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15 ◇話し合いは決裂した
日曜の夜に 姫苺 からLINEで連絡が入った。
「しばらく帰らないけど、心配ご無用。宜しく!」と。
理由らしい理由が書かれてないこともあって、こんなことは結婚してから
初めてのことだったので正直戸惑いが大きかった。
ただ初めてのことだからこそ、妻の気持ちを優先させてやろうとの
思いもあり、快くOKを出そうと思い
「分った。十分リフレッシュしておいで。帰る時はまた連絡してください」
と返した。
しかし、1週間が過ぎても10日が過ぎても帰って来るどころか
連絡のひとつもなく、ようやくここにきて妻が帰ってこないのではないか
という不信感が芽生えた。
「 姫苺 、どうしてる? 流石に寂しいよ。何時頃帰って来れる?」
とヘタレなLINEを送った。
そんな風に羞恥心を捨てて送った自分の文面に対して送られてきた姫苺の返信は
『たぶん、もうそこへは帰らないわ』という非情なもので、俺は軽い眩暈を覚えた。
そして次のLINEでは……
「あなたの時間の都合のつく日と時間帯を教えて。
これからの私たちのことを話し会いましょう」
とあった。
どういうことなんだ?
浮かんだのは篠原のことだった。
姫苺 がもうここへは帰らないという理由は何なのだろう? と鑑みて
みると、篠原のこと以外には理由が見つけられなかったから。
俺は早く姫苺の話し合いたいという理由が知りたくて翌日を指定した。
翌日俺は休みを取り、万全の態勢で姫苺との話し合いに望むことに
した。
――― LINE TALK ―――
「おはよう、昨夜言った通り今日一日中でも話し合えるように
有給を取ったよ。
帰らないって言ってたけどそれって俺のほうに原因か何かあるのかい?」
「うん、そだよ!」
「それって何?」
「ほんとは気がついてるでしょ? 」
やけに思わせぶりな会話のスタートに、妙に俺はドキドキしてしまった。
「いや、イヤ……ちゃんと分かるように説明してくれないか?」
興信所から送られてきたふたりがキスしている写真を見たあの時から
私は夫との未来を切り捨てることに決めていた。
「私、知ってるんだ」
「頼むよ、勿体付けないで直球投げてくれないか?」
「私、前に何度かあなたと一緒に出先に付いていく女性のことで
お願いしてたよね?
気持ち良くないからやめてほしいって。
それなのにあなたは、やめなかった。
あれからもあなたは彼女を連れて外回りに行ったり、泊まりの出張に連れて
行ったりしてた。弁解の余地ないでしょ?」
「そのことは黙っていて申し訳ないと思う。ごめん。
だけどそれは仕事上のことで、彼女とは何もないから、信じてほしい」
「あなた、嘘つきになったんだね。とっても悲しいわ」
「いや、嘘なんて……ほんとに……」
「嘘をつく人とは人生を共に歩むなんて私には無理。
離婚する」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は急転直下な妻の『離婚する』の台詞に、腰を抜かさんばかりに驚いた。
母親の体調不良で実家に帰った妻。
帰る直前の夜には、学生時代の話だって聞かせてくれたじゃないか。
篠原のことで少し揉めたにしても、いきなりの離婚話になるなんて
俺にとっては晴天の霹靂だった。
「こんな些細なことで離婚なんて、おかしいよ。
俺は 姫苺 と離婚なんて絶対しないから。
俺と彼女のことは 姫苺 の妄想激しい勘違いだから」
「冬也の嘘つきぃ~。嘘つきは嫌いだよ」
ふんとにぃ、コイツ私が……何も知らないと思って浮気を
なかったことにしようとしてるよね。
片腹痛い!
私が夫のことをお腹の中で呼ぶ時、コイツ扱いになってることを
知ったら慌てるだろうなぁ~。
いっそのこと口にも出してやろうかしら……コイツって!!
「嘘じゃないさ。
俺は 姫苺 が世界中で一番好きなんだから、他の女性と
浮気なんてあるわけないだろ?」
「そう、じゃあもう決裂だね。話し合いももう必要ないね。
ね? 素敵な画像を4枚送るわ。
私からのプレゼント、じゃぁね」
「ちょっ、話し合いはまだ始まったばかりだろ? 待てよ!」
そして姫苺 から数枚の画像と一行のつれないメッセージが送られてきた。
「あの女性が好きなんでしょ?
いいよ、私邪魔しないからあっちへ行けば!」
それは 姫苺 に、妻にだけは決して見られてはいけないモノだった。
仲良くふたりで並木を歩く俺と篠原の姿……
レストランで食事している俺と篠原の姿……
俺の頬に篠原がキスしている俺と篠原の姿……
とどめが
俺から篠原にキスしている俺と篠原の姿……
詰んだな……。
もうこれで自分のペースになど持ちこめないことをその日、俺は悟った。