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好み過ぎる!
はぁ、だる。なんて思いながら身体を起こして、その辺に散らばっていた制服を手に取った。隣にはさっきまで俺の下で、あんあんうるさく喘いでいた女がいる。下着を付けて、ボタンを開けたままシャツを羽織っているだけの女はわざとらく俺の腕に胸を押し付けてきた。
「ねぇいふくん。誰かと付き合う気は無いの?」
「あー、まぁなぁ⋯。」
返事どころか、相槌をすることすらだるい。クズだと思うだろうが、俺から見てこの子達はどれだけオブラートに包んでも所詮セフレ。
気を使わずに本音を言うなら穴でしかないのだ。
「私、いふくんの彼女になりたいなぁ⋯。」
ボソッとあくまで独り言、返事なんて求めていませんとでも言うかのような口調で話しつつ、しっかりとこちらがどういう反応をするのか伺っている。
こいつもそろそろ終わりかなぁ。犬っぽいところとか、ちょっと小柄なところとかが何となく似てたから、セフレとして気に入ってはいたのだが。
付き合いたいという気持ちを表に出し始めた時点でそれはもう終わりの合図である。
「あ、私今日用事あるんだった。またね、いふくん。」
「⋯あぁ。」
そう言って早々に空き教室を出ていった女を見て、俺が帰る前に帰っていくなんて珍しいなと思う。
まぁ先に帰ってくれた方が面倒くさくない。女も帰ったことだし、俺も帰るかとブレザーを羽織って空き教室を後にした。
玄関に行く前に寄った自分の教室で気まぐれに窓から外を見下ろせば、そこには何故かさっきまで俺といた女と黒に金メッシュが入った髪が見えた。面白そうなことになってんじゃん、なんて。
一瞬で元凶が自分だと言うことを察した上で面白そうなんて我ながら性格が悪いと思う。が、別に直そうとは思わない。クズだと思いたければ勝手にそう思ってくれ。どれどれ、と会話が聞こえるように窓を少し開けた。
「ねぇ、聞いてんの!?」
「あー⋯、おん。」
アニキお前、それは絶対聞いてない時の返事だな。
俺のセフレに呼び出されているアニキを何回か見かけたことはあるが、毎回アニキは適当にあしらっている。今回も同様、面倒くさそうに返事をしていた。
女がギャーギャー騒ぎ立てて早十分。こいつもうダメだな、あとで連絡先消しとこ、なんて思っているとビシャビシャという水の音がした。まさかと思い窓から覗けば、俺のいるひとつ下の階の窓からバケツが見えた。バケツに重なってチラッと見えたアニキは案の定びしょ濡れである。
あーあ、流石にアニキキレるだろうなぁ。キレるといってもアニキは殴る蹴るはしないため暴力沙汰になる心配は無いが、相手がうんともすんとも言えなくなるほどに言い返す未来が見える。まぁつまり、精神的ダメージで相手を黙らせるタイプである。そろそろ止めにいってやるか、と窓から眺めるのを辞めて校舎裏に向かった。
「ねぇ、雌豚ちゃん。まろとキスしたことある?キスマーク付けてもらえたことはある?噛み跡は?無いよね、だってまろの本命じゃないもんな。」
俺が校舎裏に到着した頃にはアニキの反撃がもう始まっていたようで、アニキ達にバレないように影からこっそり覗けば女子達の顔は引き攣っていた。
おーおー、いつも通りのオーバーキル。もう相当ダメージ入ってんぞ、そろそろ辞めてあげろよ。⋯え?なに?そんな事思ってないだろうって?当たり前だろ、いいぞもっとやれ。
なーんて呑気に思っているとアニキの口から爆弾発言が。
「しゃあないなぁ、特別に見せてあげてもいいよ?」
