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2.星の呼吸
登場人物
時透無一郎 霞柱、記憶を失っている。
琴織星夏 新しい柱、星柱元より命柱。
_____________
だいぶ鬼の気配がしてきた。もう少しで着くはずだ。あの子はいきているのかな
…なんでこんなことを考えてるんだ
__見つけた、鬼だ。星夏もいる。一匹は下弦の参…勿体振ってだらだらと彼女に話かけている。ぼくは様子を窺い茂みに隠れた。
星夏「…(構えをとる)」
どきっとした。さっきまではずっと優しい笑顔を向けていた星夏は、金色の目を光らせ鋭い目つきで鬼を見ていた。目だけに軽蔑の気配を感じさせ、いままでのような落ち着いた雰囲気は保ち、憎しみを表に出さない。
鬼五「人間なんてすぐ死ぬんだからよお、せめて抵抗せずに殺されれば痛くしないぜえ」
星夏「…(かすかに刀を抜く)」
鬼一「なんとかいったらどうなんだよ。弱さしか取り柄がない人間が」
星夏「…」
鬼二「なんとか言ったらどうなんだ💢」
鬼三「なまいきなっ!」
鬼たちが一気に飛びかかるっ。俺が刀を抜こうとしたその時、
星夏「星の呼吸 壱の型 ほうき星」
シュバッ…!
ぼく「_っ!」
その一瞬、彼女は目にもとまらぬ速さで攻撃した。これが彼女の編み出した星の呼吸…その速度と無駄のない綺麗な大きい横切りに思わず目を疑った。ここまでの実力とは思ってもみなかった。柱でもこんなに綺麗に高速移動で切りをする人を見たことがない。高速移動斬撃が特徴の霞の呼吸の使い手の俺でもできない。
この一撃であっさり全員の首を切り鬼は消滅。彼女はじっと鬼の残骸が消えるのを見た後帰ろうとしていた。
一撃でこの量の鬼を倒すなんてあり得るのだろうか。これが十人目の柱…。
なぜだろう。彼女が銀色の髪を揺らして歩き始めたとき、このまま離れてはいけないと思った。
すると
知らず知らずのうちに、ぼくは彼女の手を掴んでいた。
ぼく「ねえ、きみ随分前にどこかであった?」
自分でも咄嗟に人の手を掴み、こんな唐突な発言をしたことに変な感覚を覚えた。
星夏「え?時透さん?なんでここに?どこかの任務で会いましたっけ?」
話しかけると彼女はびっくりしていた。気配を消していたから当然か。
改めて彼女を見ると月夜の光に照らされる銀髪が流れ星のように美しく反射し、金色の瞳は昼間に増してさらに輝いていた。
精霊みたいだった。
ぼく「いや、なんでもない。なんだっけ…ここの鬼の被害がすごいっていうからきた。でももう倒したね。はやくもどるよ」
星夏「あっ、あの。改めてよろしくお願いします」
ぼく「邪魔なことはしないでね。面倒くさいから。
…きみ稽古でいい相手になりそうだな。
やる事ないなら一緒に稽古しようよ」
これだけの実力、相当いい相手になるだろうし、どうせ少しの間生活することになるなら、一緒に修行したほうがお互い効率はいい。それに彼女といると何かが変わってくる気がする。もっと近づいてみたいと思った。
星夏「本当ですか!?私で良ければ喜んでお願いいたします!」
ぼく「じゃあ決まりだね」
________________
そう時透さんとお約束して
お屋敷に戻ってきたが、玄関に入るなりいきなりカラスが飛んできた。時透さんのカラス、銀子さんだ。なにかはなしている。
時透さん「_急遽任務入ちゃったから稽古は明日にするね。
きみは今日はもう任務がないから暇でしょ?家事お願い。」
私「え?私ですか?でも…」
時透さん「きみ以外だれがいるの?
