テラーノベル
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墓地に花を手向け寮へ戻る。毛布の温もりなどあろうはずも無いただ冷たいベッドに寝転がり証明を消す。その時モモトークの着信音が鳴る。
カスミ「…誰だ、こんな時に。…あ、先生か..!ふむ…んん..!?」
内容としてはゲヘナ郊外の秘湯への誘い。そういえばここ最近まともに温泉の視察もしていなかったし..丁度いい。二つ返事で承諾する。
カスミ「ハッハッハ..明日が楽しみだなぁ..」
そのまま目を瞑り暗闇に意識を落とす。
翌朝
重い瞼を擦り時計を確認する。予定の時間は駅の西口へ10時。時計の針が指していたのは9時52分。
カスミ「..はぇ!?しまった、私とした事が..!!こんな日に限って何故だ..!」
急いで着替え、駅へ走って向かう。走れば間に合う距離だった。その時、
不良「この前は世話になったなぁ、温泉部長さんよぉ!」
この前の不良の仲間だろうか。懐から銃を取り出そうとしたが..
カスミ「なぁっ..!?クソっ..はは、そうだな。君達、少しは話を聞いたらどうだ?君らにも予定という物があるのだろう?こんな事で時間を食っている暇があるなら..その小さな脳で賢い行動を好む事だなぁ?」
武器がなくとも余裕は崩さない何しろ今はそれどころでは無いからだ。不良の魔の手が迫る。
不良「はは、面白い冗談言うじゃねぇかぁ!!似合わねぇその布切れみてぇな服をズタズタに引き裂いてやるよぉ!!」
その時。
不良「..な、何熱ッッ!!?な、なんだ!?」
メグ「全く…連絡ぐらいしてくれたら良いのに。ほら部長早く行って!先生が待ってるんでしょ!」
メグが火炎放射器を不良に向け、私にそう伝える。ここまで感謝した事はないだろう。急いで向かう。
カスミ「ハハッ、こんな時まで救われるとは..!済まないメグ!また後で落ち合おう!!」
不良の隙を見て抜け出し、駅へ向かう。先生の顔が見えた。
先生「か、カスミ大丈夫.,?ごめんね、いきなり誘っちゃってさ。」
カスミ「あぁ、構わないさ!それに私こそ..時間に余裕を持てずすまない..」
先生はそんな私にも笑顔で対応する。
先生「大丈夫。さ..行こう!」
そのまま列車に乗り、駅で降りて山道を登り着いた旅館。とても大きかった。それ以上に、隣にいる先生と来た事実が心を躍らせる。
先生「さぁ..今日はたっぷりゆっくりしよう!」
先生の手を取り館内へ。
カスミ「なるほど..これ程とは..!」
普段直接的に向かうことの無い旅館。それもこの規模の..
先生「早速入っちゃう?」
先生もワクワクしている様子だ。いつも頼もしい背中があそこまで躍動感が伝わるとは。子供のようで可愛らしく見えた。
カスミ「では行こうじゃないか!その幻の秘湯..一目見てみたかったんだ..!」
実の所私もかなりここの旅館は気になっていた。活動終わり、土埃に汚れた身体をシャワーで流した後ベッドに寝転びながらよく調べていたものだ。
しかし旅館の支配人は…
支配人「本日は混浴となっていてねぇ..今の時期だけのイベントって訳さ。」
こんなタイミングが悪く..いや、私としてはどちらでも、良いのだが。
先生「あっ..そうなんですか.,?分かった、カスミ..私は大丈夫だよ、ゆっくり浸かってきて、感想を伝えて欲しいな。」
先生が私にそう言う。先生から誘ってくれたというのに彼は入らないのか?それはあまりにも惜しい。それに..先生とて私をただ誘ってくれた訳ではないだろう。ならば私が一肌脱ぐしかない。彼にも温泉の素晴らしさを、その身で味わって欲しい。
カスミ「大丈夫さ先生。私は気にしない。先生が良いと言うなら..この混浴、受けて立ってみないか?」
先生が面を食った表情で、
先生「そ、そんな..カスミが良いならいいんだけど..でもまぁ、私も入るよ。」
カスミ「はは、そうでないとな!行こう先生、貴重な体験の待つ秘湯へ!!」
