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わたしの兄は、とても優しくて、とても綺麗で本当に大好きだ。
ずっとずっとわたしと一緒に居てくれると思っていた、だけど…、
「耀さん…、あの、一緒に遊びましょう?」
「ああ…、菊あるか?すまねぇあるよ、今 湾と香達で手一杯ある…、菊はもうお兄ちゃんだから我慢してくれるあるか?本当にすまねえある」
最近妹と弟が一気に増えた…、ずっとわたしと一緒に居てくれた王耀さんは妹達にとられてしまったみたいだ。
毎回毎回お兄ちゃんだからで我慢するのはわたしばかり…、でも王耀さんに迷惑はかけたくはない
毎日毎日、弟妹の世話で髪は乱れ、クマも酷い。
ワンオペの王耀さんにはとても我儘なんて口が裂けても言えないのだ。
「わかりました…、」
精一杯の笑顔を返す、そうすると王耀さんはいつも笑ってわたしの頭を撫でてくれた、だからそれだけで十分だと、毎日自分に言い聞かせていた。
わたしには宝物がある、王耀さんが私のために買ってくれた色とりどりのかみふうせんだ、
それをふうっと膨らませてポンポンと遊ぶ。
王耀さんと遊んでるときはあんなに楽しかったのに、やはり一人だとそんなに楽しくない…、
はっきり言えば、『お兄ちゃんだから』とか『菊はいい子だから』とか、そんなことを言われるのにはもう飽き飽きしてるのだ、
弟と妹が生まれる前は王耀さんはずっとわたしのことだけ可愛がってくれたのに…、
王耀さんはわたしのにーになのに…、
そんなことを考えながら一人でかみふうせんで遊んでいた、
そうしていると、足元にまだ幼い妹の湾がしがみついてきたのだ。
「だぁ、あーぷぅ…っ!」
「えっ…?」
湾のキラキラした瞳がかみふうせんをとらえ、わたしの手の中にあるかみふうせんに大きく背をのばした。
きっとこれで遊びたいのだろう。
でもダメだ、だってこれはわたしと王耀さんの大切な思い出の宝物なんだから。
「あぁ〜あぁ〜っ!」
「あっ、ちょ….これはダメです!」
足によじのぼってかみふうせんをとろうとする妹を思わずふりはらった。
はっとした時にはすでに遅かった。
湾は頬を真っ赤に染め、大粒の涙を零して嵐のように泣きだした。
慌てて泣き叫ぶ湾の元へ駆け寄る。どうにかこうにか謝って必死にあやしたけど、やはりダメであった。
すると湾はわたしが置き去りにしていたかみふうせんの元へ泣きながら突進して行って、そしてそのまま…、
バチンっ!
かみふうせんを手で叩き潰したのである。
その時わたしの中で何かがプツリと切れたような気がした。
今まで堪えてた涙が一気に溢れでる。
わたしは久しぶりに声を荒らげて泣いた。
ビックリしたのか湾もそれにつられるようにまたいっそう声を荒らげて泣いたのだ。
騒ぎを聞きつけた王耀さんが慌てて走ってきた。
「どうしたあるっ!?何があったあるかっ!?」
湾は一目散に王耀さんの腕の中に這っていった。
相変わらず火がついたように泣きつづけている、
そういうわたしもまだしゃくり上げるのが止まらないのだが。
「菊…、何があったあるか…?」
湾をあやしながら王耀さんはそう聞いてきた
不思議なことに王耀さんにあやされると湾はすぐに泣き止んですやすや眠りについたのだ。
わたしは何も言わずにしゃくり上げながら潰れたかみふうせんを指差した。
「かみふうせん…?これがどうしたある?」
「ひっく…っ、こ、れをっ…、湾が…ひっぐっ…、」
「潰してしまったあるか?」
わたしは泣きじゃくりながら頷いた。
「こんなものまたいつでも買ってあげるあるよ?珍しいあるねぇ、菊がこんなことで泣くなんて…、」
「こんなものじゃないですっ!!!」
王耀さんの言葉に酷く腹がたった、思わず声を荒らげて反論する。
「このかみふうせんには耀さんとのたくさんの思い出が詰まってるんです!!こんなものじゃありません、これはわたしの一番の宝物だったんです!!!
だから…、だからぁ…、」
後のほうは涙に負けて言葉を紡げなかった、でも悔しくて仕方なくて涙を堪えていると、
「菊…、」
王耀さんは湾を抱きしめているのと反対の腕で、
ボロボロと泣きながらわたしを抱きしめてくれた。
「ごめんある、菊…、そうだったあるな、そうだったあるな…、」
「耀さん…、」
ぎゅっと抱きしめられると心も暖かくなった…、
やっぱりわたしは王耀さんが大好きなのだ…、
「わ、わたしはお兄ちゃんだからとか、しっかりしてるからってほっとかれるのは嫌なんですっ…、本当はもっと一緒にいたいんです…、」
知らないうちに涙は止まっていた…、
王耀さんは優しい笑顔で頷きながらわたしの頭を撫でて静かに話を聞いてくれたのである。
「耀さんが一番可愛いのはわたしじゃなきゃ嫌です…、だって王耀さんはわたしの、わたしだけのにーになですからっ…、」
すると王耀さんは美しい笑顔でわたしの顔を覗き込んだ。
「当たり前あるよ?後にも先にも我が可愛くてしょうがないのは菊ある…、」
「耀さん…、」
「でも、我は皆のにーにだから…、菊は湾や香達はキライあるか…、」
そんな訳ないと首を振ると、王耀さんは優しく微笑んでまたいっそうわたしを強く抱きしめた。
「みんな、みーんな、我の大切な家族あるっ…、菊、我はお前がだーーい好きあるよ!」
子供の様なあどけない笑顔で王耀さんはそう言った、
本当に不思議なものである、王耀さんに笑顔で抱きしめられるとどんな状況でも安心できるのだから…、
すると、知らぬ間に起きていた湾が私にギュッと抱きついてきた。それを見た王耀さんがふふっと笑った。
そっと湾の頭を撫でてみると彼女は幸せそうに笑ってくれたのだ。
なんだかとっても嬉しい…、
お兄ちゃんである喜びがわかった様な気がした…、
「耀さん、わたし…、お兄ちゃんでもいいですよ…、」
そう言うと王耀さんは嬉しそうに頷いた。
「そうあるか…、でも我の一番の弟は菊あるからなっ…!」
「はい…、」
かみふうせんは戻って来なかったけど、でもそれでもいいと思えるほどの暖かさを兄はくれた。
わたしの兄は優しくて綺麗で強くて、
世界で一番大好きだ…、
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