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初コメ失礼します 素敵です フォローも失礼します
とてつもなく最高でした✨
ベッドの毛布に埋もれながら、何も考えずに無心で寝ようとした。
けれど、今の僕には眠ることさえ辛かった。
ゴスフェのこと、儀式のことが鮮明に思い出される。
どれだけ悩めば気がすむんだ…僕は、僕は
「どうしたら…」
泣けば気が楽になると聞いたが、今の僕には逆効果だ。
嗚咽を出すほど胸の真ん中辺りが締め付けられる。
僕って、キラーに向いてないのかな?
皆は凄いな…僕と違って強いし残酷だしあのエンティティとも親しくなってる。
「死にたい…」
気づけばそんなことを口にしていた。
《死に救済はない》って、あの神は言ってたっけ?
でも、一度でいいから全てをリセットしたい。
例え救済がなかったとしても、また一から他人としてこの世界でやっていけたらどれ程悦ばしいか…。
目線を横に向けると、そこには僕のナイフ…。
生存者を負傷させるためだけに作ったそれは、例えるなら先だけ鋭利に尖っている鉛筆の様なものだ。
「首に刺したらどうなるんだろ…」
試しに突き刺してみようかな…?
ナイフを手に持ち、頸動脈に向けて刺そうとした瞬間…ドアがノックされた。
「トリックスター、今大丈夫か?」
声からしてトラッパーだ…。
どうして、どうしていつも会いたくないタイミングで現れるのかな…?
今君を見たら、もっと涙が溢れ出てきてしまう。
君と話してた時間、教えてもらった時間…
色んな記憶が蘇る中、僕はついに抑えていた声を上げながら泣いてしまった。
すると彼は勢い良く僕の部屋に入ってきてくれた。
「どうしたんだ、トリックスター!」
僕の背中を優しく擦りながら話し掛ける。
今は彼の質問には答えられそうになかった。
嗚咽を出すほど泣いている中、突然トラッパーが僕を抱き締めていた。
「え」
あまりに唐突で驚きながらも、彼の体温の心地良さに受け入れてしまった僕は、相当彼に絆されてるんだと実感した。
「どうして俺に相談しなかった」
彼が彼自身を責めるような声で僕にそう聞いた。
「だ、って…君にっ迷惑!かけたくなかっ…たから」
何とか声を振り絞り彼にそう伝える。
「っ…迷惑なわけないだろ!お前は俺の!……俺の…」
徐々に声が小さくなって行く…何を言おうとしたんだろう。
「ひっく…っ…なに?」
「い、いや…何でもない…うん…」
彼の声からして何か躊躇っている様子だ。
何を考えてるんだろう…。
気がつけば涙なんて止まっていた。
──────
────
───
「うぅ、頭が痛い…」
慣れない酒を飲むのは身体に害だな。
昨日はゴーストフェイスの煽りに負けて変な意地を張り、ワイン一本を飲み干してしまった。
「自分のせいだが、奴のせいでもある」
それにしても、トリックスターは大丈夫なんだろうか…。
ゴーストフェイスは『いつか助けを求める』と言ってはいたが…あまりに安直すぎる。
試しに行くとするか。
彼の部屋の扉を叩く。
「トリックスター、今大丈夫か?」
が、一向に反応がない。
「(寝てるのか?)」
もう一度叩くと、彼が大泣きしているのが聞こえた。
勢いよく扉を開けて、彼の元へ駆け寄る。
「どうしたんだ、トリックスター!」
彼と同じ様に床に座り込んで、背中を擦る。
昨日から彼の様子が変だったが、遂にストレスやらがピークまで達してしまったんだな…。
俺は自分が嫌で堪らなくなり、彼を抱き締めてしまった。
これで罪滅ぼしになれば良いが…。
「え」
トリックスターは案の定驚いてしまった。
仕方ないよな…。
「どうして俺に相談しなかった」
もっと速く彼の異変に気づければ、こんなことにはならなかったはず…。
俺は自分を悔いながらトリックスターにそう聞いた。
「だ、って…君にっ迷惑!かけたくなかっ…たから」
嗚咽混じりに彼はそう言った。
その言葉に余計胸が痛くなる。
「っ…迷惑なわけないだろ!お前は俺の!……俺の…」
一瞬躊躇した。
俺は今何を言おうとしたんだ?
俺の?誰が俺のなんだ?
「ひっく…っ…なに?」
「い、いや…何でもない…うん…」
嗚呼、ようやく気づいた。
俺はトリックスターに憧れ、恋をしてたんだ。
幼少期から恵まれた環境に育ち、父の教えを重んじてきた俺には、栄光も何もなかった。
でも彼は違う。
環境は普通であっても、褒められ育ち、栄光という名のアイドルにまで登り詰めた彼にいつしか俺は憧れていたんだ。
『紳士的』とトリックスターに褒められたとき、恋に目覚めた。
だから精一杯サポートしてやった。
俺の貯めたBPを彼にこっそり分けたり、儀式で良い功績を残せなくとも笑って許してやったり…
徐々に徐々に彼への想いが募って行く中、今こうして愛する人が自分の前で泣いているのが辛くて堪らない。
「すまなかったな…もっと速く気づければ」
「いいよ、僕もちょっと気を使いすぎたし」
気づけば、トリックスターの涙は止まっていた。
ずっと抱き締めていた彼の身体をそっと離し、涙を拭ってやる。
「次からは絶対、俺に相談すること!いいな?」
「はーい」
クスクスと笑いながら、今度は彼の方から抱き締められていた。
「え、と、トリックスター?」
「トリスタでいいよ」
「じゃあ…トリスタ?」
「なに?」
「これは一体…」
「ハグに決まってるじゃん。君の温かさがとっても心地よくってね。ダメ…かな?」
最後の言葉は流石にダメだろ…俺の心臓がもたない…。
「ダメじゃ…ない」
「ははっ、良かった…本当に…」
急にトリスタが黙ってしまった。
「ん?どうした?」
「ねぇ、トラッパー」
「なんだ?」
「好きだよ」
ただの後輩のはずだった彼にいつしか恋をした俺。
ただの先輩のはずだった彼にいつしか恋をした僕。
死に救済はない世界でも、こんなことがあるものなんだな。
「ねぇトラッパー」
「なんだ?」
「愛してる」
「俺もだ」
唇に触れるだけのキスをして、俺たちは抱き締めあった。
【おしまい】