そのまま個々に別れる。湯煙立ち込める露天風呂。既に入っていた一人の人影。じわじわ晴れていく幻想的な湯霧はまるで夢の景色だった。先生の頼もしい背中..それは色褪せ無いが..何しろ上裸だからか少し緊張する。
カスミ「..ま、待たせたな先生。さぁ、入ろうか?」
先生「そうだね..早くおいでよ、本当に..素晴らしい景色さ..」
先生が私に手招きし、それに向かう。どっぷりと身体を湯に沈めると、ただの浴槽とは違う、温泉特有の香り、これは..椿だろうか?一瞬で疲れが取れていく様は..至高そのもの。それに先生も同じようだ。肩まで浸かって、息を吐く。先生が私を呼ぶ。
先生「…カスミ、見て。物凄い幻想的な景色だよ!」
カスミ「…!」
山に包まれた秘境なのだから当然だが..辺り一面に広がる山の景色と、少し紅葉も見える。
カスミ「そうか..秋が近付いてきているのだな..!ハハ、こんな景色生まれて初めてだなぁ..!!」
先生「私もだよ。キヴォトスに来て色んな生徒と関わるのも楽しいけど..こういう景色は、唯一無二だからね。それに..温泉開発部の部長となんて、光栄な事だし..特別な気分なんだ。」
…ん?考えすぎではあると思うが..まるで私が少し特別な様ではないか。
カスミ「ハッハッハ…私もさ、先生。君と会っていなかったら..この景色も見ること無く生涯を終えてしまっていたのかもしれないんだからな!」
先生は微笑み、
先生「ふふ、出来ることならその生涯を、私が近くで見届けたいんだけどね。」
カスミ「!?は…はは、先生。あまり無境にそのような事を口走らない方がいいぞ?私とて..気にしないはずないだろう?」
先生の言葉のせいか、温泉の効能が体を駆け巡るせいか。私の耳は、今頃真っ赤に染め上がっているのだろう。先生は、
先生「…そうだなぁ..生徒に先生がこんな事言って、許されるべきではないんだろうけどね。」
先生は少し迷って、
先生「冗談などではないよ、カスミ。君の温泉を愛する気持ちがね、私には深く刺さるんだ。普段の爆破もまぁ..本来なら褒められた物ではないだろうけど、それでも私は君を別として見ている。」
突然そんな事を言われては断る面子も無いではないか。あー..駄目だ、駄目だ駄目だ。私は出来ればこの余裕を崩したくない筈なんだ。でもこんなことを言われて嬉しくない人間がこの世界にいるだろうか?少なくとも私はその例外ではない。
カスミ「先生..温泉の心地良さに酔っているのではないか?迂闊にその言葉を口にしてしまったら、私も本気だ。その言葉に..責任を持てるか?」
確認をしたが先生は首を横に振らない。
先生「温泉の効用で私の気持ちはそう変わらないさ。私は本気だよ、カスミ。これが咄嗟に出たお世辞じみた物なら私は大人として失格だろう?」
妙に説得感がある。それでも、私は悩みがあった。
カスミ「私は他の生徒と違ってテロリストでもあれば大して乙女でも無いだろう?それこそ風紀委員長のように。迷惑を掛けることだってあるだろう。私は君を一人の男性として見ている。けど君の事を考えても..後悔させたくないんだ。」
先生はこれ以上話し合いを続けるつもりは無いように私の手を握り、
先生「カスミ。男女としての信頼関係を募る不安はあると思う。けど、 私は絶対に後悔しない、させない。これからも私と道を歩んでくれるかな?その道が暗くなる事はない。保証するよ。」
その言葉に私は折れる。いや、言い方が悪いのかもしれないな。それに視界がボヤける。これは…のぼせたか?それとも…嬉しさのあまり流した涙だろうか?
水面に、2粒の滴が落ちた。
コメント
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..ホシノやセイアのを書いていて思うんだけどさ..また同じ生徒の作品出したいなぁ
先生の「見届けたい」の所イケメン過ぎひん?惚れてまうやろ…忙しい時期やのによう書けますわ…てか普通に泣いてもうてるんやけど…続きが気になるなぁ、無理せず頑張って!
今はただ、君に感謝を