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お姫様抱っこ。
太宰は・・・できないと思うんだよ・・・細いから・・・中也を姫だき・・・中也は余裕だと思うけど・・・
事の始まりは、本当に些細な、太宰治の「思いつき」という名の毒針だった。 ポートマフィアの最上階。任務を終えたばかりの中原中也は、重厚な革張りの椅子に深く腰掛け、ネクタイを緩めていた。その無防備な首筋に、太宰の視線が絡みつく。
「……ねえ、中也」 「あ? なんだよ、手前。疲れてんだ、手短にしろ」 「君、最近なんだか……小さくなった?」 「……っ殺すぞ!!」
中也が跳ねるように立ち上がる。だが、太宰は涼しい顔でそれをかわし、中也の前に立ちはだかった。
「いや、物理的な身長の話じゃないよ。存在感の話さ。なんだか、ひょいと持ち上げてどこかへ捨ててしまえそうな、そんな儚さを感じるんだ。……ほら、私の方が背も高いし、腕のリーチも長いだろう?」
「……あんだと? 手前、自分が何言ってんのか分かってんのか。そのモヤシみたいな身体で、この俺を持ち上げる? 寝言は入水してから言え」
「おや、試してみるかい? 私は案外、力が強いんだよ」
太宰は不敵に笑った。 内心では、中也が「重力操作」を使っていない今、テコの原理と自分の身長を活かせば、それなりに格好がつくはずだと踏んでいたのだ。何より、いつも自分を見上げている中也を、自分の腕の中に閉じ込め、上から見下ろしてやりたいという、子供じみた支配欲が頭をもたげていた。
「いいぜ。やってみろよ。……ただし、一ミリも浮かなかったら、手前のその包帯、全部剥ぎ取ってやるからな」
中也が挑発的に腕を組む。 太宰は「望むところだ」と、中也の身体に手を回した。
背中と、膝の裏。 太宰はグッと奥歯を噛み締め、全身の筋肉を総動員して引き上げた。
「……っ、ぬ、う……!」
上がらない。 中也の身体は、まるで床に根を張った大樹のように微動だにしない。物理的な重さ以上の「密度」が、太宰の腕に食い込む。 太宰の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。それは気合の表れというよりは、自分の無力さに直面した「焦り」だった。
「……おーい、太宰。地面、一ミリも離れてねえぞ?」
「だ、黙りたまえ! ……今、コツを……掴もうとして……っ!」
プルプルと震える太宰の腕。額には汗が滲み、呼吸は荒くなる。 対する中也は、余裕綽々と鼻を鳴らした。
「終わりか? 情けねえ。……男なら、これくらいのことは片手でやるもんだぜ」
中也が、太宰の腕をひょいと払いのけた。 その瞬間、太宰のプライドが、ガラス細工のように音を立てて砕け散る。
「……ッ、屈辱だ! 君が重すぎるんだよ! 石像でも飲み込んだんじゃないのかい!?」
「あぁ!? 逆恨みしてんじゃねえよ! ……いいか、本物のお姫様抱っこってのはなぁ、こうやるんだよッ!」
中也が一歩踏み込む。 太宰が「えっ」と声を上げる暇もなかった。
中也の剛腕が、太宰の腰を強引に引き寄せる。 太宰の長い脚が、あっさりと宙を舞った。
「――っ!?」
視界が激しく揺れ、気づいた時には、太宰は中也の両腕の中に完全に収まっていた。 それも、少しの力みも感じさせない、あまりにも軽やかな「ひょいっ」という動作で。
「……な、……なっ!?」
太宰の顔が、今度は別の意味で真っ赤に染まった。 二十二歳の男として、自分より一回り小柄なはずの中也に、まるで赤子のように軽々と抱き上げられている。その事実が、脳を激しく揺さぶる。
「どうだ。手前、綿菓子みてえに軽いじゃねえか」
「……お、降ろせ! 降ろしたまえ、中也! これは……これは無効だ! 重力を使っているだろう!」
「使ってねえよ! ……っはは、なんだその顔。真っ赤じゃねえか。そんなに俺の腕の中が気持ちいいのか?」
「違う! 恥ずかしいんだよ! 屈辱だと言っているんだ!!」
太宰は中也の肩を叩いて抵抗するが、中也はその腕をビクともさせない。 それどころか、中也はニヤリと獣のような笑みを浮かべると、太宰を抱えたまま、迷いのない足取りで奥の私室へと歩き出した。
「おい、中也……? どこへ行くんだい、そっちは行き止まり……じゃない、ベッドが……っ」
「手前が自分から飛び込んできたんだ。……タダで済むと思うなよ」
中也の声が、低く、熱を帯びて太宰の耳に届く。 太宰は、自分の心臓がうるさいほどに脈打っているのを自覚した。 身体的な敗北。 自分よりも小さな男に、腕力だけで完封されるという、男としての圧倒的な敗北感。 けれど、その屈辱の裏側で、中也の太い腕に抱かれているという、暴力的なまでの「守られている感」が、太宰の奥底にある甘えを呼び起こす。
「……っ、嫌だ、君なんて大嫌いだ……乱暴で、力馬鹿で……」
「あぁ、そうかい。大嫌いな俺に、朝まで可愛がられる気分はどうだ?」
