テラーノベル
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金曜日の講義がすべて終わり、夕闇がキャンパスを包み込む。
美咲たちに「じゃあね、また来週!」と手を振り、駅の改札前で別れた瞬間、沙織の仮面が剥がれ落ちた。
一週間。長かった拷問のような時間が、今、ようやく終わる。
沙織は走った。息が切れても、足がもつれそうになっても、ただ真尋の部屋だけを目指して、夜の街をがむしゃらに駆け抜けた。周りの通行人が驚いたように振り返るが、そんな他人の視線なんて、今の沙織の目には一切映っていない。
真尋のマンションの階段を駆け上がり、インターホンも鳴らさずに、合鍵でドアを乱暴に開ける。
「まひ、ろ……っ!」
部屋は薄暗かった。その中央、ベッドの端に座っていた真尋が、ゆっくりと顔を上げる。その手には、一週間前に没収された沙織のスマホが握られていた。
「おかえり、沙織。ちゃんと一週間、良い子にしてられたね」
真尋がいつもの、少し冷たくて、でもひどく甘い声で微笑む。
その声を聞いた瞬間、沙織の我慢は限界を迎えた。バッグを床に放り出し、真尋の身体に激しく飛びつく。
「真尋! 真尋、まひろ……っ!」
ベッドの上に二人で倒れ込む。沙織は真尋の首筋に顔を埋め、子供のように大声を上げて泣きじゃくった。涙と鼻水で真尋のシャツを汚すことも厭わず、ただその体温を、匂いを、一週間分の飢えを埋めるように貪り吸う。
「寂しかった……死ぬかと思った、本当に、頭がおかしくなりそうだったの……!」
「うん。知ってるよ。大学での沙織、ずっと見てたから。私のことだけ考えて、必死に『良い子』のフリをしてたでしょ」
真尋は沙織の背中に腕を回し、骨がきしむほどの強さで抱きしめ返した。一週間、沙織を飢えさせていた真尋自身もまた、沙織という極上の依存先を断たれ、狂いそうになっていたのだ。
真尋は沙織の髪を乱暴にかき上げ、その涙に濡れた顔を覗き込む。
「ねえ、沙織。スマホがなくて、私がどこにいるかも分からなくて、どんな気持ちだった?」
「怖かった……私が生きている意味が、どこにもないみたいで……私、真尋がいないと、本当にただの肉の塊になっちゃうの……」
「そう。沙織は私なしじゃ生きられない。それをちゃんと、骨の髄まで分からせてあげるための、一週間だったんだよ」
真尋は沙織のスマホをサイドテーブルに放り投げた。カツン、と軽い音が響く。そんな機械の繋がりなんて、今の二人にはもう必要なかった。
「もう二度と、あんなミスしないでね。私たちの世界を邪魔するゴミは、私が全部排除してあげるから。沙織は、私の腕の中だけで息をしてればいいの」
「うん……! もう絶対に離さないで、もっと強く縛って、真尋……!」
二人は貪り合うように唇を重ねた。何度も、何度も、お互いの存在を確認するように深く、重く、窒息するほどの口づけを交わす。
一週間の隔離は、二人を引き離すどころか、その歪んだ絆をより強固なものへと変えていた。
美咲たち周囲の人間は、まさか自分たちの知らないところで、あの「真面目で優秀な二人」がこれほどまでに深く泥沼に沈んでいるとは、夢にも思わないだろう。
周りには決して迷惑をかけない。完璧な学生であり続ける。
そうして手に入れた誰も立ち入れない聖域の中で、二人はお互いという毒を深く飲み干し、静かに夜の底へと溺れていくのだった。
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ね む 湯 。
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コメント
1件
読み終えました……いやあ、これはもう完全に「二人だけの檻」が完成しちゃった感じですね。一週間の隔離がかえって依存を強固にするっていう皮肉、めちゃくちゃゾクゾクしました。沙織が「ただの肉の塊」って言い切るシーン、生々しすぎて息が止まるかと思った。真尋も真尋で、実は自分が突き放した方も飢えてたって描写が、この歪んだ共依存の深さを如実に物語ってて……。この「外側には完璧でいる」って二重構造も、本当に背筋が冷える魅力でした。一旦完結とのこと、最後まで読ませていただきありがとうございました! もし続きがあれば、また読みたいです。