っ取り早く進めるか」
🩷「囮捜査?」
💛「お前ら、とりあえず女装しろ」
というわけで、急遽始まったのが、特務調査局女装ミスコン。
一人目。渡辺翔太。茶髪のセミロングで巻いてあるウィッグをつけ、上目に見てくる渡辺は紺色のブレザーにチェック柄のプリーツスカートを履いている。
💜「何で女子高生なんだよ、腹立つな」
🧡「ただのしょっぴーやん!」
💙「えー、好みですか? やっぱりぃ、渡辺くんみたいな塩顔のイケメンですかね。きゃっ」
💜「コメントが絶妙にうぜー」
🤍「やっぱ肌キレイだよねー」
二人目。向井康二。腰まであるロングのウィッグに、ベージュのセーターにプリーツスカート、ルーズソックスを履いた平成ギャル風の服装だ。
💜「お前も女子高生かよっ!」
🤍「え、なんかやだー」
🧡「なんかってなんやねん!」
💙「お前も他人のこと言えねーだろ」
🖤「似合ってることは似合ってる、けど」
三人目。阿部亮平。横の髪を残して後ろでまとめ、清楚系のワンピースに身を包んでいる。
🤍「やっぱかわいいね。優勝!」
🖤「え……ヤバッ」
💙「エグいて」
🩷「ダメダメダメダメ! 阿部ちゃんのこれはガチすぎでしょ!」
四人目。深澤辰哉。黒髪のセミロングのウィッグをつけ、ベージュのワンピースを着て、両手でギャルピースをしている。
🤍「なんかきもーい」
💙「お前、バケモンじゃん」
🩷「バケモンってホントにいるんだー」
💜「バケモンじゃねーよ!! かわいいだろうが!」
💙「ちょっと足の処理甘いんだよ」
🩷「なんか、ゾウの膝あったな」
五人目。ラウール。金髪でセミロングのウィッグをつけ、少し顎を引いて大人可愛いという服装をしている。
🧡「おお……かわええやん」
💙「いやまあ、似合ってなくはないけど……」
💛「わかる。女装感が抜けないんだよ」
🤍「ええー。僕は可愛いと思うなー」
🖤「ラウール、細いけど意外とがっしりしてるし身長があるから、女性らしさっていうと違うかなって」
💜「フォローはしてるけど肯定はしないめめ」
六人目。目黒蓮。ストレートでセミロングの黒髪を片側で流している。スリットの入った赤いドレスを着て、肩幅がわからないように黒いストールを肩にかけている。
💚「おおー。美人」
❤️「美しくはあるよね」
🧡「せやな。キレイやけど女子プロみたいやねん」
💜「めめはイケメン。これは間違いない」
七人目。佐久間大介。内巻きにしたミディアムボブで、可愛らしい桜色のワンピースにゆるめのカーディガンを羽織っている。
💜「こういう女子いるわー」
💙「顔、腹立つわー」
💜「飲みの席で、お酒ちびちび飲んでそう」
💙「酔っちゃったー。とかいって、隣のイケメンの肩に頭おく感じ」
🧡「男はそういうの弱いねん」
🤍「康二くん、そういうの好き?」
🧡「……好き」
次は岩本、といきたいところだが。
💛「あ、俺と舘さんはパス。どう考えても無理だもん」
❤️「昔やったけど、俺の女装見てみんな爆笑してたよね」
💙「あれはヤバかった!」
🩷「あの衝撃は忘れらんないね!」
💚「ハイヒール似合ってたけどなぁ」
🤍「えー、めっちゃ見たかったー」
💜「まーとりあえず、俺、なべ、康二、めめ、佐久間で囮だな」
💛「断言していい? ふっかだけは絶対に狙われないよ」
💜「何でだよ!」
💛「だからふっかは一人で、俺が佐久間、舘さんが翔太、ラウがめめ、阿部が康二について遠くから見守ろう。で、怪しい奴がいたら取り押さえる。阿部とラウは無理せず、めめと康二に危険を知らせること」
🤍「はーい」
💚「わかった」
戦える異能を持っていないラウールと、電気の異能を使うと疲れてしまう阿部は、あくまで遠くから見守ることだけとし、何かあれば叫んで伝えて、目黒と向井が対処をすることになった。
💚「被害に遭ってる時間は夜が多いから、今日の夜に行ってみよう」
いつ犯人と遭遇するかはわからないし、数日に渡って行わなければならない可能性もある。
動くならば早い方がいいということで、先ほどの雑な女装ではなく本気でメイクをして服装を選んで女装させることになった。あの辺りはオフィス街ということもあって、仕事帰りの女性がテーマで、ウィッグは先ほど使っていたものをそのまま使い、服装はラウールと宮舘監修で決めていった。
そして夕方、帰宅時間の18時。
