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#ファンタジー
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しめさば
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「もう飽きた! 帰る!!」
「どうやって?」
「うぐ……」
シャーリーと俺との何気ないやり取り。それを見て、周りからは笑顔がこぼれる。
途方もない作業感に嫌気がさすのは当然。しかし、ここは船の上だ。一人で帰れるわけがない。
「シャーリーさん。無理にお手伝いして頂かなくても結構ですので、どうぞお休みになって……」
「いやいや、冗談だから。本気にしないでよイレース……」
皆が落ち着きを取り戻した後、イスハークはイレースを残し別行動を取ることになった。
バルガスに金を返しに行ったりと色々とやることがあるようで、そちらの処理を終えてから四番島で合流予定。
そして現在の俺たちはというと、海賊船の上で頭蓋骨の仕分け作業の真っ最中なのである。
バルバロスが眠っているであろう海域付近にて海の底から頭蓋骨を召喚し、その中からバルバロス本人の物を見つけるという終わりの見えない地道な作業。これこそがイリヤスから請け負った本来の仕事なのだ。
残念ながら|頭蓋骨召喚《サモン クラニオス》は、頭蓋骨であれば全てを無差別に召喚してしまう。
甲板に山積みになったそれを人骨か否かを判別し、ハズレは海へとリリース。人間の物はイリヤスが最終的なチェックをする。イリヤス曰く、触ればわかるとのこと。
そしてそれが終わったのは七時間後。山積みの骨の半分ほどが無くなったあたりでイリヤスが叫んだのである。
「いた! パパだ!」
全員の視線がそこへと集中する。イリヤスが抱きかかえていたのは苔だらけの頭蓋骨だった。
そしてその視線は当然、俺へと向けられる。それを証明するには俺の力が必要だからだ。
場所を船長室へと移し、イリヤスがそれをそっと床に置いた。
イリヤスを疑っている訳ではないが、皆はそれがバルバロスのものであるようにと強く願っていたのだ。
「【|死者蘇生《アニメイトデッド》】」
魔法陣の光が止むと、そこにいたのは無精ひげが不衛生にも見える長髪の中年男性。歳は四十前後といったところか。
俺はバルバロスの顔を知らない。だが、周りの雰囲気でそれが間違っていないことは見て取れた。
いきなりの事で呆けていたバルバロスであったが、飛び込んできたイリヤスとイレースを認識すると、なんとなくではあるが状況を理解した様子。
バルバロスから見れば、俺はあからさまに怪しい魔術師風の男だが、そんな俺に対して深く頭を下げつつも、目頭を熱くしながら二人を優しく抱き寄せていた。
そこからどうなったのかは、知らない。船長室の外で待機していた海賊たちが一斉に中へと雪崩れ込み、オルクスも含めバルバロス一家は揉みくちゃにされていた。
よみがえらせたと言っても、時間制限がある。それを長いと見るか短いと見るかは本人たち次第。
家族水入らず……。いや、海賊水入らずの時間を有効に使えるよう、俺たちは部屋を後にしたのだ。
――――――――――
漣の残響が耳に心地よい。……一部の騒音を除けばだが……。
俺は浜辺で酒を片手に、物思いに抜けっていた。
「どうしてこうなった……」
「いいじゃない。奢りだって言うし。ねえ?」
「うん!」
俺たちが最初に訪れた海賊たちの持ち島、四番島に着いたのは正午を過ぎたあたり。
そこには既に何隻かの船が停泊していて、俺たちが到着すると同時にそれは突然始まったのである。
所謂BBQ大会。ぶっちゃけると打ち上げだ。
即席で作った石組みのかまどに、巨大な鉄板が置かれ、数々の食材が焼かれていく。
大きな酒樽がこれでもかと並べられていて、上蓋が解放されている状態。そこに徐にジョッキを突っ込み、酒を掬い上げ直接飲むという豪快な海賊スタイルである。
右手には串焼き。左手には酒がデフォルトの状況で、騒ぎながらの大宴会だ。
パッと見た感じ百五十名ほどはいるだろうか。これでも全員ではないというから驚きである。
俺は、これを聞かされていなかったのだ。島に新たに墓を作り、そこに二人を埋葬するから見届けてくれという話だった。
そして蓋を開けてみたらこれである。オルクスとイスハークがグルになっていたようで、出資者はイレース。さすが有名ミンストレルはカネがある。
打ち上げと言ってはいるが、実際は船長とのお別れ会的な意味合いが強いのだろう。要は精進落としである。
雰囲気は悪くない。……悪くはないのだが、その殆どが知らない人である。
これからのことを考えると気が滅入る。俺はその一団からひっそり離れると、浜辺でチビチビと酒を煽っていたのだ。
そこに、串焼き片手に寄ってきたのがミアとシャーリー。
「おいしいよ? お兄ちゃん」
微笑みながら渡された串焼きを無下にも出来ず受け取ると、それをてっぺんから齧り付く。
「ああ。味は悪くない」
「良かったわね。上手くいったみたいで」
俺に話しかけるシャーリーの視線は、仲間たちと楽しそうに笑うバルバロス一家に向けられていた。
「そうだな。まあ白い悪魔はイレギュラーだったが、概ねいい結果だとは思ってるよ」
