コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深夜2時。
静まり返った街の中で、俺が働くコンビニだけが、妙に明るく光ってる。
「セブンでもファミマでもローソンでもない」——なんか微妙な名前の個人経営っぽいチェーン。
店の名前は「24GO!(ニジュウヨンゴー!)」。
いかにも“頑張ってる感”がすごい。
俺はカウンターの中で、おでん鍋と格闘していた。
「大根2本、こんにゃく3、卵1……」
数を確認しながら、なんとなく思う。
——この卵、昨日も1個だったな。
横でタバコ補充してた相方のユウトが言う。
「なぁ、俺、気づいたんだけどさ」
「やめろ、夜勤で“気づいたこと”言うな。不安になる」
「昨日の夜も卵1個だったんだよ」
「うん」
「今日も1個」
「うん」
「つまり、“誰かが毎晩、卵だけ食ってる”んだよ」
「……あー、なるほど。で?」
「犯人、あのジジイだと思う」
その瞬間、ドアが「ウィーン」って鳴った。
冷たい風と一緒に、まさにその“ジジイ”が入ってきた。
頭に白いタオル、胸には“おでん愛好会”の缶バッジ。
完全に、卵のプロ。
「今日も、卵だけ!」
俺とユウト、顔見合わせる。
完全に確定演出だった。
ジジイがレジ前で待ってる間、俺はつい聞いてしまった。
「なんで卵だけなんすか?」
「若者よ、わしの体は、卵でできておる」
「え、ええ……」
「医者にも言われた。“もう少し卵を控えなさい”とな。
だがわしは、魂が許さんのだ!」
ユウトが小声で言う。
「いや、たぶん黄身のとこに魂こもってんだろ」
俺は笑いこらえながら、ジジイの卵を袋に入れた。
その後、しばらく客も来ず、店内は静かになった。
俺たちは、意味もなくホットスナックの棚を拭きながら、くだらない話をしてた。
「お前さ、将来どうすんの?」
「んー、金貯めてゲーミングチェア買う」
「夢ちっさ!」
そんなことを言い合ってると、突然「ピーーーーッ!」ってアラームが鳴った。
見れば——おでん鍋が沸騰してる。
しかも、卵が浮いて、まるで“爆弾の起爆装置”みたいにプカプカ。
「おい! 卵暴れてるぞ!」
「やべぇ、“ジジイの魂”が覚醒した!」
慌てて火を弱める俺ら。
だが、卵は止まらない。
ポンッ!と破裂音を立て、白身が飛んだ。
「うわっ、俺の名札に黄身ついた!」
「魂、直撃してんじゃねーか!」
その瞬間、再び「ウィーン」。
入ってきたのは、さっきのジジイ。
「……卵、爆ぜたか?」
「はい、少し」
ジジイはうなずき、静かに言った。
「ならば次は……大根の儀式じゃ」
俺とユウト、同時に固まった。
夜勤、マジで油断できねぇ。
店長にその話を翌朝したら、
「おでんの神様に触れたな。昇給はないけど」
って真顔で言われた。
俺は思った。
——この店、たぶん人間よりおでんが偉い。