テラーノベル
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自分が二人いたらどんなに楽だろうって、余裕で百回以上は思った。学校の休み時間に終わらない宿題、親に殴られる瞬間。
自分の代わりをしてくれる存在が欲しかった。
それに二人いれば虚しくないし、話し相手にも困らない。
でも話しかけてみても、きっとその返答は分かってるんだ。
他でもない自分自身だから……期待できるような突飛な答えは返ってこない。
暇だね、と言ったら「そうだね」としか言わない人形。そんなものを心から望んでもしょうがない。
なのに自分の世界に閉じこもったら居ないよりはマシだと思ってしまう。完全に独りは怖い。孤独は死と同等の恐怖。
辛い、寂しい……けど現実にいる自分も、独りだったんだ。ずっと独りで闘っていた。ここで呑気に突っ立ってた俺よりよっぽど苦しかったはず。
大丈夫だ。もう二度とひとりにしない。
帰って、ひとつに戻ろう。
「匡!!」
懐かしい声が頭上から振ってきた。
眩しい光、鮮やかな色、柔らかい温もり。どれも、十年ぶりに感じた瞬間だった。
「あ……」
白い蛍光灯が眩しくて目を細める。知らない部屋の天井を見上げていた。ベッドに横になり、白衣を来た人達が驚いた顔で見下ろしている。
「永月さん、聞こえますか?」
問いかけに頷くと、彼らはホッとしたように現状を話し出した。もっとも俺はその話の三割も理解できず、頷くだけ。
ただ、驚いていた。
目を覚ました先は紛れもなく、十年前に自分が生きていた世界。
匡は病室で意識を取り戻した。
隣を向くと清心が泣きそうな顔で手を握り締めていた。
独りじゃない、確かに繋がっている温もり。
「良かった……っ」
自分のために涙を流してくれる人がいる。
それを知ったら、やっぱり生きなきゃ駄目なんだなあ、なんて呑気に思った。
「秦城……俺、生きてるの?」
「もうっ、当たり前だろ! ……おかえり」
彼は怒ってるのか悲しんでるのかよく分からない声で笑った。
アンバランスな子だ。多分、それは昔と変わらない。
可笑しくて、つられて笑った。
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