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夜の静けさが部屋を包む。ギターを膝に抱えたまま、滉斗は窓の外をぼんやりと眺めていた。
今日も、涼ちゃんと元貴と一緒に過ごした。
楽しくて、あたたかくて、幸せな時間だったはずなのに、
胸の奥には、どうしようもないもやもやが残っている。
(なんで、俺は……)
ギターの弦を指で軽く弾く。
その音はどこか頼りなく、心の奥の迷いを映していた。
元貴は、いつだってまっすぐだ。
思ったことをそのまま言葉にして、
「涼ちゃんが好き」って、何のためらいもなく伝えられる。
涼ちゃんの隣にいるときの元貴は、本当に自然体で、
甘えたり、じゃれたり、時には大胆に距離を詰めたりする。
そんな元貴を見ていると、
羨ましい気持ちと、ほんの小さな嫉妬が胸に灯る。
(俺も、本当は涼ちゃんに甘えたい。
もっと素直に、好きだって伝えたい。
でも、どうしてもできないんだ――)
昔から、誰かに自分の気持ちをぶつけるのが苦手だった。
特に大切な人には、なおさらだ。
もし自分が積極的になって、
今のこの関係が壊れてしまったらどうしよう。
涼ちゃんに迷惑をかけてしまったら、
元貴と気まずくなってしまったら――
そんな不安が、いつも心のどこかにある。
(元貴みたいに、強くなれたらいいのに)
(でも、俺にはできない。
涼ちゃんの幸せを一番に考えたいのに、
自分の気持ちばかりが膨らんで、
時々どうしようもなく苦しくなる)
今日の公園でも、元貴が涼ちゃんに甘えているのを見て、
自分でも驚くくらい、胸がざわついた。
(俺だって、涼ちゃんの隣にいたい。
でも、元貴のようにはなれない)
(もし、涼ちゃんが俺の気持ちに気づいてしまったら、
困らせてしまうだけかもしれない)
ギターの音が止まる。
滉斗は深く息を吐き、スマホを手に取った。
画面には、涼ちゃんと元貴とのグループトーク。
二人のやりとりは、どこまでも自然で、
自分だけが少しだけ距離を置いているような気がした。
(せめて、涼ちゃんが安心して眠れるように)
滉斗は、短いメッセージを打ち込む。
『涼ちゃん、今日は楽しかった。無理しないで、ゆっくり休んでね』
送信ボタンを押した瞬間、
ほんの少しだけ、胸の痛みが和らいだ気がした。
(これでいい。俺は影から支えるだけでいい)
窓の外には、夜風が静かに吹いていた。
滉斗はギターをそっと置き、
涼ちゃんへの想いを胸にしまいこむ。
今夜もまた、言えないままの気持ちを、
音もなく抱きしめていた。