中也が太宰をベッドに放り投げる。 柔らかいマットレスが太宰の身体を受け止めるが、逃げる隙など与えられない。 すぐに中也が上から覆い被さり、太宰の両手首を頭上で一つに押さえつけた。
「……中也……」
太宰の瞳が、涙とは違う潤みを帯びて中也を見上げる。 頬はまだ赤く、唇は悔しそうに噛み締められている。その「屈辱に震える表情」こそが、中也の独占欲を最も煽る劇薬だった。
「手前が悪いんだぜ、太宰。……俺の火をつけたのは、手前だ」
中也の唇が、太宰の首筋に深く、噛みつくように落とされる。 太宰は「あ……」と声を漏らし、力を失ったように身体を預けた。
腕の中では持ち上がらなかったプライドが、今は中也の重みの下で、心地よく砕けていく。 太宰は、自分を支配する最強の「重力」に、ただ、その身を任せるしかなかった。
「……一晩中、後悔させてやるよ」
中也の囁きと共に、夜の静寂が熱く塗り替えられていく。 翌朝、太宰が腰をさすりながら、死ぬほど悔しそうな顔で中也を睨みつけるまで、この「重力」から解放されることはなかった。
薄暗い寝室に、シーツが擦れる乾いた音と、熱を孕んだ重い吐息が交差する。 中也の腕の中に組み敷かれた太宰は、手首を頭上で片手にまとめられたまま、逃げ場のない熱量に身を悶えさせていた。
「……っ、ん、中也……ッ、苦しい……離せ……っ」
「離さねえって言っただろ。手前が自分から仕掛けてきたんだ、最後まで付き合えよ」
中也の低い声が鼓膜を震わせる。太宰の白い肌には、先ほどまで抱き上げられていた際の中也の指の痕が、鮮やかな赤となって浮かび上がっていた。 太宰は、自分より一回り小柄なはずの男に力でねじ伏せられているという事実が、未だに信じがたい屈辱として胸を焼いている。けれど、その屈辱に反比例するように、身体は中也の強靭な質量を求めて熱く疼いていた。
中也の指が、太宰の脇腹から内腿へと、這いずるように滑り落ちる。 鍛え上げられた指先が肌に触れるたび、太宰の背中が弓なりに跳ねた。
「……ひ、っ……あ、……やめ……」
「口ではそう言いながら、随分正直じゃねえか。……ほら、ここもこんなに熱くなってやがる」
「うるさ……い……っ。君の……せいだろう……っ」
太宰は顔を背け、真っ赤になった耳元を隠そうとする。 普段の余裕ある笑みはどこにもない。そこにあるのは、中也という圧倒的な「個」に侵食され、己の境界線が溶けていく恐怖と快楽に翻弄される、一人の青年の姿だった。
中也が太宰の脚を割り、その間に割り込む。 物理的な重みが太宰を押し潰し、肺から酸素が追い出される。苦しげに喘ぐ太宰の口内に、中也は強引に舌を差し込んだ。 深い、執着の滲む接吻。 太宰は抗うように中也の肩に歯を立てるが、それは拒絶というよりは、あまりの快感に耐えかねた縋るような仕草に近い。
「……あ、っ……ふ、ぐ……」
やがて、準備を終えた中也が、自身の熱を太宰の奥へと沈めていく。 太宰は目を見開き、声にならない悲鳴を上げた。
「……っ!! ……ぅ、……ん、ちゅ、や……っ」
「……きついぜ、太宰。……手前、どんだけ俺を待ってたんだよ」
「……違う……っ、これは、……っ、あ、……ぁっ!」
中也が腰を動かすたび、太宰の思考は白く弾け飛ばされる。 自分を運んだあの腕が、今は自分の腰を強く掴み、逃げ出さないように固定している。 太宰は、自分が「物理的に持ち上げられた」あの瞬間に感じた、魂が浮き上がるような浮遊感を思い出していた。それは、中也という重力に魂を明け渡した瞬間だったのだ。
「……見ろ、太宰。俺を見ろ」
中也が太宰の顎を強引に向けさせる。 涙で潤み、視界が定まらない太宰の瞳に、自分を独占しようとする雄の獣の目が映り込む。
「手前を動かしてんのは、俺だ。……今、手前の世界を支配してんのは、俺の重力だけだ。分かったか」
「……っ、……あ、あぁ……っ! ……分かった……から、……中也、……もっと……っ!」
屈辱は、いつの間にか極上の快悦へと姿を変えていた。 太宰は自分を縛る手首の拘束を解かれた後も、自ら中也の背中に腕を回し、その強靭な肉体に必死にしがみついた。 中也の心音が、自分の胸に直接響く。 この重みこそが、自分がこの世に存在していいという証明。 自分を軽々と持ち上げたあの力が、今は自分を壊さないように、けれど決して離さないように、深く、深く刻み込まれていく。
「……太宰……愛してるぜ、クソ野郎」
「……っ、……私も、……き、らいだよ……中也……」
矛盾した言葉が吐息と共に混じり合い、絶頂の瞬間に、二人の意識は一つの闇へと堕ちていった。 シーツの海に沈み込みながら、太宰は意識の混濁の中で、誇らしげに笑う中也の顔をぼんやりと見つめていた。
翌朝、身体の節々の痛みと共に目覚めた太宰は、自分を抱き枕のようにして眠る中也の腕から抜け出せず、再び「屈辱だ……!」と赤面しながら呟くことになるのだが、それはまた別の話である。