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「お前は自ら望んで両親がリリアンナ嬢をいじめるのに加担してきたのだろう? リリアンナ嬢を嘲り、虐げ、その痛みを笑っていたはずだ」
「そんなのっ」
「リリアンナ嬢がなにも言わなくても、彼女の様子を見れば一目瞭然だ。弁解の余地はない」
ランディリックの声音は、決して荒々しくはなかった。だが、それが逆に重い冷気のように、屋敷中を凍てつかせた。
「以後、あなた方三名は拘束の上、王都エスパハレの中央審問局へ引き渡します。事実関係の確認が済むまでは、屋敷の外への一切の連絡も、移動も禁じます」
恐怖に打ちひしがれたように、エダが声にならない声で「そんな……」とつぶやいた。先ほどまで威勢の良かったダフネも青ざめ、目を見開いて固まっている。
そんな妻子の背後。未練がましい様子でランディリックの腕の中のリリアンナに縋るような視線を向けているダーレンを見て、ランディリックはその視線からリリアンナを隠すようにマントの下へ包み込んだ。
「ダーレン・アトキン・ウールウォード。貴殿には口にするのも憚られるような罪が付加されることをお忘れなきよう」
ランディリックの声に、リリアンナがギュッと身体をちぢこめたのを感じながら、これ以上この話題をこの場で掘り下げるのは得策ではないと思ったランディリックは、配下の者たちへ目配せをする。
「――うちの者を見張りとして残すが、最低限の礼節として、殺しはしません。しかし、それ以上の寛容を期待なさることはなきよう」
リリアンナを両腕で支えたまま、背を向けるランディリックの背中には、一切の情けはなかった。
***
「終わったか」
リリアンナを両腕で包み込むようにして立ち尽くすランディリックの傍へ、ひとりの男が歩み寄ってくる。黒髪に、濃い金色の瞳を湛えた男――ウィリアム・リー・ペインだった。
穏やかな面差しに似合わぬ鋭い眼差しが、なおも震えているダーレンたちを静かに射抜く。騎士団の礼装を身に纏ってはいるが、どこか優しげな空気を纏った青年だ。
「……まさかあれほどの偽証を、平然と口にするとは思ってなかったよ」
そのウィリアムが、低く絞るような声で呆れたように言うのだ。彼からも、ランディリック同様凍てつくような怒気が滲み出ているにもかかわらず口調はあくまでも冷静で、それがまた不気味なほどだった。
吐息交じりに告げられたウィリアムの声音に、ランディリックが諦観混じりに返す。
「……わかっていたことだろう。キミからの書簡を読んだときから、僕はこの屋敷に理屈は通じないと覚悟していたよ」
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