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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第12話 〚言葉が止まる距離〛(澪視点)
放課後、
教室の窓際で、湊と話していた。
「……それでさ、えまが全部思い出させてくれて」
「うん」
湊は短く相槌を打つ。
声は静かだけど、ちゃんと聞いている。
「私、まだ全部は思い出してないけど……
でも、懐かしいって思った」
そう言うと、
湊は少しだけ目を伏せた。
「……それでいい」
その言葉に、
胸の奥がほんのり温かくなる。
その時だった。
「澪」
後ろから、海翔の声。
振り返ると、
いつもの落ち着いた表情で立っている。
「その人……白石、だよな」
「うん。幼なじみだったみたい」
“みたい”としか言えないのが、
少しもどかしい。
海翔は、
一瞬だけ湊をまじまじと見た。
「……そうなんだ」
その視線を受けた瞬間——
湊の様子が、はっきり変わった。
背中が、少し固まる。
目が泳ぐ。
「……」
喋らない。
いや、
喋れない、に近い。
「えっと……」
海翔が声をかける。
「俺、海翔。澪と同じクラス」
湊は、
口を開きかけて——
閉じた。
そして、
小さく頷いた。
それだけ。
(……あれ?)
沈黙。
気まずい、というより、
不器用。
湊は、
また頷いて、
視線を逸らす。
「……」
「……うん」
なんとか、
意思疎通はできている。
けど、
言葉が出てこない。
しばらくして、
湊は「先に帰る」とだけ言って、
足早に教室を出ていった。
残された私と海翔。
「……急に静かになったね」
私が言うと、
海翔は少し首を傾げた。
「俺、何かした?」
「してないと思う」
むしろ、
普通だった。
「……なんでだろ」
海翔は、
廊下の向こうを見ながら考えている。
敵意じゃない。
でも、警戒でもない。
ただ——
“喋れなくなる距離”。
(不思議)
心臓は、
静かなまま。
でも、
この出会いが、
簡単じゃないことだけは分かる。
過去を知る人。
今を守る人。
その間に立つ私は、
まだ、何も選んでいない。
それでも、
少しずつ、関係は動いていた。
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