さてとどうやら迷ってしまったようだ。初日に遅刻で悪目立ちはしたくないのだが、おや、あそこで何かが起こっているぞ?
「ねーねー、君。ちょっと今後さ…」
おや?嫌そうな顔をしてるのに気づいてるのか気づいてないのか。口説き落とそうとしてる男子生徒がいる。
「そのあたりでやめておいた方がいいと思う。明らかに彼女嫌がってるだろ?」
「うっせーよ、俺に指図しやがって。」
「仕方ないな。」
俺はそう言って、ポケットに手を入れる。
すると突然彼は倒れる。
「てめー、俺に何をした?」
「何も。疲労が貯まってて倒れただけ、きっとそうさ。」
もちろん嘘だ。防衛用の魔道具。父上のスケッチを元に俺が開発に成功。半径50cmから1m以内の人間を気絶させることができる優れものだ。
「君、大丈夫?」
そう女子生徒に声をかける。俺は彼女の顔をよく見て驚いた。青色の髪、黒い瞳。力強いイメージを感じとる美しい高貴な女性。彼女を見ていると何かを彼女の内側から俺は何かを感じとることができる。
「ありがとうございます。助かりました。でも私…」
「実は強い?」
「ええ。」
「騎士を気取りたかった、ってのは理由としては不十分かい?」
「いいえ、そんなことは…。申し訳ありません、自己紹介を忘れてましたわ。はじめまして。マリア・フレンベルグと申します。」
やっぱりね。青色の髪は神聖ファーラン帝国の皇帝やその近親者に良く見られる髪色ではある。この王国でも、さすがに神聖ファーラン帝国よりはくすんだ色であるが神聖ファーラン帝国に近い地域では稀に見られたりはする。
「フレンベルグ?神聖ファーラン帝国の王族か。それじゃあ、俺の名前も。ジョー・アルヴィアン、あるいは『引きこもり侯爵子息』。今後ともよろしく。」
そう言って俺はかがんで彼女の手のひらを手にとり、軽くキスをする。神聖ファーラン帝国は独特の仕来たりが多いことで有名だ。これもその1つで忠誠や親愛を意味する仕来たりだ。
「で、申し訳ないんだけど教室棟ってどこだろうか?」
「担当教員の方は?」
「ファレル先生。」
「同じですね。ご案内しましょうか?」
「助かるよ。ところでなぜわざわざ近隣諸国のアカデミーに?」
「理由ですか?新しいものを見たいと思ったからです。」
「自分の入学理由と似てるかもな。だから引きこもり侯爵令息が今君の目の前にいるのさ。」
多分彼女は嘘をついていることに俺は気づいてしまった。そして彼女も多分気づいた。彼女は興味深い人間だ。そして俺とよく似てるな。