それぞれ、犯人が出没するであろう場所にスタンバイし、イヤホンマイクでやり取りをする。
💜『こっちは準備できたよ』
💚『向井、阿部もオッケー』
🤍『僕とめめも大丈夫!』
❤️『宮舘、渡辺、準備完了』
💛『佐久間と岩本もいける』
💜『よし、じゃあ、作戦開始!』
担当箇所は、黄色い中心部の東側を、渡辺と宮舘のゆり組。黄色い中心部の中央を、岩本と佐久間のニコイチ。黄色い中心部の西側を深澤。駅の向こう側である青い南側を、目黒とラウールのめめラウ。美上の会社の裏側、緑の北側を阿部と向井のあべこじ。
黄色い部分が、一番可能性が高いという事で、攻撃力の高い三組が担う事になった。作戦開始とは言っても、ただその道をゆっくりと歩き回るだけなのだが。
ただ、なるべく襲われやすそうな道を選んでいく。襲われるのが目的で、むしろ襲ってくれなければ囮捜査の意味がなくなってしまうから。
阿部は、前を歩く向井から一定の距離を置いて、電柱などに隠れながら進んでいく。
すれ違う人が向井を見て振り向くのは、向井の女装が女装に見えないくらい似合っていて美人だからか、それとも、面白さが勝ってしまっているからだろうか。後者だとしたら、もうアウトだ。
1時間ほど歩き回って、向井も疲れが見えてきている。
そろそろ一回休憩を入れた方がいいだろうか。けれど、21時くらいまでは正直、頑張りたいところ。
そうして見ていると、向井に近づく男が一人いることに気が付いた。
それは、向井の右後方から近づいていて。
💚「康二、右後ろから男が接近してる。ちょっと注意して」
🧡『了解やで』
黒い服の男。後ろ姿だから判別はできないけれど、もしかしたら、と思う。けれど実際、黒い服で黒いキャップを被った男性など多くて、今はまだ動くべき時ではない。
段々と二人の距離が近づく。
緊張が走る。
あと2メートル……1メートル……。
「……あの」
男が向井に声をかけた。瞬間、振り返った向井が持っていたバッグを振り回して男に当てた。弾き飛ばされる男。
倒れた男は、ハンカチを持った手を差し出していて。
🧡「……あれ?」
「お、落としましたよ……」
🧡「あっ! すんません!」
慌てて男に駆け寄る向井に、阿部はホッと胸を撫でおろした。
気付かなかったけれど、ハンカチを落としてしまっていたらしい。なんだ良かった、と思ったけれど、ふと気づく。康二、ハンカチなんか落としてたっけ?と。
背後から伸びてきた左手が阿部の口を塞ぎ。
💚「んんっ?!」
もう片方の手で腕と体をがっちり固定される。力が、強い。
そのままズルズルと後方に引きずられて、すぐに向井の姿が見えなくなってしまう。耳に触れられれば通信ができるのに、肘よりも下を掴まれているから触る事もできない。
危険を承知で電脳空間に行くべきかと思った時、ぬっと視界の外から急に男が現れて思わず目を見てしまった。あっと思った時には体から力が抜けていて。
抵抗するように背後にいる人物の腕を掴んでいたが、その右手が重力に従ってだらんと垂れ下がる。
右手を目の前にいる男に掴まれたかと思うと、腕輪が嵌められた。
マズい。異能を封じられた。それも、異能を使われた状態で。
装着型の異能封じには三種類あって、首輪型は付けた人物の異能のみを封じる。よって、他者は阿部に対して異能を使う事ができる。西矢が異能で阿部の心の声を聞きとっていたのがそれだ。
指輪型は、全ての異能を遮断する。外部の異能を弾き、装着者本人の異能も使用不可になる。当然、その前に使われていた異能も解除される。
そして、腕輪型。これが一番厄介で、装着者の異能が使えないことは共通しているが、他者から受けた異能が継続されて解除されることがないという点。これで自身も他人も阿部に異能を使う事はできず、内から逃げられない異能はずっと阿部の内部に留まり続ける事になる。つまり、異能封じを外さない限り、体の力は抜けたままだという事。
「ようやく見つけたわ」
背後から聞こえてきた声。それは明らかに女のものだった。
「さあ、行きましょう」
女が持っていた石を放り投げると魔法陣が浮かび上がり、徐々に下がって来た魔法陣に触れると三人の姿は消えていった。
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