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「大津」
腕時計を見ながら沙織に声をかける。
もうすぐで22時になるところだ。
「店長に状況説明して。俺は近くの交番に行ってくる。、、一応、鍵は閉めて」
ちらりと悠真を見やり、口を開いたが、何も言わず1つ頷いた。
悠真は玄関に戻り、靴を履き、外に出た。
カチャン。と鍵の閉まる音を聞き、早足で交番に向かう。
一緒に行った方がよかっただろうか?
葛藤があったが、夜遅い。部屋に居させてもらった方が安全だろう。
目的地は交番だが、道中、暗い公園や見通しの悪い住宅街だ。
不意打ちで襲われたらなす術がない。
というか、真正面から襲われても盾になるしかできないだろう。
男、という体のつき方はしているが、鍛えていないから筋肉がない。腹は出てはいないが割れてもいない。
脱線する脳を諌め、自分の判断が間違っていないと肯定するように、何度か頷いた。
早歩きしているせいで、交番に着いた頃には少し息が上がっていた。
鍛えよう。と小さい後悔と目標をこっそり決め、額のうっすら浮かぶ汗を指で払い、息を整えた。
交番の横開きのドアを開け、足を踏み入れた。
悠真を見送った沙織は、すぐさま鍵を閉め、リビングへ戻ってきた。
同僚の女の子とはいえ、初めて入った他人の部屋。居心地の悪さを覚えつつ、スマホを取り出した。
通話履歴を開き《店長》をタップする。
コール音を聞きながら、本当は悠真についていきたかった気持ちを見つめ、ため息をこっそりつく。
出ない。
再度、電話をかける。
悠真は前の会社の同僚だった。同期だった。
悠真と沙織を含めた7人の同期は、それぞれの部署へ配属された。
それなりに大きい会社で、沙織は事務、悠真は営業。
職場で肩を並べることはなかったが、悠真は中々優秀で、契約を決めてきた書類や、手紙の発送依頼。経費の申請もこまめに沙織に持ってきては、持ち帰り用のカップに入ったホットコーヒーを手渡しつつ、「よろしく!」とにこやかに笑って手を振って去っていく。
他の同期や同僚は沙織の事を《まじめ》《面白味がない》《取っつきにくい》《何を考えているか分からない》と評した。
しかし悠真は、研修の時から緑茶やコーヒーしか飲まない沙織に対して
『大津って面白いやつだなー、この間の飲み会ン時も緑茶割りにしてなかった?静岡出身?』
と、ビールジョッキ片手に沙織の隣に腰をおろす。
とんだ偏見だ、と思いながら否定し、ゆっくり会話した。
『面白いやつ』も意味が判らなかったが、 淡々と返すだけの沙織に、言葉を投げかけ、楽しそうに笑う。
非常に心地好く、楽しんでいた沙織は、そんな気持ちがバレないように取り繕った。
悠真は仕事ができ、周りとの交流も多く、名前や顔を覚えるのが得意で、軽やかに会話を弾ませることができるのが心底凄いと賞賛した。
しかし、数年してから上司の女性に言い寄られ、仕事ができ、評判がよかった悠真に嫉妬した同じ部署の先輩に嫌がらせを受ける日々が続いていた。
力のない、苦い表情を浮かべながら「処理しといて」と退職届を渡してきた。
悠真は、沙織によく持ってきてくれていたコーヒーのお店で働く事になったと伝え「気が向いたら来て」と苦笑し去っていった。
沙織はヴェンガムに足を運ぶことはなかった。
悠真が辞める前から2人の同期は退職していて、気がついたら、同期は1人も残っていなかった。
中堅社員となり、人間関係はうまく行っておらず、仕事だけが増えていき、後輩に気を遣いながら教えなければならない。
非常に疲れていた。
目標も目的もなく、ただただ仕事をこなす日々が続いていた仕事終わりに呼び止められた。
「大津?ああ、やっぱり大津だ。髪切ったんだな。似合うじゃん。綺麗な顔立ちしているからやっぱ輪郭出してた方がいいよなー」
記憶よりも少し頬に丸みを帯びていたが、懐かしい笑顔が向いてきた。
驚いて何も言わない沙織に悠真は慌て出す。
「悪い!セクハラだよな、今の!」
はははっ、とすぐ近くで笑い声が聞こえ、見ると、襟足の長いチャラいお兄さんが口に拳を当て笑っていた。
「ゆーまさん、誰にでも口説くのダメっすよ~」
「口説いてない!変なこと言ったのは自覚あるけど、嘘はついてないぞ!」
そんな風に、再会を果たした。
森山君と一緒に買い物に行き、これから出勤するところだと話し、奢るから、と誘われるままにヴェンガムに行った。
カウンターには茶髪で長身、片耳に4つもピアスを付けている和人さんがいて、キッチンで料理をする森山君がいて、大好きなコーヒーの香りに包まれながら、西山くんと過去話や現況を話していて、気がついたら、仕事を辞め喫茶ヴェンガムに雇ってもらっていた。
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つかであきひろ
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ロボットの王
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コメント
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第8話、じっくり読みました。沙織さんの過去と現在が交差する構成にぐっときました。悠真くんが「静岡出身?」と軽く話しかけるシーン、あの自然な距離感の取り方が本当に素敵。仕事に疲れた沙織さんが再びあのコーヒー店にたどり着く流れ、胸が熱くなりました。登場人物たちの優しい関係性がじんわり沁みますね🌷