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眠りひめ
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夕方、ドラマ撮影を終えて、そのままグループの現場へ向かう。
監督の言葉が、まだ頭の片隅に残っていた。
──好きな人を見る目。
車窓を流れていく景色を眺めても、何度目を閉じても、その言葉だけは消えてくれなかった。
⸻
楽屋のドアを開けた瞬間、賑やかな笑い声が飛び込んできた。
ああ、帰ってきた。
そう思える場所が、今日もちゃんとここにあった。
舜太と太智はスタッフを交えて何やら大笑いしていて、その声が部屋中に響いている。
「いやいや、それ絶対盛ってるやろ!」
「盛ってへん!ほんまに見たんやって!」
仁人はソファにひとり座って、スマホで何かの動画を見ていた。
そして柔太朗は、スタッフと衣装の打ち合わせ中だった。
ハンガーに掛かった衣装を一緒に見ながら、穏やかに笑っていた。
その空気が、あまりにも自然だった。
スタッフも自然と笑っている。
…ほんと、誰とでもちゃんと話せるよな。
昔は人見知りで、自分から話しかけるタイプじゃなかったのに。
いつからだろう、こんなふうに、誰とでもやわらかく笑えるようになったのは。
気付けば、その様子をぼんやり眺めていた。
今度は太智が横へ移動してきて何かを話しかけると、途端に柔太朗が声を上げて、本当に楽しそうに笑った。
その笑顔につられて、自分まで少し笑ってしまう。
……また見てる。
気付いた瞬間、慌てて視線を逸らした。
「はやちゃん」
すぐ隣から声がして、思わず半歩飛び退いてそちらを見ると、舜太がいつの間にか肩を並べて立っている。いたずらを思いついた子どもみたいな顔だった。
「今日さぁ、来てからずーっとなんやけどさ」
「ん?」
「柔のこと、見すぎちゃう?」
一瞬、心臓が止まった気がした。
「……は?またそれかよ」
できるだけ普通に返したかったのに、自分でも分かるくらい声が上擦っていた。
舜太は肩を揺らして笑う。
「今日だけちゃうで?最近ずーーっとや」
「そんな見てねぇよ」
思ったより早く否定の言葉が出た。
そう?、と舜太は首を傾げる。
「俺、今日だけで五回見た」
「なに数えてんだよ」
思わず笑って返す。
そのやり取りを聞いていた仁人が、スマホから目を離さないまま口を挟んだ。
「…まあ確かに」
「え?」
「最近、よく見てる」
短い一言だった。
差し入れをつまみながら、太智まで笑って同意する。
「俺も思ってた。なんか、気付いたら柔太朗のこと見てるよなあ」
3人とも笑っている。
責めるような空気ではまったくない。
いつもの、どうでもいい話で盛り上がっているだけ。
だから余計に胸がざわついた。
みんな気付いてたのか。
俺だけが、気付いてなかった。
「いや、違うって」
苦笑いしながら首を振る。
「見てねぇし」
「もお、はやちゃんそればっかやな」
舜太がにやりと笑う。
「じゃあ、今も?」
反射みたいに目が動いて、途中で止める。
が、もう遅かった。
「ほらぁ!」
舜太が吹き出す。
「今、見ようとしたやん」
「してねぇ」
「した」
「し、て、な、い!」
「したしたー!」
子どもみたいな言い合いになって、楽屋中が笑いに包まれる。
「はいはい、もうわかったからそのへんにしとけ」
仁人が呆れたように笑い、準備しまーす!というスタッフの声が重なって、その話は自然と流れていった。
笑い話だった。
いつもの他愛ないやり取りの、はずだった。
その後の仕事は、いつも通り笑って、歌って踊って、みんなと下らない話をしてふざけて。ちゃんとやれていたと思う。
なのに頭のどこかでは、さっきの会話が離れなかった。
俺、そんなに見てたのか。
監督の言葉が、不意に重なる。
「好きになったら、勝手に目が追う」
そんなわけない。
そう打ち消したはずなのに、胸の違和感だけは、少しも納得してくれなかった。
コメント
1件
第14話、読みました…! いやもう、楽屋の雰囲気やメンバー同士の自然な掛け合いがすごく温かくて、こちらまで笑顔になっちゃいました☺️ でもその中で、はやちゃんの“柔太朗を見てしまう”癖がみんなにバレてるの、めちゃくちゃ胸にきました…! 特に舜太の「今日だけで五回見た」ってツッコミ、笑ったけど核心突いてるし、仁人や太智まで同意してるのがまた🙈 それに監督の言葉が不意に重なるラスト、すごく好きです。自分でも気づかないうちに目が追ってしまうって、それって確かに恋の始まりのサインかもしれない…。まだ認めたくないけど認めなきゃいけない感じ、すごく伝わってきました。 あんりさんの描く“気づきの瞬間”の静かな緊張感、本当に丁寧で素敵です。続きも気になります…!