俺はベッドの上で横になり、静かな部屋の天井をぼんやり見上げていた。体調の悪い日には、決まって昔の嫌な記憶が蘇る。
だから、誰にも声なんてかけてほしくなかった。
その時……
「末澤さん……昼ごはん、できました。ここに置いておきますね。」
ドア越しに、あいつの柔らかい声が聞こえた。
足音が遠ざかっていく。
……返事、できひんかった。
なんでや。
俺、あんなひどいこと言ったのに……。
なんで、あいつは普通に優しくすんねん……。
【……変な奴。】
思わず呟いてから、ベッドを降りた。
ドアをそっと開けると、丁寧にラップがかけられた皿が置いてある。
【アイツ……料理できるんや。】
部屋に戻って一口食べる。
その瞬間、思わず目を見開いた。
【……美味っ】
気づけば完食していた。
食欲なんてほとんどない日だったのに。
少し休んでから、俺は食器を持って階段を下りた。
リビングに入ると、ソファで丸くなって眠るあいつがいた。
疲れたのか、胸の前で手を握りしめながら小さく寝息を立てている。
俺はそっとテーブルに食器を置き、あいつの顔を見下ろした。
【……美味しかったで。】
眠ってるから聞こえへんのに。
つい、頭に手を伸ばしてしまった。
ふわっとした髪が指に触れる。
撫でていると……
「……末澤さんと仲良くなりたい。」
あいつが、かすかに呟いた。
【……っ。】
心臓が跳ねて、思わず手を離した。
【……なんやねん、寝言かよ】
けど、その寝言に胸がじんわり痛くなる。
俺なんかと、仲良くなりたいなんて……。
ため息をつきながら、近くにあったタオルケットをそっとかけてやる。
震えるように眠っている姿が、妙に放っておけなかった。
食器を持ち、キッチンのシンクに置く。
洗う気にはなれず、そのまま風呂場へ歩いていく。
視線の端に、タオルケットに包まって眠るあいつが見えた。
なんでや……。
なんで、こんな気持ちになるんやろ……。
胸の奥が、ゆっくり動き出していた。
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