「ほんとハーヴェストにいた時は、こんな船旅になるなんて思いもよらなかったけどね」
「嫌だったらグリムロックの街で待ってくれてても良かったんだぞ? 俺が勝手に受けた依頼だ」
「冗談! 私は困ってるパーティメンバーを見捨てるほど薄情じゃないわよ?」
「ネストとバイスは見捨てて逃げようとしたじゃないか」
「やっぱり見てたんじゃない! それは忘れて!!」
恐らく俺をどつきたいのだろうが、両手は塞がっていて使えない。
俺とミアは、顔を真っ赤にして必至に訴えるシャーリーを見て、高らかに笑い声を上げた。
そんな俺たちの元へと近づいて来たのは、神妙な面持ちのオルクスである。
「九条の旦那。今回は本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ」
串焼きと酒を持っているためか、そう思っているように見えないのが少々滑稽だ。
「気にするな。言ったと思うが、俺はイリヤスの依頼だから受けたんだ。礼ならイリヤスに言ってやれ」
「ああ。何度も言ったさ。一生分な……」
この辺りでは最強だと言われている海賊団にしては涙もろいようで、オルクスはまた泣きそうになっていた。
それを左手の袖で拭うと、空元気と言わんばかりに胸を張る。
「そうだ。船はどうする? 船長には許可を取った。どれでも好きな物を持って行け」
「いらんよ。貰ったって海の知識がない俺たちには到底扱える代物じゃない。置く場所もないし邪魔なだけだ」
「何か礼くらいさせてくれ。それじゃあ俺たちの気が収まらねえ」
「この美味い串焼きと酒で十分だよ。……それと、また海を渡る機会があったら船に乗せてくれるとありがたい。今はそれで充分だ」
「もちろんだ! そんなことだったら何時でも言ってくれ。大歓迎さ」
結局、海賊団は解散することなく続けていくそうだ。それが船長からの最後の命令……。いや、お願いだったかららしい。
離反していた者たちも合流し、心機一転再始動といったところだろう。
冒険者という立場上応援することは差し控えるが、影ながら成功を祈っているとしよう。
――――――――――
真っ青だった空も少しずつ茜色に染まり、水平線に隠れる太陽は既に上半分しか見えていない。……にもかかわらず、未だに宴会は続いていた。
それが終わってしまえば、船長であるバルバロスとイリヤスにはもう二度と会えないのだ。
終わらせたくないという気持ちが焦りを生み、それを願えば願うほど時が経つのを早く感じてしまうのである。
そんな一瞬とも思える時間に、終止符を打たなければならない。それも俺の仕事であった。
「時間だ……」
俺がそれを告げると、辺りはシンと静まり返る。悲しそうな顔で俯く海賊たち。
やはりこうなるとは思っていた。胸が締め付けられるように痛む。
「なあ、九条の旦那。もう少し……もう少しだけいいじゃねえか……」
「ダメだ。制限時間は教えたはずだ。諦めろ……」
こんなこと言いたくはない。俺に永遠の命が与えられる権利があればそうしてやりたい。だが、出来ないのだ。
バルバロスとイリヤスに残された時間は僅か。それを超えれば肉体は崩壊を始め、魂は分離する。
人の死別は幾度となく見てきた。だが、それは死後の話。余命を伝える医師の気持ちが少しわかる気がした。
死んだ者がよみがえる。奇跡とも呼べる力の一端。しかし、それは永遠ではない。
——死の宣告。
それがその力を行使する者が受けねばならない代償なのだろう。まるで死神にでもなった気分だ……。
「じ、じゃあ九条の旦那が海賊団に入ればいいんだ! そうすればいつでも会えるようになる!」
それもある程度返ってくる答えだとは予想が付いていた。だが、それは出来ない。
丁重にお断りしようと口を開けたが、それを止めたのは他でもないバルバロスであった。
「やめろ、オルクス! みっともねえ……。俺の遺言を見てねえのか? 俺の死を受け入れろと書いておいたはずだが?」
「……そうは言っても……」
「つべこべぬかすなあッ!!」
言い訳をするオルクスに、バルバロスの右ストレートが火を噴いた。
それが左頬にクリーンヒットすると、ゴッっという鈍い音が辺りに響き渡り、豪快にぶっ倒れるオルクス。
いくら何でもやり過ぎである。それに驚く俺たちであったが、海賊たちはそれほど気にはしてなさそうだ。
「久しぶりにパパの右ストレートが見れたね。ママ」
「ふふっ……。そうね」
むしろクスクスと笑っているイリヤスとイレース。
これが彼らの日常なのだろう。吹っ飛ばされたオルクスも、殴られた箇所をさすりつつ嬉しそうにしていたのだ。
「俺はお前たちを奇跡に頼るような軟弱者に育てた覚えはねえ! 違うかッ!?」
「「おおッ!」」
体育会系のノリで海賊たちがそれに応え声を上げると、オルクスはゆっくりと立ち上がる。
「すまねえ。船長。目が覚めたよ」
「謝るのは俺じゃねえだろ?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるバルバロス。オルクスは俺に向き直ると、潔く頭を下げた。
「すまなかった。無理言っちまって悪かったな……」
「ああ。気にするな……」
それ以外何も言えなかった。何を言っても悲しませてしまうような気がして、掛ける言葉が見つからなかったのだ。