ふと、手にしていた本から目を離す。
赤色の少しつり上がった瞳がその姿を映した。
「…あ、どうも…..」
驚いたように目を見開くと、肩の力がするりと抜けて脱力した。
「すいません、場所…お借りしてます」
そう言うと辺りを見渡す。360度本に囲まれた薄暗い部屋。本の森と言っても過言では無いだろう。
「あは、この形式ではまだ掲載したものが無いですからね…なんというか……いつもの形式で書けば無駄な力が抜けるんですけど…」
必死に言葉を探しているのか、目線を宙にさ迷わせている。しかし諦めたように笑うと本に目を落とした。
「…市販の本みたいな、心情とか描写等を書こうとすると、真面目に書いちゃうというか…いつもみたいなチャット形式だと楽なんですよね。あまり深く考えなくてもいいので」
本の表紙を手でするりと撫でる。表紙には何も書かれておらず、真っ黒だった。
「こんなにも真面目に書いちゃうんだったら、pixivとかに載せたらよかったなぁ…なんて後悔しちゃいそうで。…流石にこんなふざけた小説は出せませんけど」
重そうに腰を上げると、近くにあった本の柱に真っ黒な本を乗せた。肩からずり落ちた大きめのパーカーを引き上げると、あの赤い瞳がまた貴方を捉えた。
「ここまで読んでくださり、ありがとうございます。ちょっとした練習のはずが…結構喋っちゃいましたね」
恥ずかしそうにはにかみながら頬を掻く。そして背を向けると、乱雑に本が散らかっている床の上を歩き辛そうに進む。
足場という足場がない床を進むと、近くの壁にそっと手を這わせた。
「それじゃ、今回はこのくらいで….。私の作品でよければ楽しんでってください。…また、機会があればここで会いましょう」
細い指に力が籠められる。刹那、辺りには暗闇と静寂が訪れた。
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うぇー