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「どうして!?」
悲鳴のような声が、広い部屋の中に響き渡った。
「何で、どうしてよ! こんなはずじゃなかった!」
その叫びに答える者はいない。
彼女の目の前にいるのは、この部屋の主だけ。
この城の主であり、この王国の王。そして彼女にとっての保護者だ。
しかし、彼の表情に変化はない。
まるで石像のように動かない。
彼女は歯ぎしりしながら父親を見つめた。
彼が望めば何でも手に入る。どんな宝石だろうと、金塊であろうと、権力でさえ思いのまま。
なのに彼は何も求めなかった。
欲しいものをねだれば与えてくれたのに、何一つ。
「ああもう! どうして何も言わないのよ!」
「…………」
「ねえ、何か言いなさいよ」
「…………」
彼女の問いかけに、彼は答えようとしなかった。
この世界には魔法が存在する。
その力は万能ではないが、人間の欲望を満たすには十分すぎるほどだ。
富、名声、異性に名誉。
それらを求める人間は後を絶たず、誰もが一度は夢見るであろう。
しかし、本当に叶えられる者はごくわずかしかいない。
だからこそ、人々は魔法の力を求めた。
そして今、とある洞窟の中で、一人の少女がそれを手にしていた。
「……これは」
彼女が手にしているのは、古びてボロボロになった本だった。
タイトルは掠れて見えなくなっている。
表紙は色あせており、中を開こうとしてもページがくっついていて開くことができない。
しかし、彼女はその本を大事そうに持ち、そして呟く。
「これ、私が書いた日記だわ」
どうしてこんなものがここに? 不思議に思いながら、パラリと捲ってみる。
そこには、彼女しか知らないはずの記憶が書かれていた。
それは、彼女の人生。生まれたときから、今の今まで。
ずっと。
「どういう、こと?」
思わず漏れた言葉。
けれど、答えてくれる者はいない。
この世界は、彼女とあの人だけのものだから。
あの人が死んで、もう三年。
彼女がこの世界にきて、二年半。まだ、彼女は彼の死を受け入れられない。
いつかは受け入れなければならないと分かっていても、どうしても受け入れられなかった。
彼のいない日々は、まるで味気のない食事のように思えた。
彼がいなくなってからの毎日は、モノクロームの写真のように色を失っていた。
彼と過ごした時間は、幸せだった。彼と一緒に笑いあったり、ふざけ合ったりする時間が、何より好きだった。
でも、もう、その時間はない。
だから、私に残された唯一の希望は、この世界のどこかにいるはずの、ランプの魔神。
彼は言った。「この世界には、きっとお前が望むものが待っている」
って。
私の望みは、たった一つだけ。
彼がいないこの世界で、もう一度だけでも、彼に会いたい。
それが私の最後の願いだ。
これは、私が見た夢の話だ。
私はずっと、この夢の続きを見ているんだ。
いつか目が覚めて、彼のところに行ける日を待ちながら