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「解析!」リクは手をかざすと、体にまとわりつくキラキラした光を通じて、アイビーの身体の情報をスキャンし始めた。
目の前に浮かび上がる数字と文字。
解析結果
個体名:アイビー・グリズリア
種族名:ホモ・サピエンス
年齢:12歳
HP:500
スキル:強度増幅
筋肉密度は12歳雌の平均の54.7倍
リクは目を見開きながら驚きを隠せなかった。
「筋肉密度54.7倍って…それって普通じゃありえない数値だろ!?」
アイビーは少し照れたように言った。
「だから子供扱いしないでってば…でも、この数値なら私が強い理由も分かるでしょ?」
リクは頷きながら、胸の高鳴りを感じていた。
「これでアイビーの力をもっと引き出せるかもしれない。俺、頑張るよ!」
リクがアイビーの解析を終えた後、3人は巨大な門の前に立っていた。
古びた石造りの門は、無限上流を抜けた先への入り口を示している。
「さてと、門を進むか…」リクが深呼吸しながら呟く。
アイビーとロビンも覚悟を決めた表情でうなずく。
重々しい門がゆっくりと開き始め、3人の前に新たな世界が広がった。
リクは門の前で立ち止まり、ロビンに不安げに尋ねた。
「ロビン、方向わかるかな?」
ロビンはフードの奥の目を細めて言う。
「俺は方向わかる、癖だ。スキルじゃなくて元々あるんだ。」
安心したのも束の間、門をくぐった瞬間、二人の目の前に広がったのは、終わりなくうねる砂の大地だった。
リクは足元の砂が絶えず動き、形を変えていく様子を見て顔を曇らせる。
「……うわ、砂が動いてる。これじゃあ探知もナビも効かないな。」
ロビンも眉をひそめ、周囲を見回した。
「これは……絶望だな。」
二人は動き続ける砂の中で、先の見えない迷宮に迷い込んだような絶望感を覚えた。
門をくぐった先、砂が舞う空間の奥に古びた砂岩の壁が見えた。
その岩には、はっきりと「流転砂漠」と刻まれていた。
リクは指で文字をなぞりながら呟く。
「ここが……流転砂漠か。」
ロビンも無言で壁を見つめ、砂の動きに警戒を強めた。
アイビー「えっ、えっ、なにこれ!? 地面が生きてるの!? わたし、砂に食べられたりしないよね!? ねえ!?」
小さな手でリクの袖を掴み、アイビーが慌てて訊ねる。
ロビン「これは……まずい。砂が……流れてる。これじゃ、方向の感覚、狂う」
リク「えーと……つまり、お前でも迷子になるってこと?」
ロビン「……多分、うん」
アイビー「ま、まよったら……おなか空いて死んじゃうやつ!? やだやだやだ~!」
と、アイビーは半泣きになりながらその場でぴょこぴょこ跳ね、砂を蹴散らしている。
そのすぐ脇、砂岩の壁に、奇妙に歪んだ文字が刻まれていた。
リク「“流転砂漠”……」
まあでも、とりあえず高い場所探して地形見た方がいいかもな」
リクが言って、背伸びをするように首を動かしてあたりを見回す。
すると遠くの砂丘の上に、何かがチラリと動いた。生き物……のように見えたが、それは一瞬で姿を消した。
「……なんか、いた?」
アイビーがリクの視線を追って、目を細める。
「うーん、気のせいかもしれないけど、誰かいたような……。行ってみる価値はあるかも」
ロビンが静かに頷いた。
「慎重に、進もう。ここ、ただの砂漠じゃない」
進み始めてすぐだった。
アイビーが何気なく足元の砂を蹴った瞬間、リクの背中にゾワリと悪寒が走った。
それとほぼ同時に、地面が盛り上がる。
「え、なに……?」
アイビーの言葉が終わるより早く、砂の下から巨大な背ビレのようなものが突き出た。
「下がれっ!」
ロビンがとっさに叫び、三人は飛び退いた。
――ズバァン!
