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「ねえ、蹴翔。今度は私が仕掛ける番。今から『嘘泣きからの、100%本気の告白の演技』をするから、1ミリも照れずに切り返せるか勝負しよ」
放課後の誰もいない教室。夕日が差し込む窓際の一番後ろの席で、星蘭は机に両肘を突き、不敵にニヤリと笑った。
「はっ、上等じゃねえか。騙しの天才のフルコースだろ? どんな高度な嘘が飛び出すか、トレンディ俳優のこの俺が正面から受け止めてやるよ」
蹴翔はいつものいじわるな笑みを浮かべ、椅子の背もたれに深く寄りかかった。いつもの、人をいじるためのネタ探しの時間。そうお互いに確認し合ってから、星蘭はスッと目を閉じた。
(……よし。今からやるのは、全部『演技の練習』。そう、ただの嘘)
自分にそう言い聞かせ、大きく息を吸い込む。そして再び顔を上げた瞬間、星蘭の「嘘泣き」の演技がスタートした。
「う、うう……っ、ひぐっ……、蹴、蹴翔が、優しすぎて……っ、私、嬉しくて、涙が止まらないよぉ……っ!」
両手で顔を覆い、小刻みに肩を震わせる。指の隙間から覗く瞳はうるうると潤み、声の震え具合も、涙を堪えるように鼻をすするタイミングも、どこからどう見ても完璧な「感動の涙」そのものだ。
「おいおい、泣くなよ妹。10年ぶりに再会したっていうのに、お前のそんな泣き顔ばっか見てたら、俺まで熱血な兄貴の役が保てなくなんだろ」
蹴翔はいつものキザな笑顔を浮かべ、机に両手を突いて星蘭の顔を覗き込む。だが、星蘭は覆った手の内側で、密かに覚悟を決めた。ここまではいつもの嘘の設定。だけど、ここから先は――。星蘭はすっと両手を顔から離した。涙目のクオリティはそのままに、今度は表情から「嘘つきの小悪魔」の気配を完全に消し去る。夕日の赤い光をいっぱいに浴びた、嘘を一切混ぜない、100%本気の少女の顔。
「……ねえ、蹴翔」
まっすぐな声が、静かな教室に響く。蹴翔のキザな笑顔が、一瞬だけピクッと固まった。
「……あ? なんだよ、演技の後半戦か?」
「違う。……あのね、私、実は蹴翔のこと、4年生の時からずーっと好きなんだよね」
「だから、その告白の割に目が――」
「目が、笑ってないって言おうとしたでしょ?」
星蘭は蹴翔の言葉を遮り、さらに一歩、机の距離を詰めるように身を乗り出した。心臓が、耳の奥でうるさいくらいにトクン、トクンと跳ねている。
「目が笑ってないのは、今、心臓が破裂しそうなくらい緊張してるから。……おから始まる、八文字の人。昨日、私が言った条件、本当は気づいてるんでしょ? お・お・は・し・し・ゅ・う・と。……世界一鈍感で、人の気持ちを裏返してしか見られないバカだけど、私、本当に蹴翔じゃなきゃ嫌なの。これは、私の可愛い嘘なんかじゃない。一生に一度の、本当の、本物の告白だよ……!」
一気にまくし立てた星蘭の瞳から、今度は演技ではない、本物の大粒の涙がポロリと頬を伝ってこぼれ落ちた。教室の空気が、完全に凍りつく。「告白の演技の勝負」だと前置きされたはずなのに、あまりの熱量と、完全に『盾』を捨てた星蘭の真っ直ぐな言葉に、蹴翔は完全にキャパシティをオーバーしていた。目の前の星蘭の涙が、紡がれた文字数が、どうしようもないほどの「本物」として蹴翔の胸を刺す。
「お、前……それ、ガチ、な……」
蹴翔の顔が、夕日の赤さなんて目じゃないくらい、カッと真っ赤に染まっていく。右手が、ちぎれそうなくらい激しく右の耳たぶを触り始めた。
「……っ、クソ、お前、反則だろ。そんなの、俺が……」
蹴翔が、生まれて初めて「本音」を口にしようと、喉を大きく鳴らした、その瞬間だった。
ガラガラガラッ!!!!
「うわあああ! ごめん算数の教科書忘れたアアアア!!」
教室の前の扉が、凄じい勢いで開け放たれた。
「――っ!?」
二人が飛び上がるようにして固まると、そこには息を切らせたクラスメイトの男子が立っていた。だが、その男子は自分の机に向かう途中で、教室の後ろに流れる「ただ事ではない空気」を察知し、ピタッと足を止めた。真っ赤な顔で耳たぶを握りしめている蹴翔と、本物の涙を流して机に身を乗り出している星蘭。
「あ……え……? 『本物の告白』……『おから始まる八文字』……?」
男子は、扉を開ける直前に聞こえていた星蘭の絶叫に近いセリフを、ばっちり頭から拾ってしまっていた。手にした算数の教科書を落としそうになりながら、化石のように硬直する。
「あ、いや! 違うんだこれ、これは今、告白の演技の練習をしてて――!」
蹴翔が慌てて説明しようとしたが、顔が真っ赤すぎて全く説得力がない。
「お、俺……何も見てない! 聞いてない! 大橋と穂志羅がガチで付き合うとか、誰にも言わないからあああ!!」
男子は教科書をひったくるように掴むと、脱兎のごとく廊下へ走り去っていった。静まり返る教室。
「……言わないから、って言ってる奴が、一番言い触らすよね」
星蘭が涙を指で拭いながら、ジト目で呟く。
「……あいつ、月曜日の朝にはクラス全員にLINE回してるな、絶対」
蹴翔は学校の机にガクッと突っ伏した。「嘘泣きからの演技」という名目で解き放たれた、100%の本音。最悪のタイミングで乱入したクラスメイトによって、二人の嘘つきの境界線は、強制的に「クラス公認の真実」へと歪められてしまった。
コメント
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うわあ…第6話、めちゃくちゃ良かったです…!🤍 星蘭の「嘘泣きからの本気の告白」、あの切り替えの瞬間、心臓がギュッてなりました。蹴翔が完全にキャパオーバーになって耳たぶ触りまくってるのも、逆にリアルで好きです。 で、あのクラスメイトの乱入…「言わないから」が一番言い触らすパターン、笑ったけど最高のオチでした! 嘘で武装した二人の境界線が、いきなりクラス公認になっちゃう感じ、続きが気になりすぎます🌙