いやそれに関しては駄目だろ。
もっとやれとは思ったけど、キスマでも見せてやれとは言ってねぇよ。
いくら女子でもアニキのそのえろい肌見せんな。
そんな俺の思いは届かず、シャツのボタンを上からひとつずつ外し始めるアニキ。
ボタンの外し方えろいな、誰だよ純粋無垢で可愛いアニキにそんな事教えたやつ。
あ、俺か、そりゃ俺好みなわけだ。
あー抱きてぇ⋯なんて思いながら、女子達にチラッと鎖骨を見せようとしたところで、後ろから抱きしめるようにアニキの手に自分の手を重ねた。
「”悠佑”、それ以上は駄目やろ?」
「あははっ!」
あはは、じゃねぇよ。くそ可愛いな、許す。
女子達の方を見れば物凄く動揺している子に、アニキからの反撃と俺の登場のフルコンボで放心状態になってる子が一人。
俺のセフレ達は頭悪い子しかおらんのか。メンタル強くない癖によくアニキに噛み付こうと思うなと毎回思う。
まぁアニキがこういう性格だということを知らないからだと思うが。
「あのーまろ。笑いこらえきれてないの丸わかりなんやけど。」
「わざとだよ、わざと。てかアニキ今回も結構やったな。」
「先に攻撃してきたのあっちやし。それに嫌いじゃないやろ?」
俺悪くない、と言いたげな顔をしたあとに、つい先程までのブスっとした顔からは想像できない可愛らしいニコッとした笑顔でそう問いかけてくるアニキ。
よく分かってんじゃん。嫌いじゃないよ、むしろ好き。というか、アニキだから好き。大好き。
「さすが俺のアニキ。」
なんて言いながら頭を撫でればアニキは嬉しそうに目を細めた。その直後、あッと何かを思いついたような顔をしてから今度は眉毛をへにょんとさせて口をへの字にした。
「なぁにそんな可愛い顔して。どしたの、お兄さんに言ってみ?」
「まろぉ。あの真ん中の子がぁ、俺のことチビで可愛くない不細工な豚だからまろのお荷物だって言ってきたぁ、うぇぇん。」
あーかわいい。ぶりっ子してるアニキもかわいい、天才。女子達がきゃんきゃん吠えているのを横目に、慰めるようにアニキの頭を撫でながら俺も同じテンションで返事をする。
「それは悲しいなぁ、悠佑可愛いから大丈夫だよぉ。」
「うぅう、俺この子のこと嫌いになったから繋がってるならブロックしてぇ。」
あーはいはいブロックね。そろそろこいつも終わりかって思ってたからちょうどいい。
それに大好きなアニキからのお願いを聞かないなんて選択肢はない。
直ぐにスマホを取り出して繋がっているLINEとインスタのアカウントをブロックした。
おいアニキ。
俺がスマホ見てるからバレないだろうって思ってんのか知らんけど女子達に中指立てんのやめろ、全部バレてっから。⋯まぁ嫌いじゃないけど。
「そんなブサイクから想われたっていふくん嬉しくないでしょ。なのになんでよ!」
もうどうしたって俺と関係を持てないと思って全てがどうでも良くなったのか、そんなことを口走った女。
だーいすきなアニキをブサイクだなんて言われて黙っていられるわけが無い。アニキのことをバックハグしながら、女子達を睨みつける。
「あのさぁ、三人とも勘違いしてね?アニキが一方的にって訳じゃねぇんだよ。もう気付いてんだろ?アニキが俺を好きっていうよりかは、俺がアニキに惚れてんの。⋯分かったらさっさと消えろ、もう俺たちに関わるな。」
「やっぱまろかっこいいな。」
帰り道。俺の腕に自分の腕を絡めながら、アニキは上目遣いで俺を見上げてくる。なに、誘ってんの?俺のアニキ可愛いなんて思いながらしれっと鼻先に軽いキスを落とせば、アニキは分かりやすく顔を赤く染めたあと勢いよく顔を背けた。