やる事が増えてぼくが任務に行くのが遅くなる度救えない命が増えるんだよ」
私「そうじゃなくて、私以外にこの屋敷は使いも誰もいないのですか?」
時透さん「いつもぼくひとりだけど?他の人がいても集中できないし、とっととはじめて」
バシッ
そういって箒を投げつけて、彼は出て行ってしまった。彼は鍛錬と任務のためあまり人と関わらず、最低限のことしか話さないらしい。私はなるべくはしつこく話しかけず、会話は無駄にしないようにしようと思った。
心配だった。きっと彼にも事情があり、鬼を倒すことだけに一身を注いでいるとわかった。時透さんのためにも頑張らないと…
その日はとにかく屋敷の間取りを覚えて掃除に勤しんだ。そして翌朝、時透さんに話しかけられた。
時透さん「来て」
私「はいっ…!」
稽古をするようだ。木刀持ってるから。私と時透さんは道場に着き、お互い木刀を構えたところで対峙を始めた。
かっ!かつっ!
時透さん「(速い…速さについていけない
ほとんど攻撃があたらないし
でも__)」
始めての稽古。柱の人とは始めて手合わせした。私の特異な速さと守備の強さに最初は守備しか取れなかったが、さすが柱(わたしも柱だけど)強い。他の隊士とは比べものにならない。この若さで_(私も同い年だけど)
しゅんっかたっ!
がっ!
私「っく!」
何時間かして時透さんは私に攻め入れらるようになり、昼頃には私が一方的に責められるようになってきた。
かつっ!
しゅん…
また視界から消えた。気配をたどれ…
びゅんっ…
また後ろ!でも
ひゅっ!
がたっ!
びゅんっ
がっ!
っつ、また近距離を取られた。木刀が折れそうな程力強い…。彼の攻撃力を利用して跳び、また距離を置いて早技をしようとしたが_
時透さん「霞の呼吸漆の型 朧」
一歩遅かった。時透さんの気配の消し方はとても上手で、霞の呼吸漆の型には特にすごい。動きのなめらかさで惑わすように視界から消えるし何度も近距離のまま攻められてしまう。近距離が苦手という私の弱点がもう分かったみたい。
シュンッ
私「またきえた(キョロキョロ周りを見る)これが霞の呼吸の使い手…。」
びゅん!
そこだ!ちがっあれ?まずい
しゅん
あっち? ちがう…
時透さん「きみ近距離に弱いね」
私「!?」
時透さんは真後ろにいて、私の耳元で呟いた。…声変わり中なのにこんな低い声だな
_なぜか心音が聞こえてくる。
それにこんな近くにいたのに気づけないなんて、恥ずかしくて耳が熱くなった。
時透さん「なんで肌の感覚を使わないの?視界から消えたり気配を消せる相手に不利になるだけだよ。きみの実力ならそれくらい分かるでしょ」
私「ですよね…」
かっ!
かつっ!
時透さんはすぐに私の弱点を見極めて、その後も容赦なく木刀を振り続けた。私も技術面に関してはそう悪くないけど、時透さんの気配の使いこなしと身のこなしに押し負けていて、彼の情報処理力、適応力に憧れた。
かっ!
しゅん
かきんっ!
時透さんは視界からいなくなっても攻撃は受け止められるのだが、気配を消す上手さでどうも一方的に責められ対応が難しい。どこを向いても必ず背後を取られる。
しゅんっ!
また背後を取られ一撃を振り、私が受け止めると、時透さんは攻撃をやめた。もう夕方前だった。
時透さん「きみの作った星の呼吸はすごい流麗で相当努力したんだろうね。集中が一瞬でも途切れたらもろに攻撃を受けてた。でも、肌の感覚を上手く使えてれば
一発くらい当てられるのにね」
そうだよね。肌で感じる…か…
でも私にはできないんです、時透さん
私「…参考になります。ありがとうございます」
時透さん「もう今日の対峙は終わりにするから。一人でも鍛錬したいし。まあいい修行になったから次もお願い。」
私「…承知しました!失礼しますペコッ」
そう言って礼をし、道場を出た。
タタタ…
時透さん「…」
その後も時透さんは一人で道場にいた。夜はすぐ任務かな?じゃあ夕食を作ってあげたほうがいいかな?
