夜、涼ちゃんの部屋には静かな音楽が流れていた。
ベッドの上で膝を抱えながら、涼ちゃんはぼんやりと天井を見つめている。
今日の公園での出来事が、何度も頭の中を巡っていた。
元貴のまっすぐな好意。
滉斗のさりげない優しさ。
二人のあたたかさに包まれている時間は、心地よくて、幸せで――けれど、どこか不安もあった。
(自分は、二人の間でどうしたいんだろう)
(元貴は、いつもストレートに「涼ちゃんが好き」って伝えてくれる)
(滉斗は、言葉じゃなくて行動で、ずっと支えてくれている)
(どちらも大切で、どちらも失いたくない)
スマホの画面には、三人で撮った写真が並んでいる。
公園で笑い合う自分。
映画を観てじゃれ合う元貴と滉斗。
どの写真にも、二人の優しい視線が自分に向けられていた。
(こんなふうに、ずっと三人でいられたらいいのに)
けれど、心のどこかで、それは叶わない夢だと知っている。
いつか、この関係に終わりが来るかもしれない。
その時、自分はどんな顔をして二人に向き合えばいいのだろう。
そして、ふと思う。
(滉斗は……大丈夫かな)
(いつも優しくて、影から支えてくれて、何も言わずに笑ってくれるけど)
(本当は、我慢してないのかな)
(元貴が自分に甘えてくるのを、滉斗はどんな気持ちで見てるんだろう)
(滉斗が無理して笑っていないか、気づいてあげられているのかな)
涼ちゃんは小さくため息をつき、ベッドサイドのキーボードに手を伸ばした。
静かに鍵盤を叩くと、やわらかなメロディが部屋に広がる。
(音楽を作っているときだけは、何も考えずにいられる)
(でも、二人のことを想うと、自然と優しいメロディが浮かんでくる)
(やっぱり、自分は二人が好きなんだ――)
ふと、スマホが震えた。
画面には元貴からのメッセージ。
『涼ちゃん、今日もありがとう! また一緒に曲作ろうね!』
続けて滉斗からも。
『涼ちゃん、今日は楽しかった。無理しないで、ゆっくり休んでね』
涼ちゃんは思わず微笑んだ。
(こんなに大切に思ってもらえて、幸せだな)
(自分が気づかないうちに、滉斗が我慢して、苦しんでいたらどうしよう)
(もっと、ちゃんと滉斗の気持ちにも寄り添いたい)
キーボードの音が静かに消えていく。
窓の外には、春の夜風がそっと吹き抜けていた。
涼ちゃんは目を閉じて、その優しい風に包まれながら、
二人への想いを胸の奥でそっと抱きしめた。
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