屋上に登った。
柵に手をかける。
「なーにやってんの」
振り向くとそこには、男性がいた。
屋根の上に座り、こちらを見下ろしている。
「君には関係無いよ」
柵の外側に出ようとする。
「飛び降りんの?」
笑顔のまま男性は俺に言う。
「だったら何?」
今更止められても、遅い。
「好きにしたら?飛んだら後悔するけど」
後悔?しないよ。
「ねえ、少しだけ私の話聞いてよ」
……少しなら、付き合ってあげてもいいかな。
私はね、勉強も運動も出来て、自分ってすげーってね、天狗になってたんだよね。
中学校までは。
高校生になって、学校に行けなくなった。
同じ時間に眠くならないし、起きようと思っても起きれない。
私の体は、1日が24時間じゃ無かったんだ。
みんなと同じように生活出来ない。
そこで伸び切った天狗の鼻は根元から折られた。
勉強も運動も出来ても、土俵にすら立てない。
それからずーっと自分を責めてた。
自分なんてダメなやつだって。
でもね、他の人の良い所、見つけられるようになったんだ。
それである時、考え方を変えたんだ。
無い物ねだりじゃ無くて、持ってるカードで勝負しよう、ってね。
私はみんなが持ってるカードを持ってないけど、他のカードを使ってなんとかしようって。
それからすっごく楽になってね。
結局高校は中退したんだけど、家で高卒認定取って、大学行ったんだ。
勉強は好きだし、学校も好きだったから。
それで考え方変わった頃からゲームしててね。
寝られない時にゲームしたり、空いた時間でゲームしてたり。
今はゲームで生計立てられるようになって。
諦めないで良かったなって思ったんだ。
何だか俺と似てる。
天狗になってた所とか、体が24時間じゃ無かったりだとか。
というか、ほぼ同じ。
でも、俺は高校生だ。
「君…何者?」
男性はニコッとして言う。
「あるかもしれない未来」
「未来……?」
男性は続ける。
「可能性の一つさ。君がここから飛び降りたら、その未来に辿り着く。君が私と同じ選択をしたら、私のようになるかもしれない」
よく分からない。何を言っているんだろう。
「まだまだ私の他にも、可能性はある」
未来は複数あると言う事だろうか。
「まだ沢山やり残した事、あるんじゃない?」
「そんなもの…」
「明後日、好きなアニメの続編だって」
「来週はマンガの最新巻出るよ」
つらつらと並べられていく。
確かに、まだやりたい事、あったかもな。
「もうちょっと、やりたい事やってからにしよ?」
止められている訳では無い。
でも、もう少しだけ。
「……生きて、みようかな」
俺がそう言うと、男性はニコッと笑った。
その瞬間、風が吹いた。
目を開けると、そこには誰も居なかった。
「………よし、頑張ろう」
自分の望む、未来に向かって。
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モデル誰か分かります?