彼が一人で稽古している間に屋敷の間取りを覚えほどんどの部屋の掃除をして、夕食を作って置いておいた。明日の朝食の準備もして…よし、終わった。後は任務だけ。
一日目にしては上出来だろう。
明日も早くから稽古だろうから今日は入浴して仮眠してから任務に行こうかな。
そうしてお風呂にはいった。
ポチャンッ
私「ふぅ…温かいな」
お風呂ってどうしてこんなに気持ちいいんだろ、体の芯がよく癒える。
もしかしたら、感じ良れるのかな?
…もう一回試してみよう
私「せーのっ…ぶくぶくっ」
息を止め水の中に完全に入り込んだ。十分間そうしてたが__
肌に熱を感じることはなかった。
バシャッ!
私「ぱぁっ!だめだ、熱がほとんど感じない…。」
私はあるときから触覚がない。それどころか筋肉や骨などの体内の感覚もほとんどない。そのせいで空気の流れが分からず、気配を感じ位置を特定するか目で相手の動きを見ないと攻撃は出せないのだ。また触覚がないせいか脳が麻痺し運動量に全く比例せず筋力もつけられない体になった。
星の呼吸は私のように触覚がなく、筋力はあっても筋肉量が少ない人しか使えない私だけに合ったような呼吸だ。相手との絶妙な距離、戦闘での勢い、速さを利用して流星のような速さと勢いにより首を切れる。なので速さは誰よりも速いと自信がある。
しかし弱点はさっきのように視界から相手が消え気配を消されたとき、近距離でつめられること。近距離では攻撃に威力がつけられずそのまま責められてしまう。
いつも目と気配だけに頼り、全ての五感を使えずで相手と戦うしかないので時透さんのような気配を感じない、速く動く鬼は厄介。結局上限のような鬼には勝てなくなるんたみ。もっと鍛錬してそれを補わないと。
時透さんが道場から出てきた音がした。そろそろ出よう。
ん?待ってそのまま
これこっちにきてなっ
ガラッ
時透さん「入ってたんだ、はやくでてくれない?ぼく入りたいから」
私「ひゃっ!…時透…さん。すみません今出ます」
ガラッ
閉めてくれた。それにしても首からしたお湯に浸かってて良かった…
時透さん「君…顔真っ赤だけど大丈夫なの?熱三十九度ぐらいありそう」
硝子扉の向こうから時透さんが言った。
私「えっそうなのですか?」
やっぱり自分では不調に気づかない。だから怪我や風邪をひくと知らず知らずに移してしまうんだ。
時透さん「きみ__もしかして」
バスタオルを巻き急いで外へ出た。
私「ほんと失礼しました汗」
着物を持って行って部屋で着換えた。
時透さん「…」
またその翌朝、時透さんのお屋敷に来て三日目のこと。お米を炊いてお肉を焼いていると時透さんが起きてきた。
時透さん「それ、なに?」
私「時透さん!おはようございます、朝食を作っています!お肉ですよ。」
時透さん「昨日も作り置きしてたけど、料理得意なの?」
私「料理はある程度できます。お気に召さなかったらごめんなさい」
そういって豚の生姜焼きをちゃぶ台に並べる。時透さんはただじっと作ったものをみていた。
私「…いただきます」
私がそういうと時透さんも
時透さん「いただきます」
とてを合わせてくれた。そしてもぐもぐ料理を口にはこんだ。どきどきっ…
時透さん「…」
私「(味大丈夫かな…?)」
時透さん「もぐもぐもぐもぐ」
めちゃ口に入れて食べてるから大丈夫そうだ(?)。
時透さん「ごくっ、ねえ今日の夜ご飯もこれにして。あと、任務以外でぼくが屋敷にあるときは洗濯と掃除できるからやらなくていい。でも料理はきみお願い。」
私「…!承知、しました!」
きっと美味しかったんだと思った。なんだかんだ認めてもらえたようで嬉しかった。
私「そういえばあの…今日の任務なのですが時透さんと一緒なのでよろしくお願いします。」
