テラーノベル
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冷たい汗を拭い、花音は四度目の朝を迎えた。指先の感覚が、少しずつ自分のものでなくなっていくような、浮遊感にも似た違和感。鏡を見るのが怖い。けれど、花音には迷っている時間はなかった。
「……学校、行かない。凛も行かせない」
あの「角」に行かなければ。図書館の忘れ物さえ防げば。
そう思っていたけれど、運命が「凛を殺そうとする意思」を持っているのなら、学校自体が罠かもしれない。
花音はすぐさま凛に電話をかけた。
「ええっ!? 2人でサボるの? 花音が?」
電話越しの凛の声は、驚きでひっくり返っていた。
「うん……どうしても、今日は一緒にいてほしいの。二人きりで、どこか安全な場所で」
「まぁ…いいけどお母さんにも何とか言っておくね。補習が怖いなぁ…」
凛は渋々承諾してくれた。
二人は学校へは行かず、人通りの少ない、けれど見晴らしの良い公園の広場で落ち合った。ここなら車も来ない。工事現場もない。
「……これなら、大丈夫だよね」
「もう、花音。朝からずっと顔色が悪いよ? もしかして何か隠してたり?」
凛が心配そうに花音の額に手を当てる。その温もりを感じるたび、花音の目には涙が溜まった。
(大丈夫。今はここにいる。凛は、生きてる)
しかし、昼過ぎ。
平穏な空気が一変した。
突然、空が重く、不自然なほどの黒雲に覆われた。
「変な天気……。あ、ねえ、花音。あっちに雨宿りできそうな…」
その時だった。
突風が吹き荒れ、広場のシンボルである大きな時計塔の飾りが、激しい金属音と共に剥がれ落ちた。
「危ない!!」
花音が叫んだ瞬間。
視界の端に、**黒い服を着た「あの人」**が見えた。
そいつはただ、凛の背後に立ち、彼女を死へ誘うように見守っていた。手には何も持っていない。ただ、そこに「死そのもの」が立っているような威圧感。
「あなたはあの時の…!」
花音が目を凝らした瞬間、その影は霧のように掻き消えた。
しかし、現実は止まらない。
巨大な鉄製の飾りが、逃げようとした凛の頭上へ、逃れられない速度で落下した。
「……っ、凛!!」
悲鳴を上げる間もなかった。
鮮血が、公園の青々とした芝生を汚していく。
「なんで……どうして……!」
学校へ行かなくても、角を避けても、死神は形を変えて、場所を変えて、必ず「その時」を執行しに来る。
世界がまた、音を立てて崩れていく。
またしても、自室の天井。
五度目の朝。
花音は起き上がろうとして、布団を掴む手が空転した。
指だけではない。腕、足、そして胸のあたりまでもが、陽炎のようにゆらゆらと透けている。
「……消えかけてる」
凛を救おうと抗うたびに、花音という存在がこの世界の「歴史」から削り取られていく。
このままでは、凛を救う前に、自分が消えてしまう。
そして、ふと机の上を見ると、新しい変化があった。
今まで白紙だった『繰り返す夜の書』のページに、花音と凛が笑い合っている挿絵が、薄汚れ、血に染まった状態で勝手に描き込まれていた。
その絵の中の凛は、真っ黒な影に包まれていた。
「……あの、黒い服の人。あれが凛を殺してるの?」
花音は震える声で呟いた。
もしあれが「運命」の擬人化だとしたら、自分はどう戦えばいいのか。
鏡に映る自分は、もう、幽霊と言っても過言で無いほど変わらないほど希薄になっていた。
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