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試合に負けたその夜、藍は部屋に戻ってすぐ石川の胸に顔をうずめた。
「ごめん、俺、あの場面で決められへんかった……」
「いいんだよ。責めてない」
「でも……俺、もっとできたはずやのに……!」
皆の前では必死に堪えていた気持ちが、石川の前ではあっけなく崩れていく。
「くやしい……っ……」
「泣いていい。俺の前だけは」
「……っ……祐希さん……」
胸元にぽたぽたと涙が落ちるたび、藍は石川の服をぎゅうっと握りしめた。まるでその温もりを少しでも強く、自分の中に刻みつけるみたいに。
石川はその頭を優しく撫で、片手で藍の頬に触れる。親指でそっと涙の筋をなぞりながら拭い取った。
「藍はちゃんと頑張ってた。俺が一番知ってる」
「ほんまに……?」
「本当に」
「よかった……祐希さんがそう言ってくれて……」
「うん」
「明日からまた……頑張る……けど……今は……もうちょっとだけ……こうさせて……」
「どうぞ。好きなだけ」
涙に濡れた藍の横顔を見つめながら、石川は胸の奥でそっと思う。
――泣き顔も、好きだ。
悔しさも弱さも全部見せてくれるのは自分だけ。その事実がどうしようもなく愛おしい。
しばらくそうしているうちに、藍の握る手の力が少しずつ弱くなっていく。
石川がふと見下ろすと瞼は半分閉じかけていて、涙の跡を残したまま浅い寝息を立て始めていた。
「……寝ちゃったか」
小さく笑ってそのまま藍を抱き上げベッドに横たえる。けれど藍は無意識に石川の袖を掴んだまま離そうとしない。
「仕方ない」
その手をそっと握り返し隣に腰を下ろす。静かな夜窓の外の街灯の明かりがふたりを優しく包んでいた。石川は藍の寝顔を見守りながら、ゆっくりと目を閉じた。