時透さん「そんなこといちいち言わなくて良いよ。そんな気にすること?君ってなんだろう…なんか変だよね。」
時透さんは口調が強くて発想が合理的だけど、なぜか怖くなくて、逆に安心できる。
確かにそんな私は変かもしれない。
私「そっそうですか?」
時透さん「でも…どこかであったことがある気がするんだ」
私「…」
いつも簡単なことはすぐ忘れて、瞳に霞がかかったように光がない彼は__
もしかして…
私「時透さんは…
憶喪失なんですか?」
時透さん「え?」
時透さんは初めてちゃんとした表情、驚いたような顔を見せた。図星なんだと分かった。一瞬、いつも光のない彼の目に、いまだけ輝きがあった気がした。
時透さん「なんで分かるの?」
私「大切なものを失って、自身にも何かが欠けてしまう気持ちは分かるんです。とにかく体が覚えている感覚のままに生きている…そんな察しがつきます。」
時透さん「きみ本当に不思議」
私「えっ、悪い意味で…?」
時透さん「わからない」
なだろうと不安に思いながらも食べ終わり、席を立った。
それから…
時透さんのお屋敷に来てから何週間かたっただろうか。相変わらず稽古と任務の日々だ。柱同士での鍛錬はやはり効果的で、時透さんは私の高速移動についてくるように、私はわずかな気配から大まかな位置を察知し、瞬時に相手の動きを予測することで時透さんの動きを読むことができるようになってきた。任務ではしのぶさんが一緒に行動してくれていて、すごく安心したし、仲も良くなってきた。そんな充実した日々の中…
問題なのは…
かつ、かっ!
時透さん「ねえなんでぼくの心をよめるの?」
稽古のたび私が心を読む超能力者みたいに毎回この質問をしてくることだ。自分でも体験したことに共感して言っただけだし、偶然だと言っても何度も聞いてきた。よくわからないけどやっぱり記憶のことについては知りたいのかな?本当なら仲を深めるためにも何でも話してあげたい…でも過去については言えない…。
時透さん「きみも記憶を失ったりしたことがあるの?」
かっ、かっ!かっ!
私「…違います…偶然ですってば」
かち!かっ!
ずっとずっと、そればかりで…真剣に、純粋に聞く彼の目に打ち負かされそうになる。
時透さん「おねがい お願いだから
どうして分かるのか教えてよ」
私「だから__」
かちっ…
そのとき、かすかに記憶がよみがえる
『…おねがい』
『お願いだから』
『行かないで…』
『せなっ』
だれだろう?幼い子供の声だ。どこかで…。何年前のことだろうか、過去を思い出しているっ___怖い、苦しい。
呼吸が乱れる
私「はぁ…はぁ…やめて…っ」
時透さん「…?」
かっ、かっ
時透さんの攻撃をおさえられなくっ…
私「…!」
ががっ!
私「…っ」
もろに攻撃を受けた。痛みはないけど痛々しい。
時透さん「大丈夫?」
私「はい…ただの内出血です」
時透さん「…しつこく聞いてごめん。集中を背けてたよね」
私「いえ、気持ちは分かります」
時透さん「…そんな怖がらなくてもぼくは別に」
時透さん「消えたりしないから」
私「…っ!?」
どうして そんなことを…?
私は人から深入りされるのが怖い
昔を思い出すと
地獄のような苦しみが
蘇って
目の前のあなたも
消えてしまいそうで…
私を見下ろす時透さんは相変わらず無表情だったが、同情の目が、ほんの少しだけあった気がする。その目が美しかった。あなたとならわかり合えるだろうか。触れられても、怖くなくなるのだろうか___
時透さん「(なぜだろう。なぜか君の気持ちが分かった気がした)自分の手当は十分にできないでしょ。布持ってくるから待ってて」
やっぱり時透さんはいい人だ。
星夏「ありがとう…」
でも一粒だけ、涙が出た。