TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

──何か変だ。


太陽が地平から顔を覗かせた頃合いか。


幾ヶ瀬は無論、世間もまだ眠りから覚めないでいるこの時間。


──何なんだ、これは。


プラザ中崎2階、端から2軒目。

シングルベッドに身体を折り曲げるようにして寝ている男は、突如襲った背筋がざわつくような違和感に飛び起きた。


「なに……あっ、あっ、あぁぁっっ!」


唇の端が切れるくらいに大きく口を開けて、迸るのは悲痛な叫びだ。

額から見る間に血の気が失せていくのが分かる。


「おは。幾ヶ瀬」


ベッドに腰をかけて彼を見下ろしているのは、これはもちろん有夏だ。

艶のある甘い声、やわらかな微笑。

彼がこの時間に起きていることは珍しい。


何かある、というのは長い付き合いの幾ヶ瀬には瞬時に分かった。


「ぁい……ぁぃひゃ……あっ、あひゃぁぁっっ」

──あり、ありかぁ……あっ、ありかぁ(訳)。


パカッと口を開けたまま叫ぶものだから涎が垂れる。

そこに涙も混ざった。


「にゃにひてくれ……ばぁぁっっ……」

──何してくれ……ばぁぁっっ……(訳)。


そう。

目覚めるなりこれだ。


口の中に得体の知れない感触。

電流を貯めた金属が歯を掠めたような、ぞわりと総毛立つこの感覚。


そして眼前に有夏。そう、異様なくらいご機嫌な有夏。


「ぶぁああぁぁっっっ……!!」

──ぶぁああぁぁっっっ……(訳)。


もう一度悲鳴をあげてから、幾ヶ瀬は己の口の中に指を突っ込んだ。


「ぺっ!」


弾き飛ばすようにその違和感を吐き出すと、はぁはぁと息をつく。


「な、なにこれ……」


涙と涎で顔中グチャグチャだ。


ベッドの際には幾ヶ瀬の唾にまみれた銀色の球体が転がっている。


「ふふっ」


有夏が笑いを噛み殺す。


「ありか……何なの、これ……」


銀色のそれは、よく見れば皺だらけである。

テラテラと光る不気味な銀──そう、アルミホイルだ。


「ビックリしたろう?」


「あ、ありか……」


アルミホイルをクチャクチャに丸めて、寝ている幾ヶ瀬の口の中にねじ入れたのだ、この男は。


信じられないという、抗議の視線を気にする素振りもない。

本人は悪戯のつもりなのか。



艶っぽい笑顔をみせる有夏の目元は少し腫れていた。

おそらくワクワクで一睡もせずに決行(アルミホイルを口に入れる)の瞬間を待ち構えていたのだろう。


「ありか……。周回遅れのハロウィンじゃないんだからね? イタズラにしたって、限度ってものがあるんだからね……」


「え、なんですか?」


「あり……ふざけっ……いー、いーーーっ」


「イー」の口で何度も息を吸う。

歯と歯の間に新鮮な空気を通して、アルミホイルの不快な歯触りを消し去ろうとしているのだ。


「幾ヶ瀬、アルミホイルと噛むと電流が流れるんだって。知ってた?」


「いや、知らな……」


「なんとか電流っていうらしい。ツバを介して、歯の詰めものとアルミホイルの間で電流が流れるんだって。不快極まりないだろ? グー○ル先生が言ってた」


「ひっ、怖ろしい! 何なの、この子!?」


しれっとした表情でグーグ○先生から得た知識を披露する有夏に、幾ヶ瀬は肩を震わせた。


瞬時に悟ったのだろう。

ああ、これは復讐なのだと。


前々回(←その時間軸は何だ?)明らかになった過去の過ち。

笛をペロペロした件、その他もろもろの件。

つまり、有夏は怒っていたのだ。


「ああ……俺の考えが甘かったんだ。有夏は頭カラッポだと思ってたから。何かあっても、すぐに忘れちゃうと思ってたから」


「なにか?」


「い、いえ。何でも……」


幾ヶ瀬の目尻からこぼれる涙を見やり、有夏はニヤリと口の端を歪めた。


「いやぁ、ヘンタイにはアルミホイルが似合うかと思って」


「な、何の関連が?」


グッと喉を詰まらせる幾ヶ瀬。

瞬間的に脳裏に何パターンかの対応が浮かんだようで。


ごめんなさい、お許しくださいと土下座するパターン。

俺だって有夏に悪戯しちゃうぞ☆と押し倒すパターン。

いくら何でも悪戯が過ぎると説教に持ち込むパターン。

抱きしめて髪を撫で、愛していると何度も囁いてやろうかなんてことも。


「いくせ?」


「………………」


結局、幾ヶ瀬がとった行動は、有夏に背を向けて布団を頭から被ることだった。


「もうちょっと寝かせてください……」


背後で有夏がプウッと頬を膨らませる気配。


「つまんねぇやつだな、幾ヶ瀬」


何日も考え抜いた復讐──いや、渾身のイタズラだったのだろう。

顔だけ布団から出し、幾ヶ瀬は嘆息する。


もう迂闊なことは言うまい。

有夏を刺激したら、何をしでかすか分からない。


アルミホイルって何だ、発想が怖いわ。

復讐だったら怖すぎるし、イタズラだったらセンスがなさすぎる。


「……でも、そんな有夏が好き」


思いが無意識に言葉に出たのだろう。

囁くように呟いた彼の背に、有夏の額がコツンとくっつく。


「あ……か、も」


「えっ、何……?」


向きを変えると、額と額がぶつかる距離で向かい合うこととなる。

有夏の頬は赤い。


「次回はもっとスゴイの考えるから!」


「次回って……」


「イタズラのネタ!」


妙な闘争心を刺激してしまったらしい。


「イタズラのつもりだったんだ。なんてタチの悪い……」


幾ヶ瀬は恋人の腰に腕を回した。


「はいはい、次を楽しみにしてるよ」


「おう」


でも寝起きはやめてねと付け足した言葉を、有夏は聞いちゃいないのだろう。


しばらくして、2人の静かな寝息が聞こえてきた。


休日の朝。ゆっくりと時を刻む。




「そのイタズラは正義か悪か」完


第21話「魔法のアイテム」につづく


※読んでくださってありがとうございます※

※新しいお話は、例によって来週末に更新です。よかったら見てね※

【BL】隣りの2人がイチャついている!

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

35

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