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第五話:バギー船大工
──あるとき、バギーは仲間たちとはぐれていた。
「チッ……あいつら、どこ行きやがったんだ。こんな港町で俺様一人にするとは、どういう了見だ!」
苛立ちながら港を歩いていたバギーは、ふと大きな造船所の前を通りかかる。すると、どこからか呼び止める声が聞こえた。
「そこのアンタ、ちょっといいか?」
振り返ると、真面目そうな男が立っていた。ツンとした髪型に、特徴的なサングラス。アイスバーグだった。
「……お前、誰だ?」
「俺はアイスバーグ。この町の造船所“ガレーラカンパニー”の代表さ。あんた、見たところ……派手な風貌のわりには、手が荒れてるな。船大工の経験、あるだろう?」
バギーはぎょっとして、少し身を引いた。
「な、なんでそんなことわかるんだよ!」
「見ればわかる。俺の目はごまかせない。ちょうど人手が足りなくてね……ちょっと手を貸してくれないか?」
バギーは面倒くさそうに鼻を鳴らした。
「ハッ、誰が好き好んでお前らの船なんか作るかってんだ!俺様は海賊王になる男だぞ!」
しかしアイスバーグは淡々と続けた。
「……給料は弾む。1日働いてくれれば、ベリーはこのくらい出す」
そう言って、分厚い封筒をチラつかせる。その中身は、金貨と紙幣でずっしり重そうだった。
「……や、やってやらんこともねぇ……けど!一日だけだかんな!」
こうして、バギーの一風変わった船大工としての1日が始まった。
バギーはガレーラカンパニーの作業服に着替えさせられた。
「なんだよこのダサい服!派手さゼロじゃねぇか!」
「うちではそれが正装だ。文句は受け付けない」
不満をぶつぶつ言いながらも、バギーは作業場に連れて行かれ、船の修理やパーツ組み立てに駆り出された。
「……へぇ、意外と手際いいじゃないか」
「フン、俺様がどれだけすごいか思い知ったか!」
周囲の職人たちも最初は戸惑っていたが、バギーの器用さに感心し始める。
「なかなかやるじゃねぇか、ピエロの兄ちゃん!」
「ピエロじゃねぇ!!船長バギー様だ!!」
休憩中、バギーはアイスバーグと二人で昼飯を食べることになった。造船所の食堂で、簡素な定食が出される。
「お前、なんで俺を雇ったんだ?」
「勘、ってやつさ。腕が立つのは見ればわかる。何より……人の顔色を読まずに、堂々としてるところがいい。今の時代、そういうやつが減った」
バギーは一瞬、ぽかんとした顔をして、すぐにニヤリと笑った。
「へっ、まあな。俺様はカリスマだからな!」
アイスバーグは苦笑いしながら言う。
「それと……あんた、寂しそうな目をしてた。俺も昔、そうだったからな」
その言葉に、バギーの箸が止まる。
「……余計なこと言うんじゃねぇよ」
少し沈黙が流れたあと、アイスバーグがぽつりと呟く。
「もうすぐ、大型船の建造が始まる。その設計は、俺がやった。でも……どうしても一つのパーツだけうまくいかない。あんたのセンスが必要だ」
「はぁ!?人を頼るのが早すぎるだろ、お前!」
「違う、信用してるんだ」
その言葉に、バギーは少し顔を赤らめ、ぶっきらぼうに返した。
「……しゃーねぇな。もうちょいだけ付き合ってやるよ、給料次第だがな!」
こうして数日が過ぎた。
バギーはアイスバーグの元で働きながら、少しずつ造船という仕事の奥深さに触れていった。最初は嫌々だったが、徐々に没頭している自分に気づく。
一方で、アイスバーグもバギーの破天荒だが真っ直ぐな性格に、次第に親近感を抱いていた。
──そして、大型船の建造の日。
全員が見守る中、バギーが担当したパーツが見事に組み込まれ、船が完成する。
「完成だ!」
「うおおおおお!!バギーの兄貴!やってくれた!」
「さすが!頼りになるぜ!」
歓声が上がる中、バギーは照れたように鼻をこすり、
「ま、俺様にかかればこんなもんよ……」
と笑った。
その横で、アイスバーグも静かに微笑んでいた。
「ありがとう、バギー」
バギーは少し驚きつつも、
「……ふん、また困ったら呼べよ。考えてやらんこともねぇからな」
そう言って、彼は大きく手を振りながら港を去っていった。
その後、バギーは仲間たちと合流し、再び海賊としての旅へ戻っていく。
だが、彼のポケットには、アイスバーグがくれた工具の一部が静かに入っていた。
「ま、思い出ってやつよ」
海風が吹く中、バギーはにやりと笑った。
──その笑顔の裏には、少しだけ“ものづくりの楽しさ”と“誰かとの絆”が宿っていた。