「外でかっこいいなんて言った俺が馬鹿だった⋯。」
俺とは真逆の方向を見ながらぶつぶつと呟いているアニキ。
口じゃないんだから許してくれよ。なんて思いながら今度はつむじにキスを落とせば組んでいた腕まで解かれてしまった。悲しい、俺泣いちゃう。
「ちょっ、まろッ!」
「はいはい、ごめんごめん。」
アニキはつむじを両手で抑えながらほっぺをぷくっと膨らましてこっちを睨みつけている。睨みつけているといっても俺からしたらただただ可愛いだけなのだが。何をしていても無理可愛い好きに繋がる俺はどうやらアニキの限界ヲタクらしい。リアコ限界ヲタクまろ、爆誕。推しのアニキとキスしてセックスして大好き愛してるって言って貰えてる俺、大優勝じゃね?神様、仏様、悠佑様、ありがとうございます。俺幸せです、幸せ過ぎて軽くしねます。
「⋯まろ、ぶつぶつ一人でなに言ってん?気持ち悪いで?」
さっきまであっち向いて同じことしてた奴がそれ言う?特大ブーメランやぞ?まぁ別に気持ち悪いとは思ってねぇけど。若干引き気味なアニキを横目にあからさまに話題を変える。
「あー、常にアニキが俺の相手してくれればあんな呼び出しも無くなるんだろうなーーー。」
返答は大体想像できてるが、もしかしたら俺が望んでいる答えを言ってくれるのではないかという少しの希望を抱いて、チラチラッとアニキを見ながら独り言風に言ってみる。
「だってまろ絶倫過ぎるんやもん。毎日まろの性欲に付き合ってたら俺しぬ。」
「だからってさぁ、今まで通りセフレとしなよって言う恋人だいぶヤバいぞ?」
ヤバいぞ?なんて言いながら、結局その提案にのってセフレとパコパコしてる俺も相当ヤバいことは自覚済みである。
俺もヤバい奴なのは一旦置いておいて、恋人に浮気しなよって勧めてるのと同じだぞ?やっと想いが通じあって喜んでるところにそんなこと言われた俺の気持ち考えろよ。
やっぱ俺のことそんなに好きじゃねぇのかなってだいぶ落ち込んだんだからな。
「でも俺がいちばんやろ?」
「もちろん。」
「じゃあヤバい奴で全然ええよ。まろがヤバい奴無理ってなったときにまた考える。」
はい、うちのアニキが大優勝です。 天才、無理、好き。何この子、自分が愛されてるって自覚してるの罪すぎるだろ。まじで俺の中のアニキと解釈一致だわ。可愛い顔して文句言ってきた女のことオーバーキルするのも、自信満々なのも、自分の魅せ方分かってるのも全部最高。大好き。
「アニキー、大好き愛してる結婚しよ。」
にっこにこでアニキに抱きつけば、少し嫌そうな顔をしているのに耳は真っ赤に染まっていて照れているのがバレバレである。
「なぁなぁ、まろ。」
「ん?」
さっきまでの嫌そうな顔とは一変して、今度はモジモジしはじめるアニキ。お、これはもしかして。俺も好きとか可愛いこと言ってくれたりするやつですか、悠佑さん。耳だけでは無く顔全体をほんのり赤くしながら、上目遣いで俺を見上げてくる。
「さっき俺が惚れてるって言ってたじゃん?」
たしかにそう言ったけども。好きとか愛してるとか言って貰えるかとワクワクしていた俺には想定してなかった問いかけに、一瞬思考が停止する。
「あぁ言ったけど。⋯え、言ったら駄目だった?」
「ううん、そうじゃなくて。まろ、ちょっと耳貸して?」
少し恥ずかしそうにしながらも、ほら早くと言わんばかりのアニキ。頭の中にハテナを浮かべたたまま、俺は言われた通りに片耳をアニキの方に向ける。
「⋯あのね」
『”俺もやよ”』