砂を切り裂いて飛び出したのは、サメのような形をしたクリーチャーだった。だが、目はない。全身は鱗ではなく、固くひび割れた岩のような外殻に覆われており、口の中にはノコギリのようにギザギザの歯が何十層にも並んでいた。
「な、なにあれ……サメ!?でも砂の中……!?」
「これが……この砂漠のクリーチャーか」
ロビンが冷静に弓を構えながら言った。
「名前つけるなら……サンドジョーズってとこだな」
「軽く言うなよ!」
リクが叫ぶが、サンドジョーズはすでに二度目の突進を開始していた。
「こっちに来るっ!」
巨大な顎が迫る。逃げ道はない。
「アイビー、リク、伏せろ!!」
ロビンの叫びと共に、一本の矢が光を引いて放たれた――!
サメのようなクリーチャーが再び砂の中に潜った。
「見えなくなった……っ!」
「リク、スキル使って!」
アイビーの声に、リクはすぐに手をかざした。
砂を漂う不気味な気配を追いながら、リクは息を飲み──叫んだ。
「解析!」
リクの視界が一瞬青白く染まり、情報の奔流が脳内に流れ込む。
⸻
《解析結果》
• 種族名:ドレッド・サンドシャーク
• 分類:砂中潜行型クリーチャー
• 体長:約9.3m
• HP:2,800
• 弱点:背ビレの付け根、口腔内の粘膜
• スキル:「潜行」「振動感知」「咀裂」
• 脅威ランク:B+
⸻
「名前はドレッド・サンドシャーク……! でかいし、HP2800……っ!弱点は、背ビレの根元と口の中の柔らかいとこ!」
「振動で位置を探ってるってことは、動きすぎたらバレる……!」
アイビーが地面にぺたんと伏せた。
「じゃあ……止まるのが正解?」
「いや、逆だ」
ロビンが矢を構えながら静かに言った。
「動いて、誘って、撃つ。俺がやる。準備しておけ」
砂の表面に、小さな波紋。
それが一瞬で大きなうねりに変わり、地鳴りのような音とともに砂が隆起した。
「来るっ!」
ロビンが矢を番え、低く構える。砂煙の中から突き出た巨大な背ビレが、猛スピードでこちらに迫ってきていた。
「今だ、ロビン!」
リクの叫びに反応するように、ロビンの矢が閃光のように放たれた。
──ズバッ!
矢は正確に、背ビレの根元に突き刺さった。砂の中から轟音が響く。ドレッド・サンドシャークが苦悶の声を上げ、体勢を崩して砂の上に飛び出した!
「アイビー、今っ!」
「うんッ!」
アイビーが地を蹴って飛び上がる。強化された脚力で空中から体勢を整え、シャークの口に向かってパイプを振り下ろす!
──ガッ!
粘膜に命中。体液が飛び散り、シャークが悶絶する。
「とどめは……!」
リクは手をかざした。
スキルの使用はできないが、自作の火薬弾を取り出し、口の中へと投げ込む。
「行けッッ!!」
火花と爆音が炸裂。シャークの体が跳ね、やがて砂上に崩れ落ちる。
……沈黙。
「……倒した?」
リクがそっと近づくと、巨大なサンドシャークは完全に動かなくなっていた。
やがて、砂がその体を飲み込むようにゆっくりと埋めていく。
に沈みゆくサンドシャークの死体。
残されたのは、細かく舞い上がった砂埃と、熱気を孕んだ静寂だけだった。
「……倒した、よね?」
アイビーが警戒しながらも、そっとリクの後ろに立つ。ロビンも矢を番えたまま、まだ気を抜いていない。
「うん、でも……」
リクはゆっくりと砂に膝をつけ、周囲を見渡す。
さっきまでの殺気が消えたのは確か。でも、それ以上に――
「なんか……変だな。静かすぎる」
確かに、砂のうねりも、風の音すらない。
リクが身構えた瞬間――
地面が、僅かに震えた。
それは小さな振動。けれど、足元の砂が「波打つ」ように揺れている。
「……まだ、何かがいる」
リクの脳裏に、さっきの解析の結果がよみがえる。
《名称:ドレッド・サンドシャーク・スカウトタイプ》
──スカウトタイプ。つまり、偵察・索敵用の個体。
「これ、群れが……来るかもしれない」
空気が急激に張り詰める。アイビーが息を呑み、ロビンが矢を構え直す。
そのとき、リクの頭の中で、またあのアナウンスが流れた。
「……《警告。危険度レベル上昇》」
砂漠が、ざわめき始める。