テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
◇
西棟。
ソフィアの件から三ヶ月後。
窓の外では、真っ青な空がどこまでも広がっていた。
庭の木々では蝉がこれでもかというほど鳴き続け、 強い日差しが窓ガラスを白く照らしている。
「あ…あつすぎますわ〜…!!」
プリムローズは机に突っ伏していた。
屋敷の中まで夏の熱気がじわじわと入り込み、
いつもは涼しい廊下ですら、今日は頬にまとわりつくような熱を帯びていた。
「まだ七月なんだけど……これほんとに正常なの…?」
さすがのミシェルも今日は大人しく、暑そうに手で扇ぐ。
オレンジジュースをちびちびと飲みながら、ナターシャが呟く。
「………急に…暑くなった……。」
その隣ではラグドールがまたもや机に突っ伏していた。
「あ〜………う〜…。」
そんな様子を見て、イリアは苦笑いをする。
「皆さん完全にバテてますね…。」
「この暑さじゃ無理もないわよ……。」
ローラは扇子を手に持ち、困ったように笑う。
「そうですね…。」
食堂から戻ってきたであろうララビットは、イリアに問いかける。
「イリア…アイスは?」
「あ、すみません…もう切らしてます……。」
その時、ラグドールがガタッと椅子から立ち上がる。
「もうダメです…!このままじゃ熱中症で死んじゃう!」
「そうですね……。」
少し考えるイリア。
「と、とりあえず……扇風機持ってきます…!」
「わたくしも…お手伝い…いたしますわ……!」
フラフラと椅子から立ち上がるプリムローズ。
それをローラが制した。
「やめておきなさい、プリムちゃん…。」
「今にも倒れそうなんだから…。」
ローラに同意するようにイリアも頷く。
「大丈夫ですよ!」
「プリムさんは休んでください…!」
「うぅ……わ…わかりましたわ……。」
渋々といった様子で引き下がった。
イリアは扇風機を探しに倉庫へと消えていく。
「い…イリア…大丈夫かな……。」
心配そうにイリアが消えていった方向を見るナターシャ。
そんなナターシャを横目で見て、ボソッとミシェルが言う。
「…大丈夫でしょ、意外と力あるんだし…。」
「……ん…。」
納得したのかしていないのか分からないが、小さく頷いた。
ララビットが小さくボヤく。
「…はぁ……結界があるからって油断してたね。」
「えぇ、年々夏は暑くなってるわね…。」
と、その時ミシェルがふと上を見上げる。
「……というか…、ヴェルクはずっと部屋の中で無事なの…?」
「あー…普通にぶっ倒れててもおかしくないですね。」
「い、いけませんわ…!?」
「わたくしが……」
プリムローズは立ち上がろうとしたものの、ふらりと身体が揺れる。
ラグドールが慌てて肩を支えた。
「ちょっ、!?ダメダメ…。」
「ローラさんとイオさんに言われたこと忘れちゃいました?」
「……そ…そうでしたわぁ…。」
「…じゃあ俺が見に行って……」
ミシェルが背を向け、階段の方へ向かう。
#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
その時。
ギィ……
静かに二階から足音が聞こえた。
全員が反射的に階段へ視線を向ける。
「………あっつ…。」
その一言に、部屋の空気が一瞬だけ止まる。
「うわっ…!?びっくりした…。」
思わず肩を跳ねさせたミシェルが目を丸くした。
「え。降りてきた。」
ララビットがぽかんと口を開ける。
「あ、死んでなかった。良かったですね。」
「よ、良かったですわ〜……!」
プリムローズはほっと息をつき、胸元を撫で下ろす。
ヴェルクはそんな四人を見渡し、小さくため息をつく。
「死んだことにするのやめて……。」
呆れたような声に、その場の空気が少しだけ和らいだ。
「………びっくりした……。」
ナターシャは目をぱちぱちと瞬かせながら呟く。
猫耳が立っていた。
「かれこれ二週間ぶりね……。」
ローラは苦笑しながら肩をすくめた。
ヴェルクは返事の代わりに、小さな箱を床へ置く。
「これ。新しい便利道具。」
コトリ、と置かれたそれを全員が覗き込む。
そこには、丸い胴体に小さなくちばし。
羽の代わりに短い板状のパーツが左右につき、つぶらな瞳まで描かれている。
どう見ても小さなインコだった。
「……なんですかこれ。インコ……?」
ラグドールが少し戸惑ったように首を傾げる。
「……?」
