テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
仕事帰り、気づけば足が向いていたのは、彼女とよく通った海沿いの公園だった。
ベンチに座り、目を閉じる。潮風の匂いが鼻をかすめる。かつては波の音や、風に揺れる松の木のざわめきが心地よかった場所。今はただ、肌を撫でる風の質感だけが、そこにある命の証拠だ。
ポケットの中で、カセットプレーヤーが重い。
第1章で聞いたあの留守電。実は、あのメッセージの後には続きがある。
『……あ、そうだ。あのね、言い忘れてたけど』
彼女が何かを言いかけたところで、テープは激しいノイズに飲み込まれる。事故の衝撃か、あるいは経年劣化か。肝心な言葉が、砂嵐のような音に書き消されてしまっているのだ。
「……っ」
僕は声にならない声を漏らし、喉を押さえた。
彼女はあの時、何を伝えようとしていたんだろう。
「ごめんね」だったのか、「ありがとう」だったのか。それとも、もっと別の、僕を縛り付けるような言葉だったのか。
答えの出ない問いが、頭の中でノイズのように渦巻く。
ふと横を見ると、小さな女の子がシャボン玉を飛ばしていた。
パチンと弾ける音。僕には聞こえないけれど、その瞬間、女の子が寂しそうに笑ったのが見えた。
形あるものは、いつか壊れる。
音だって、記憶だって。
僕は震える指で、テープの「巻戻し」ボタンを押し込んだ。