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彼女と付き合い始めて、様々な思い出が増えていく中で、
父へ、彼女を会わせたかったという気持ちが募った。
『待っているから。いつか、会わせてくれる時を』
いつか大切に思える人と会わせてくれることを待っているからと、そう話してくれた父に、彼女を会わせたいと心から願った。
作った朝食を共にしながら、父への思いを浮かぶままに話して、
「……もともと私の料理は、幼い時分に父に教わったものでした。父は母の代わりに料理の手ほどきをしてくれて、出来上がりを待つ私にアレンジの仕方など色々と教えてくれました……。
自分の料理がこんなにも喜んでもらえるとわかっていたら、一度くらいは、父にも私の作ったものを食べてほしかった……」
そこまで話して、短く息をついて、
「……一つ、お願いがあるのですが、」
と、彼女へ意を決して切り出した。
「……今度、父のところへ私と行ってくれませんか?」
思い切って口にした私に、
「お父様のところへ?」
彼女が訊き返して、
「ええ…そろそろ月命日になるので」
答えると、逝ってしまったあの日のことが鮮明に思い起こされた……。
「……そうなんですね。私も、お父様にお会いしたいです」
『会いたい』と言ってくれる彼女の言葉の優しさに、父を喪った悲しみが打ち消されていくようで、
「ありがとう…そんな風に言ってもらえて、嬉しいですよ…」
テーブルの上のカップから紅茶の一口を含むと、口元がふっと緩んで自然と笑みがこぼれ落ちた……。