ララビットがおそるおそる一体を持ち上げる。
すると。
ふわっと 冷たい風が頬を優しく撫でた。
「っ……冷たっ!?なにこれ……?」
思わず肩を震わせる。
「瞬間冷却ロボット。」
ヴェルクはいつもの調子で説明する。
「物体を検知すると冷気を飛ばすようになってるから。」
「……へぇ。」
ミシェルはインコ型ロボットを持ち上げ、くるりと眺める。
「なんでインコ……?」
「何となくだけど。」
あまりにも理由になっていない返答だった。
一瞬だけ沈黙が流れる。
「……まぁ、ヴェルクだし。」
ミシェルはそれ以上突っ込むのをやめた。
「これ……とっても涼しいですわぁ……。」
プリムローズは頬へ冷気を受けながら、幸せそうに目を細める。
「……なんかかわいい……。」
ナターシャも小さく微笑み、インコの頭をそっと撫でた。
「また便利なものを作ったわね。」
ローラも感心したように頷く。
ヴェルクは無表情のまま残りの箱を指差した。
「……これあと七個あるから、好きに取ってって。」
「……イリアは?」
周囲を見回したヴェルクが尋ねる。
「イオさんなら倉庫に扇風機取りに行きましたよー……。」
ラグドールは冷気を浴びながら、ぐでーっと机へ突っ伏した。
「……涼しー……。」
「ん……それじゃ。」
ヴェルクは短く返事をすると、そのまま廊下へ歩いていく。
「ちょっと……ラグドール、自分の使ってよ……。暑苦しい……。」
ララビットが少しラグドールの身体を押し返す。
「だって私のやつ冷気来ないんですってば……。」
「もう早速壊れてんじゃない?」
ミシェルが半笑いで言う。
「私だけ焼け死んでもいいんですかぁ!?ねぇ!?」
「勘弁して……。」
ララビットは呆れたように笑いながらため息をついた。
そのやり取りに、部屋には久しぶりの笑い声が広がる。
「え〜…?じゃあ後でヴェルクに直談判しに行きますかぁ…。」
◇
しばらくして。
廊下の奥から、
「はぁ……はぁ……皆さーん……!」
息を切らしたイリアの声が聞こえてきた。
両手で扇風機を抱え、ふらつきながら食堂へ戻ってくる。
「持って来ましたよ……!」
額には汗がにじみ、肩で何度も息をしていた。
「……イリア。」
ナターシャが少し申し訳なさそうに口を開く。
「……扇風機……その……もういらないかも……。」
「イリアちゃん、ごめんなさいね。」
ローラも苦笑する。
「頼むタイミングが悪かったわね。」
「え?」
イリアはきょとんとして部屋を見回す。
全員のそばには、小さなインコがちょこんと並んでいた。
どれも、涼しそうな風を送り続けている。
「あっ!」
イリアはすぐに気付いて笑顔になる。
「もしかしてヴェルクさんの……?」
「そう。」
ミシェルが肩をすくめる。
「新しい研究かなんかで作った冷却ロボットだって。」
「ヴェルクさん、わざわざ人数分用意してくださったみたいで……。」
プリムローズも嬉しそうに微笑んだ。
「なるほど……!」
イリアも一体手に取る。
ふわり、と心地よい冷気が顔に当たり、思わず目を細める。
「わぁ……涼し〜……。」
その瞬間だった。
カラン、カラン……。
屋敷中に澄んだ鐘の音が響く。
「……イリア…。」
ナターシャが耳を澄ませる。
「……鐘なってる……。」
「……?」
イリアも首を傾げる。
「来客の予定はないんですけど……。」
もう一度鐘が鳴る。
「ちょっと待っててください。」
扇風機を壁際へ立てかけ、イリアは玄関へ向かおうとする。
「わ、わたくしも!」
プリムローズが勢いよく立ち上がる。
「今度こそ行きますわ!」
「ふふ……。」
イリアは優しく笑った。
「わかりましたよ。行きましょうか。」
二人は並んで部屋を出ていく。
背後では、インコたちが小さく羽を震わせながら、静かに冷たい風を送り続けていた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ 伏線あります。あと日本暑すぎだろ。
おお、夏の暑さに全員がバテてる感じがすごく伝わってきたわ!特にプリムローズが机に突っ伏してるシーンはめちゃくちゃ共感した。そこにヴェルクがひょっこり現れて、インコ型の冷却ロボットを人数分持ってくるのがもう…さりげないけどめっちゃ優しいよね。イリアが汗だくで扇風機運んできた後の空気も含めて、久しぶりに笑い声が広がる終わり方が好き。来客の鐘が鳴って「次は誰だ?」って引きになるのも気になる!