テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第3話 〚心臓が“黙った理由”〛(澪視点)
朝、目が覚めた瞬間から、
胸の奥が妙に静かだった。
嫌な夢を見たわけでもない。
でも、安心とも違う。
ただ、
音がない。
(……また)
布団の上で、そっと胸に手を当てる。
心臓はちゃんと動いている。
でも、あの感覚がない。
未来を引っ張る力。
警告みたいな、ざわつき。
全部、黙ったまま。
登校中、足音だけがやけに大きく聞こえた。
前は、この道で何度も未来を見てきたのに。
今は、
ただの道。
教室に入っても、変わらない。
えまの声、
しおりのため息、
みさとの静かな笑顔。
海翔が前を歩いている。
その背中を見ても、
心臓は反応しなかった。
(……おかしい)
前なら、
安心と一緒に、
何かしらの“兆し”があったのに。
授業中、
ふとノートを取る手が止まる。
(私、いつから……)
思い出そうとすると、
一つの場面が浮かんだ。
——触れられなかった、あの距離。
——戻らないと決めた、あの瞬間。
あの時、
私は未来を“見て”選んだんじゃない。
見なくていいと、
自分で決めた。
(……あ)
胸の奥で、
小さく何かが繋がる。
予知は、
勝手に起きていたんじゃない。
ずっと、
私の「迷い」に反応していた。
怖くて、
選べなくて、
誰かに委ねたくなった時。
だから今——
もう戻らないと決めた私は、
見なくなった。
(心臓が黙った理由……)
それは、
壊れたからじゃない。
強くなったからでもない。
ただ、
「選ぶ覚悟」をしたから。
昼休み、
海翔が隣の席に来た。
「澪、今日も静かだな」
「……うん」
笑おうとして、少しだけ口角を上げる。
海翔は、
それ以上、踏み込まない。
その距離に、
私は安心している。
(見せなくていい)
心臓が、そう言っている気がした。
放課後、
校舎を出る前に立ち止まる。
もし、
また未来が見えるようになったら。
それはきっと——
私が、迷った時。
(じゃあ、迷わなければいい)
簡単じゃない。
でも、逃げない。
心臓が黙った理由を、
私は、少しだけ理解した。
それは終わりじゃない。
新しい始まりだった。
誰も知らないところで、
力の形は、確かに変わっていた。